74、異世界に産業を。
ギルバート様との話し合いで、製鉄所が出来上がるまでの道のりは確定したが、問題は山積みだ。
例えば鉄製品の加工場の作業員の数と、その販売先だ。
俺が手に入れた溶鉱炉は一度火を点けると常に二十四時間燃やし続ける事になり、それを耐用年数限界の二十年間続けないといけない。
理由としては、溶鉱炉内に使用している耐火用レンガの収縮による破損を防ぐことと、長時間の休止は高炉内に溶鉄の固形化を生み出す原因となり、それらの除去が困難となるからだ。
故に製鉄所で働く作業員は大勢必要となり、更に大量に生産される製鉄の製品化もしなければならず、また販売先も手に入れなければならない。
ハァ、ラノベでは簡単に行っていた鉄の加工だが、現実の世界では一千億以上のお金が掛かる大事業なんだよな。
まっ、俺は廃棄待ちの製鉄所を頂いたからお金は掛かってないうえ、途中で火を止めてもアイテムボックスを使えばメンテナンスは楽だけどね。
でも、たまに思うんだよな、製鉄所なんて作らずに鍛冶屋程度で我慢すれば良かったかなって……
規模が大きくなりすぎて、もう大変だよ!
「お兄ちゃん、何考えているの?」
「ん? 製鉄所のことで、少しな」
何もかも忘れて大いに盛り上がった収穫祭も幕を閉じ、少しだけ淋しい気持ちで俺とリリはマンションに戻ってきて、いつもと同じように二人並んで壁にもたれている。
勿論、飲み足りない連中は、それぞれ家族や兄弟、友達や恋人と二次会なり三次会に行ってるはずだが、俺はリリと一緒にいるため全ての誘いを断った。
マンションにリリ一人で留守番をさせるのは、流石に気が引けるからだ。
「それって、難しいの?」
「人類の近代化は、製鉄所の発展とともにあると言っても過言ではないからな」
「そ、そんなに?」
信じられないかもしれないが、人類の近代化には製鉄技術が不可欠で、自動車も電車も飛行機も船でさえ、鉄なくしては存在しなかった。
建築物だってそうだ。鉄筋や鉄骨がないと、ビルや鉄橋等も生まれていない。
ライフラインで考えれば、電線や水道管にガス管など、全て製鉄技術のお陰だ。
パソコンだって、スマホだって、ガラスだって、洋服だって、作る機械は全て製鉄技術の恩恵を受けている。
別に機械じゃなくても、ハサミにカッター、包丁にフライパン、農具だとクワにカマ、スコップにツルハシ、とにかく鉄製品は多い。
最初に鉄を制する者が、世界を制する。
そんな言葉はないが、人類の近代化は製鉄技術と共に発展してきたと言っても間違いないだろう。
「それほど製鉄技術は凄いんだよ。まるで夢のような話だよな、俺が異世界に近代化の波を起こそうなんてさ…… 」
「良く分からないけど、凄い話だね」
「あぁ、本当に凄い事なんだよ」
「お兄ちゃんが、夢のような話を実現させた時は、その時はリリが絶対隣にいるからね」
そう言って、リリが俺の肩にもたれてくる。
まったく子供なんだからと思いながら、リリの肩に腕を回す。
「ありがとな、リリ」
「うん」
「それで、さっきの話に戻るが、鉄製品を作るには鉄を溶かすために、燃料のコークスが大量に必要になる。そのコークスの原料となる石炭が必要になるのだが、思い切って魔物の森を一つ開拓しようと思う」
「それって、魔物の森の魔物を全て殲滅するってこと?」
「最初はそのつもりだったが、やはり魔物の森を石炭のためだけに破壊するなんて、やはり気が引けるよな。そこで、ちょっと試してみたい方法があるから、今度試してみるよ」
「リリも一緒に行っていいの?」
「勿論。手伝ってくれ」
「うん!」
俺の考える方法が上手くいけば、魔物の森を破壊することなく石炭を得ることが可能なはずだ。
「お兄ちゃん、カップ麺食べる?」
「ん? お腹減ったのか?」
「うん。あれだけ食べたのに、なんかお腹減った。えへへへ」
「そうだな、俺もお酒を飲んだせいか、ちょっと小腹が空いたかな」
「決まりだね。リリがお湯の準備するから、お兄ちゃんはカップ麺の方を準備してね」
「あぁ、分かった」
俺はアイテムボックスからカップ麺を取り出し、蓋を開けカヤクの粉を入れて、リリがお湯を持ってくるのを待つ。
不思議だよね、収穫祭であれだけ食べたのに、家に帰ってくると何か食べたくなる。
暫くしてお湯を持ってきたリリにお湯を入れてもらい、三分待ってから食べ始めた。
二次会なんか行かなくても、リリと二人でカップ麺を食べてるだけで満足するなんて、俺もすっかりマイホームパパだよな……
★ ★ ★
一週間後、朝から俺とリリは魔物領域であるゴーダの森に来ている。
既に周囲の魔物は討伐しており、安全を確認しているので石炭を手に入れるための作業を開始する。
最初にアイテムボックスを使い地面をすり鉢状に抜き取り、石炭の鉱脈がある層を確認する。
石炭の層は十メートルと意外と浅い所に確認できたので、その部分をアイテムボックスを使い、空間を横に広げて行くように石炭を瓦礫ごと収納していく。
その時、アイテムボックスに備わっているスキル、結合を同時に発動させ天井が落ちてこないように固めていく。勿論、必要に応じて柱を作ることも忘れない。
ある程度の広さの空間が出来たら、先程アイテムボックスに収納したすり鉢状の瓦礫を結合のスキルで固めてから元の位置に戻す。
地下空間に、蓋をする感じだ。
これにより地上は魔物の森だが、地面の下にはある程度の広さを持つ空間が、そのまま残った事になる。
「よし、地下空間が完成したから、設置型テレポートを設置してカインに戻ろうか」
「もう良いの?」
「あぁ、後はカインの街の最近設置した太陽光発電システムの隣にでも、設置型テレポートを設置すれば、いつでも行けるようになるからな」
「地下には、魔物は出ないの?」
「それは、ちょっと分からないけど、まっ、そのうち分かるさ」
「それもそうね」
先程作ったゴーダの森の地下空間は、このままでは危険過ぎて使うことはできない。
魔物が出現する可能性もあるが、それ以上に空気の循環を促すための空調設備が必要となる。
酸欠で死にたくないからな。
地下空間には空調設備の取り付けと、作業用のLED照明の取り付けが最優先だ。
更に採掘するための道具も必要となるため、俺は懐中電灯ぐらいの大きさの棒状な物に設置型アイテムボックスを取り付けて、懐中電灯型アイテムボックスと名付けた。
ネーミングの悪さは置いといて、使い勝手はなかなか良かった。
懐中電灯型アイテムボックスを作業する人に持たせれば腕力も体力も要らないから、女の人でも子供でも採掘作業ができるはずだ。
例え魔物が出ても、懐中電灯型アイテムボックスを使えば、魔物の核の収納だって可能になるから、俺以外の人でも魔物の討伐ができるようになる。
まぁ、少し危険だけど『緊急避難テレポート』があるから、危険度は相当下がるはずだ。
「お兄ちゃん、カインに戻るなら事務所にも行くんでしょ?」
「あぁ、勿論だ。空調設備の取り付けと、配線工事の打ち合わせがあるからな」
カインの街にも麗華さん達からの要請で既に事務所が作られており、日本の事務所と設置型テレポートで繋がっている。
事務所と言っても簡単なキッチンと、大きめのテーブルがあるだけで休憩室みたいなもんだ。
ちなみに会社名は『不思議な運び屋』、通称『アスク』だ!
「そうだね。じゃ、行く?」
「あぁ、行こう」
俺とリリがカインの事務所にテレポートすると、突然乾いた破裂音が幾つも鳴り響いた。




