77、ドキドキ。
お兄ちゃんの事が大好きだけど、お兄ちゃんはリリの事を子供としか見てくれない。
だってリリは十二歳で、お兄ちゃんは二十六歳だと言ってた。
十四も年が離れているのに、リリの体は同い年の子よりも成長が遅れているらしいから、余計に子供扱いされる。
お兄ちゃんの事が大好きだというリリの気持ちは、他の誰よりも絶対に負けないつもりだけど、お兄ちゃんはカッコ良くて優しいから他の人に奪われないかと心配になる。
そういえばお父さんが話していた、王国では十三歳から大人扱いされると……
後一年我慢すればリリも大人になれると、当時のリリは思っていたけど、今日からリリも十三歳で大人になれたはずだけど……
リリを見るお兄ちゃんの目も、少しは変わったのかな?
今思い返してみても、お兄ちゃんと知り合ってからは凄い冒険の連続だった。
盗賊に襲われて死にそうになった時もあるけど、その時もお兄ちゃんが助けてくれた。
あの時はお兄ちゃんも大怪我をしたので、リリも必死にヒールの魔法を使ってお兄ちゃんの治療をした。
お兄ちゃんの…… は…… ちょっと、恥ずかしかったけど、治療できて良かった。
それから、お兄ちゃんが商会を作ると言って、奴隷を買に行ったこともあったけど、裸の綺麗な女の人ばかり紹介されて、もう、あの奴隷商の人、今考えても本当に頭にくる!
リリの必死の抵抗で、なんとか女の人を奴隷にすることはなくなったけど、お兄ちゃんは優しいから今でも気を抜くと直ぐに女の人が近寄ってくる。
お兄ちゃんの優しいところをリリは好きになったので、お兄ちゃんの優しさを否定したくはないけど、近寄ってくる女の人が本当に多すぎて困る!
勿論お兄ちゃんに近づく女の人を遠ざけるのは、本当は悪い事かもしれない……
でも、お兄ちゃんを誰にも渡したくないし、いつかリリとけ、け、け、け、結婚してほしい。
だから、お兄ちゃんに嫌われない限り、絶対に女の人をお兄ちゃんに近づけたりしない。
そのためにリリは、必死になってお兄ちゃん大好きオーラを出していて、他の人は直ぐに気付いてくれるけど、肝心のお兄ちゃんは全然気づいてくれない。
未だに子供としか見てくれないのかな?
ただ、最近はリリを会社の副社長にしたり、リリの事を女子として言ってくれたり、ちょっとだけ進展してる気もする。
そして今日は、もっと進展して見せる!
★ ★ ★
「えっ、記念撮影の相手の男性は、モデルさんかスタッフがするんじゃないのですか?」
「いえ、そうではありません。花嫁さんと花婿さん、両方の記念撮影となっております。ですから、参加者も男女同伴になっているのです」
「あぁ、そういうことですか…… 分かりましたけど、少しだけ待って頂けますか? すぐに確認を取ってきますので」
「畏まりました。ですが、なるべく早くお願いします」
さっきからお兄ちゃんが係りの方と話をしていたけど、ようやく終わったみたい。
でも、何かあったのかな?
お兄ちゃんが、なんだか困ったような顔をしている。
一緒に暮らし始めて半年程度だけど、リリはお兄ちゃんが何を考えているのか、顔の表情でなんとなくだけど分かるようになった。
例えば凄く悩んでいるときは、少しだけ眉間に皺が寄る。ほんの少しだけど、リリには良く分かる。
次に、怒っている時のお兄ちゃんだけど、ジッと見てたら目尻がピクピク動く。
そして戸惑っていたり困った時などは、少しだけ眉毛が垂れる。
今回は眉毛が垂れているので、なにか困った事が起きたのかもしれない。
「リリ、記念撮影の事だけど、スタッフの話だと記念撮影の相手はモデルではなく、同伴の人になるらしいんだよ」
「それって、お兄ちゃんって事だよね」
「あぁ、そうらしいんだよ」
そんなの当たり前じゃない、だってチケットに書いてあったんだから。
それに、他の人との記念撮影なんて、リリ嫌だもん。
「どうする? 止める?」
「なんで?」
「だって、お兄ちゃんが相手なんだよ、興覚めしない?」
「ううん、別にお兄ちゃんで良いよ。だって、ウエディングドレスを着た写真が撮りたいだけだから」
ああぁぁ、どうしてここで、お兄ちゃんが良いって言えないのかな……
お兄ちゃんと一緒に撮りたいって言えれば、もっと先に進めるのに。
でも、もし変に思われたら嫌だし……
今の関係も壊したくないし……
「そっか、それなら係りの人に話してくるよ。早く着替えて記念撮影しないと、公演の時間もあるからな」
「うん」
お兄ちゃんが係りの人と話をしたと思ったら、すぐに係りの人が集まってきて、リリは花嫁さん専用のお部屋に案内された。
花嫁さん専用のお部屋には、二着のウエディングドレスがハンガーに掛けれれており、それ以外には大きな鏡と、良く分からない絵の具の筆のような物が沢山有った。
「キャァー、ねぇ、何歳?」
「今日、から、十三歳です」
「そうなんだ。すっごく可愛い花嫁さんだけど、相手はお兄ちゃんで良かったの?」
「うん! お兄ちゃんの、こと、大好きだから…… 」
「えっ、そうなの…… そっか、そうなんだね」
「うん…… 」
やっぱり日本では十三歳はまだまだ子供で、王国のように大人とは思われないんだよね。
王国で十三歳なら、もう結婚できる年なんだけどなぁ……
「お兄ちゃんのことが大好きなら、すっごく綺麗になって、お兄ちゃんをビックリさせようか」
「うん! お、お願いします」
綺麗になったらお兄ちゃん、お嫁さんにしたいと思ってくれるかな?
えへへへ、ちょっと楽しみ。
「住野さん、子供用のドレスは二着しかないけど、どれにしますか?」
「ああ、そうだった。子供用のドレスだと、この二着しかなかったんだ。ねぇ、前に背の低い人が作ったドレスがあったじゃない、キャンセルになったやつ。あれ、どこに有るの?」
「ああ、あれは確か、レンタル専用になったと思います」
「そっかぁ。ねぇ、もし誰も借りてなかったら、持ってきてくれる? リリちゃんに着てもらうから」
「えっ、でも、あれは子供用の衣装じゃないからフリフリも少ないし、シックな雰囲気は出ますけど子供らしい可愛らしさは出難いと思いますよ」
「だから良いんだよ。ねぇ、リリちゃ。リリさんも、そっちが良いと思わない?」
「うん!」
思わず大声が出た。
大人の女性として扱ってくれる係りの人の優しさが、凄く嬉しかった。
「そっか、そうだよね。ウエディングドレスは大人の衣装だもんね」
そう言い残すと、もう一人の係りの人が勢いよく扉を開けると、走って部屋を飛び出していった。
それからは大変だった。
首元から先に化粧をすると、そのままウエディングドレスに着替えて、髪の毛をセットしながら顔に化粧をしてくれる。
沢山の筆は、全部化粧道具でビックリした。
あんなに沢山の化粧道具なんて、お城のお姫様でも持ってないと思う。
日本で生まれた女の人は、全員お姫様みたいだね。
「さて、このベールを被せたら、大人の花嫁さんだ」
「リリさん、凄く綺麗になったから、旦那さんを呼んでくるね」
「あ、ありがとう」
この後はお兄ちゃんがリリを迎えに来て、そしてチャペルで一緒に写真を撮ったら終わりか。
ちょっと淋しいな……
「リリ、準備できた…… か…… 」
「どう、お兄ちゃん?」
「うん、凄く綺麗だよ」
「やった!」
「凄く綺麗だから、やっぱり相手はモデルのほうが良かったかなぁー。リリが綺麗すぎて、お兄ちゃんビックリだよ」
「えへへへへ。でも、相手はお兄ちゃんの方が良い」
「そ、そっか。それなら、腕でも組むか」
「うん!」
どうしよう…… お兄ちゃんが凄く綺麗って言った!
リリの顔、赤くなってないかな?
なんか緊張したら、顔が火照ってきちゃった。
それに、なんかいつもと違う……
あっ、今日はヒール履いているから、お兄ちゃんの顔が近いんだ!
腕を組んだお兄ちゃんの顔が、いつもと違うところにあるだけで、なんだか胸の鼓動が大きくなった気がする。
お兄ちゃんに気付かれてないよね。
気付かれていたら、ちょっと恥ずかしいけど、気付いて欲しい気持ちもあるかな……
もう、分かんないよ!
「こちらで写真を撮りますので、お二人並んでください」
「ほらリリ、こっちに来て」
「うん!」
うわぁあー、ついにお兄ちゃんと……
「もう少し近寄ってください」
「こうですか?」
「お兄さん、リリさんを抱き寄せるようにしてくれますか?」
「えっ、こうですか?」
「もう少し強めでお願いします」
「こうですか?」
「はい、撮ります!」
ああぁぁあああー! お兄ちゃんに抱き寄せられるたびに、胸が爆発しそうだよ!
「リリさん、もっと笑顔でお願いします」
笑顔、笑顔、笑顔! せっかくお兄ちゃんとの結婚写真(仮)なんだから、綺麗な笑顔で撮らないと勿体ない!
アハハハハ、リリ、引き攣ってないかな……
笑顔の作り方、忘れちゃったよ……
でも、幸せ…… ♡




