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7、幼稚な心

「この魔物の買取価格って、幾らですか?」


 呆然と魔物の塔を見上げる男に、俺は何事もなかったかのように淡々と話しかける。


 自分でも意外だが俺は結構腹が立っていたようだ。こんな幼稚な事をして少し自己嫌悪を感じるが、面倒臭いと言われた仕返しをしたかった。


「そうじゃないだろ。ーーーいつ、こんなに持ってきた。俺は、お前が持ってくるところなんて見てないぞ」

「あぁ、さっき運んから積んだけど」

「はぁ? それはないだろ。俺はずっとここで見てたんだぞ」

「包丁を研ぐのに夢中で、気が付かなかったんじゃないのか。だいたい人の話も聞かないで、適当な対応するから気付かなかったんだろ」

 

 嫌味だと分かっていても、腹が立っていたので思わず口からどんどん溢れてくる。


 男が何を言おうが関係ないし、俺の知ったこっちゃない。それに、冒険者ギルドだって、王都だけではないだろう。 


 だいたい男の言う通り台の上に積み上げただけなので、文句を言われる筋合いはない。


「確かに、包丁を研いでいたが、ーーーそんなに夢中になっているわけないだろ」

「兎に角、言われたとおりに台の上に乗せたんだから、早く買い取ってくれ」

「あっ、おぉ、ちょっと待ってくれ」


 魔物の塔を見上げる男は、どうしたものかと悩んでいたが、暫くして奥の部屋からハシゴを持ってきた。


 ハシゴを魔物に立て掛けて一体ずつ降ろそうとしてるが、相手は軽く見積もって二百五十キロ以上はあるし、大物だと三百キロはゆうに超える。


 簡単に降ろせるわけがない。

 

「少し待っててくれ、すぐに降ろすから」


 ハシゴを魔物に掛けると、積み上げられた魔物がゆらゆら動き、今にも倒壊しそうでかなり危険な状態だ。


「もう良いよ、置く場所を教えてくれたら、俺が降ろしやる」


 涙目になりながらも必死で魔物を降ろそうとしている男を見てると、あれっぽっちの事で腹を立てる自分が物凄く嫌になってきた。


 はぁ、俺はリリの前で何をしているのか、流石に自分が情けないだろう。


 俺はアイテムボックスを使い、魔物を収納する。


 突然魔物が消えたので、男は再び男が大騒ぎするが、俺の魔法だと適当に説明すると、この世界には一番不思議な魔法があるので簡単に納得してくれた。


 日本だと有り得ない事が、異世界では普通なのだ。


「悪かったな、兄ちゃん。あんな凄い魔法使いだったとは、驚いたよ」

「いや、俺も悪かった。はぁ、幼稚過ぎる」

「そうじゃない、俺の態度が悪かったんだ。ーーー冒険者は、それくらいの態度が丁度いい。舐められたら、冒険者なんかできねぇからな」

「そう言ってもらえると、ありがたいよ」


 言われた場所に魔物を移動しながら話をしていると、彼は意外と良い奴で好感が持てるようになるから不思議だ。


 まっ、出会った時は最悪でも、意外と付き合う男女もいるから似たようなものか。


 おっと、前もって言うが、俺にその気はないからな。


 すっかり態度が良くなった男だが、尋常じゃない魔物の数を目の前に溜息を吐き、奥の部屋から仲間を三人連れてきて査定を始めた。


「お兄ちゃん、時間かかりそうだよ」

「そうだね、先に買い物に行く?」

「その方が良くない?」

「分かった、出かけても良いのか聞いてみる」

「うん」


 四人で査定をしてくれてるが、何か問題があるらしく時折四人で話し合っていて、一向に査定が終わる気配がない。


 魔物は核だけ抜き取った状態なので、見た目は生前と同じだから問題は無いと思えるが、リリの言う通り先に用事済ませたほうが良さそうだ。


「あの、時間かかりそうなら、先に買い物に行きたいけど、良いかな?」

「あっ、そっか。分かった。えっと、ちょっと待て」


 男は俺の顔を不思議そうに見つめていたが、何も言わずカウンターの中に入って紙きれを一枚持ってきた。


 どうして男に見つめられるのか気になったが、彼に「なぜ見つめるのですか」と聞く勇気はないので何も言わないでおく。


 変なこと言われても困るし、おっと、何度も言うが、俺にその気はないからな。


「これにサインをしてくれ。それと、念の為にギルドカードも見せてくれ」


 男に言われた通りサインをして、ギルドカードを見せる。


「これで良いか」

「どれ、ーーーあぁ、これで良い」

「じゃ、行くわ」

「終わったら受付に話しとくから、そっちでお金は貰ってくれ」

「分かった。それと、受付のポニーテールのお姉さんの名前を、教えてくれ」

「あん? なんでだ、あいつは胸が大きくて良い女だが、既婚者だぞ」

「お兄ちゃんは、お姉さんの事が好きなの?」


 男が変なことを言うから、リリまで疑いの眼差しを向けてくるじゃないか。


 確かにお姉さんの胸は大きいが、大きければ良いと言うものでもない。


 俺は、小さくても形の良いおっぱいが好みだ。おっと、何を言わせる。


「そうじゃないと毎回、お姉さんと呼ぶのもどうかと思うし、今更名前も聞けない。分かるだろ」

「あぁ、なるほどね。スーランだ」

「本当に好きじゃないの?」

「当たり前だろ、リリも一緒になって何を言ってるんだよ」

「なら、別に良いけど…… 」

「アハハハハ、お嬢さんも大変だね」

「………… 」


 男が何を言ってるか意味が分からないが、リリも顔を真赤にしないで何か言え。てか、俺のフォローしろよ。


 リリには色々言いたいが、お姉さんの名前が知れてたのは良かった。


 喉に刺さった魚の骨が取れたようにスッキリした俺は、受付のスーランの所に行くと雑貨店の場所を詳しく聞いてから冒険者ギルド後にする。


 雑貨店に行く途中、俺はあることに気付いてしまった。それは男の名前を聞き忘れていたことと、今更聞けないことだ。


 今度は、誰に聞こうか……


 兎に角、雑貨店に無事にたどり着き、詰替え用の袋や小瓶、樽などを手に入れたので、これで明日からリリにお願いして詰め替えをしてもらう。


 これでリリも役に立つと機嫌が良くなり、俺は日本の商品をこの世界の商品に誤魔化して販売することができる。


 冒険者ギルドに戻り受付に行くと、スーランが俺の顔を見るなりカウンターから飛び出してくる。


大翔(ひろと)さん、お待ちしてました」

「えっ、どうしたのですか?」

「ギルド長が、魔物の査定のことで話があるようなので、一緒に来て頂けますか?」

「別に良いけど。リリも一緒で良いか?」

「勿論です」


 スーランのいつもとまったく違う態度に、良くない事態を想像した俺は、すぐにリリの手を握りしめる。


 何かあったら、すぐにテレポートでマンションに逃げるためだ。


 彼女の案内で俺とリリは、ギルド長の部屋へと向う。


 初めて冒険者ギルドの職員専用通路を通ったが、なんとなく市役所の雰囲気に近いと思った。


 言葉遣いは、冒険者ギルドのほうが適当な感じがするが、職員が行う作業はお役所仕事に似ている気がしたからだ。


 階段を登り、更に奥の方に歩いて行くと、突き当りに茶色の扉がある。それがギルド長の部屋の扉らしい。


 スーランは扉を開けて、俺たちを部屋の中に案内してくれる。


「初めまして、ギルド長のドーゴンだ」

「初めまして、俺の名前は、大翔です。この子は、リリです」

「リリです」


 身長も高く、ガテン系の体格に、坊主頭と、見るからにヤバそうなのに、右頬に大きな刀傷があるから、余計に見た目が怖い。


 リリなんて、俺の後ろに隠れて出て来なかった。



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