75。策略。
「「「お誕生日、おめでとう!」」」
「えっ? なんだこれ」
「お兄ちゃん、お誕生日おめでとう」
後ろから俺の正面に回り込んだリリが、笑顔で声を掛けてくる。
どうやら先程の破裂音は、クラッカーの音だったようだ。
だが、俺の誕生日は、一ヶ月後だ!
「いや、俺の誕生日は一ヶ月後だけど?」
「えっ、うそ! だって麗華さんが、お兄ちゃんの誕生日は今日だって…… 」
「いや、本当だって。ほら、免許証」
「あれ? 本当だ。ー--ねぇ、麗華さん、もしかして、間違え、た?」
「そう? 間違えてないと思うけど」
「でも、お兄ちゃんの、免許証を、見たら、違う日だよ?」
「えぇ、間違えてないよ。ねぇ、みんな」
俺と麗華さん達三人は、お互いに顔を見合わせてタイミングを計ると、一斉クラッカーを弾かせながら声を合わせる。
「「「「リリさん、お誕生日おめでとう!」」」」
「なになになに? いったい、どう、したの」
よし、上手くいった!
「リリ、今日がリリの誕生日と決めた!」
「えっ、どうして勝手に?」
「だって、この前誕生日を聞いたら、寒くなる少し前くらいって言ってただろ」
実は異世界では誕生日を祝う習慣がなく、それどころか生まれた日を覚えている人もいないとリリが話していた。
当然だがリリも誕生日を覚えていなかったので、それなら勝手に決めたら良いと考え、最初は俺一人でサプライズを考えたが、リリが毎日一緒にいるので直ぐにサプライズが無理だと分かった。
そこで麗華さん達に相談したら、それなら俺の誕生日だとリリに嘘を吐いて、リリが俺の誕生日の準備をしている間に、俺もリリの誕生日の準備をしていたわけだ。
お陰で誕生プレゼントも買いに行く事ができたし、リリにサプライズを仕掛けることもできた。
「言ったけど、正確な日にちは…… 」
「別に正確な日にちは要らないだろ、年に一回だけお祝いしたら良いんだからな」
「えぇぇええー、そんな簡単に決めて良いの?」
「知らないんだから、仕方ないだろ。それに、正確な日にちを知らないからと言って、お祝いをしない理由にはならないだろ」
「そうだけど…… 」
「だから、今日がリリの誕生日で決まりだ」
戸惑うリリを置き去りにして、俺は部屋のカーテンを閉めると、春奈さんがローソクに火を灯した誕生ケーキを持ってきてテーブルの上に置いた。
後はお決まりのバースデーソングをリリ以外の全員で歌い、歌の終わりにリリが戸惑いながらも笑顔で蝋燭の火を消すと、再びクラッカーの破裂する音とともに、お祝いの言葉をプレゼントした。
「リリさん、これ私から」
「ありがとう麗華さん」
「「これは、私から」」
「ありがとう、春奈さんに良一さん」
「そして、これは俺からだ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
更に通常通り誕生プレゼントの受け渡しが始まり、十三歳になったリリが嬉しそうにプレゼントを受け取る。
ちなみに俺からリリへのプレゼントは、大きめのクマのぬいぐるみだから、それなりに箱も大きかったが、他の三人は普通の封筒のようだった。
「お兄ちゃん、開けても良い?」
「あぁ、勿論良いけど」
「うわぁあー、クマさんだ。お兄ちゃん、ありがとう」
ん? なんだ。気のせいか、リリの表情が少しだけ曇ったような……
「やっぱりね。大翔さんはリリさんの事を、子供扱いしすぎだと思うよ」
えっ、だってリリは、まだ子供だろ?
「私のプレゼントも開けてみて」
「うん。ー--えっ、これって…… 」
あれ? リリの表情が、明らかに俺がプレゼントした時より嬉しそうだ。
いったい、なにが?
「麗華さんは、なに贈ったの?」
「私は、これ!」
そう言って麗華さんが見せてくれたのは、某有名劇団が贈るラブストーリーのペアチケットだった。
しかも、なぜか今日が最終公演だ。
「これって、今日が最終公演になってるけど」
「そうだね、だったら大翔さんが連れて行ったら?」
「別に良いけど、一緒に行く?」
「うん!」
明らかに俺のプレゼントよりも、リリが喜んでいるが、そんなにこの公演が見たかったのか?
「次は、私のプレゼントも見て欲しい」
「うん、ー--これ、良いの? 凄く、行ってみたい!」
良一からのプレゼントを開けて見たリリの表情も、やはり俺の時とは全然違って凄く嬉しそうだ。
「良一は、何を贈ったんだ?」
「私は、これだよ」
封筒の中には丸の内にある某有名レストランのペア無料招待券が入っており、フランス料理のフルコースすが無料で食べられるというものだった。
「これって、丸の内にある有名なフランス料理のお店?」
「そう、とても夜景が綺麗なレストランなんだ。ー--ただ、そのチケットも締め切りも今日が最終日なんだけど、今日は用事があって行けないから、悪いが大翔、リリさんを連れて行ってくれないか?」
「えっ、まぁ、公演を見た帰りに行けば良いから、別に良いよ。良いだろ、リリ」
「うん」
リリのプレゼントなのに俺まで公演見れて、更に丸の内で有名なレストランに行けるなんて、ラッキー!
「リリさん、私のプレゼントも見てもらえますか?」
「うん。あっ……」
「今度は一体何だ? って、これはプレゼントになるのか?」
「面白そうでしょ? 私なら貰って嬉しいけどなぁ」
「そうか?」
「そうよ。それにウエディングドレス疑似体験&写真撮影なんて、滅多にない企画だって知り合いのプランナーに頼まれたけど、今日は私も用事があるし、せっかくだからリリさんにプレゼントしようかと思ってね。どうリリさん、異世界では十三歳から大人なんでしょ、大人になった記念撮影だと思って行ってきたら?」
「記念撮影だと、これは…… 」
「リリ、行きたい!」
えっ、行きたいの? これって結婚式の予行演習みたいなものだぞ。
いくら異世界では十三歳から大人だと言っても、日本の成人式は十八歳からだから十三歳のウエディングって、ちょっと浮かないか?
「良かった。あぁー、でもこれって、男女同伴なんだよね、しかも今日が最終日なの。今日は良一さんは用事があると言ってたから、悪いけど大翔さん、こちらの撮影会もリリさんの付き添いで行ってもらいますか?」
「えっ?」
「どうせ公演見てからディナーも行くんだから、その前に撮影会にも行ってきたら?」
「まぁ、付き添いならだけなら別に良いよ。勿論、リリが行くならね」
「別に良い。お兄、ちゃんで、良い」
リリが良いなら、別に良いけど。どうせ付き添いなんだし。
でも、リリも年頃の女の子なんだなぁ、ウエディングドレスに憧れるなんて、可愛いところもあるじゃないか。
「あっ、この撮影会の集合時間って、今から一時間後になってるけど大丈夫?」
「大丈夫よ麗華さん、だって大翔さんはテレポートが使えるじゃない。だから、大丈夫♡」
「………… 」
ん? どうしてリリが俯くんだ?
それにクネクネと体を動かして、大丈夫かこいつ?
まぁ、良いか。
「リリ、どうせなら早めに行ってドレスでも選ぶか?」
「うん! 行く」
おっ、なぁーんだ、いつものリリじゃないか。
さてと、公演もディナーも楽しみだけど、リリのウエディングが一番楽しみかな。
でも、もしリリが本当に結婚したら、俺泣くかもな……
なんてな!




