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73、ネット環境。

 収穫祭と言う名の宴会が始まってから既に三時間以上経つが、未だに収穫祭が終わる気配はなく、そろそろ本当に勘弁してほしいと思っている。


 最初の頃はいろいろあったが、それらを全て忘れてしまうほど会場は盛り上がりを見せていた。


 今日はせっかくの収穫祭ということで、日本から大量に手に入れた安い焼酎やウイスキーを、カインの街の住人全員に振る舞っている。


 滅多にないお祝いだと思い、皆にも羽目を外してほしいからだ。


 勿論お酒の飲めない子供には、ソフトドリンクで楽しんでもらっている。


「大翔様、このほうれん草の胡麻和え、私が育てたほうれん草で作ったんですよ、良かったら食べてください」

「このカボ、うちが育てたの、是非食べてください」

「ちょっと待って、私が育てたミニトマトもあります。大翔様に、食べてほしいです」

「私のも、私の育てたのもあるのに、貴方達だけが育てたなんて言わないで」

「良いじゃない。間違ってないんだから」


 そんなに食べられないよ……


 気持ちは嬉しいが、既にテーブルの上には多くの料理が並べられており、全て食べ切るのはもはや困難な状況だ。


 勿論俺とリリの所だけじゃなく、ギルバート様のテーブルも、麗華さんたちのテーブルも沢山の料理に埋め尽くされているが、俺の相棒はリリ一人なので、ハッキリ言ってなかなか料理が減らない。


 それなのに次から次へと持ってくるので、俺のお腹は破裂しそうだ。


 俺が食べないと、料理を持ってきた人がとても悲しそうな顔をするから、仕方なく必死になって食べてしまう。


 これは、ある意味拷問だ。


(リリ、俺はもう無理だ!)

(ええぇー、リリも無理だよ)

(リリは全然たべてないじゃないか!)

(食べたけど、そんなに食べられないよ…… )

(良し分かった、逃げよう!)

(えっ、無理でしょ! どこに逃げるのよ、皆が悲しむでしょ)

(そうだけどさ、ここにいたら、俺絶対腹壊す自信あるぞ)

(それは、分かるけど、我慢してよ)


 ハァ、念話の無駄遣いにも思えるが、俺とリリはニコニコと微笑みながら、裏ではそんな話をしていた。


(それより、お兄ちゃん)

(ん?)

(さっき、カボを持ってきた綺麗なお姉さんに、やたら愛想良かったけど、あんなタイプが好みなの?)

(えっ、なんで?)

(だって、なんとなく好みかなって思っただけ)

(まぁ、綺麗だけど、俺はリリの方が可愛いと思うよ)

(えっ、そうなの…… そっか、そうなんだ。えへへへへ♡)


 ちょろいな!


 リリは唯一の家族である俺が、他の人に取られたくないから徹底的に俺に近づく女性(ひと)を排除しようとする。


 それを分かっていて反発すれば、余計にリリの機嫌が悪くなり、普段の俺の料理が一品減る。


 それなら排除しようとするリリの気持ちを逆手に取り、上手くリリを褒めることに成功すると、俺の料理が一品増える。


 最近の俺はリリの感情をコントロールすることを学び、料理を一品増やすことに成功した。


 だが、新たな問題が芽生えた。


 リリの機嫌が良くなり俺の料理も一品増えたが、俺が女性と親しくなるチャンスが思いっきり減ったということだ。


 これは由々しき問題で、このままでは俺は、リリが結婚するまで彼女を作る機会すら得られない。


 これも、ある意味拷問だと思うのだが、リリの顔を見ると何も言えなくなる。


 どうしたものか……


「大翔、今良いか」

「ギルバート様、勿論宜しいですけど、どうかしましたか?」

「前に、大翔が話していた製鉄工場設立の件だが、何か進展があるかね?」

「勿論です。実は、小規模高炉は既に手に入れました。ですが、問題は鉄鉱石がある鉱脈と石炭、そして石灰石が必要になりますが、それを手に入れる方法が未だ見つかりません」


 実は現在の日本では、鉄の生産能力は過剰能力となっていて、既に幾つかの製鉄所が幕を下ろしている。


 これは中国の影響と、日本での鉄の需要が少なくなったことがあげられる。


 日本経済的な面では残念な結果だが、せっかくなので俺が買い取り、異世界で再び活躍してもらおうと考えた。


「高炉とは何だ?」

「製鉄所の要でもある、鉄鉱石から鉄を取り出すための設備の事です」


 鉄鉱石から鉄を抽出する方法を簡単に言うと、コークスを燃料とした溶鉱炉に鉄鉱石と石灰石を同時に燃焼させ、純度の高い鉄だけを手に入れる方法だ。


 コークスとは、これも簡単に言うと石炭をコークス炉と呼ばれる炉の中で、十数時間蒸し焼きにしたもので、高い燃焼力を持つ燃料の事だ。


 このコークスを燃やし続け、溶鉱炉の温度を千五百度以上に保ち続けると鉄鉱石が溶け始める。この時石灰石を鉄鉱石に混ぜておくと、鉄鉱石に含まれる鉄以外の不純物が石灰石に吸着するため、純度の高い鉄を取り出すことができるわけだ。


 だが、最近俺は気付いてしまった。


 アイテムボックスの分離を使い鉄鉱石を鉄と鉄以外の物に分離して、鉄だけを認識してアイテムボックスに収納すると、溶鉱炉も石灰石も使わずに鉄鉱石から純度の高い鉄が取り出せることができることに気付いたのだ。


 ただ鉄製品を作るには銑鉄(せんてつ)(鉄をドロドロに溶かした状態)が必要となるため、当然溶鉱炉は必要となる。


「そっか、良く分からないが、鉄鉱石と石炭の鉱脈のある所なら分かるぞ」

「えっ、どこですか?」


 なんとギルバート様が鉄鉱石と石炭の在りかを知っているなんて、ハッキリ言って驚いた。


「鉄鉱石の鉱脈は我が領にもあるが、実は隣のリンドバーグ伯爵領にも跨いでいてな、採掘となるとリンドバーグ伯爵の許可が必要になるかと」

「ん? 辺境伯領内だけで採掘してもダメなのですか?」

「地上の目に見える範囲であれば問題はないが、採掘の作業は地下だから本当に自領内だけでの作業しているのか、自領地を超えて作業をしていて隠しているのか、確認する手段がない以上やはり互いの領主の許可が必要になる」

「そうですか、仮にですが、その許可は取れますか?」

「まぁ、金次第だろうな」


 金次第か。でも、それなら何とかなる可能性もあるか。


「それで、石炭は?」

「それは簡単だ。魔物の森の地下に石炭は沢山埋まっている」

「それはデュークの森などの、魔物が発生する森のことですか?」

「あぁそうだ。魔物の森では例外なく石炭が発掘される」


 石炭の元は植物が堆積して地中に埋没したものが、長い期間の地圧や地熱で変化したものだ。


 植物が豊富な魔物の森には、もしかしたら石炭を生む条件が整っているかもしれないな。


 アイテムボックスを使えば、純度の高い鉄が取り出せると分かったので石灰石は必要なくなったが、石灰石はセメントの原料ともなるからできれば欲しい。


 鉄とセメントが揃えば、鉄筋コンクリートが可能となるからだ。


「もう一つ聞きたい事があるのですが、ギルバート様は石灰石が存在する場所をご存知無いでしょうか?」

「石灰石自体が分からないが、何のことだ?」

「そっか、なるほど。ほら、家の壁などに良く塗る、白い粉の事ですよ」

「ああ、漆喰(しっくい)の事ですか」

「それです」

「それなら、ゼノン山で良く取れます」

「ゼノン山とは?」

「ほら、あの山です」


 そう言ってギルバート様が指さした方角は、ガードランド公国の国境沿いにある山であった。


 公国との国境か、それなら勝手に取っても問題にはならないな。


「ありがとう。これで後はリンドバーグ伯爵との交渉と、技術的な面だけになったよ」

「そっか、それは良かった」


 技術的な部分は、日本から技術者を数年間借り受ければ大丈夫だろう。


 設置型テレポートを使えば、異世界だと知られることなく日本から通勤させる事も可能だ。


 問題は通訳だが、これもスマホの翻訳アプリがもうすぐ完成する。


 実は笑える話だが、俺が話す言葉は異世界の人には異世界語に、日本人には日本語に聞こえる。また、俺が書いた文字も同じように異世界の人には異世界の文字に、日本人には日本語に見える。


 だが、それは異世界人と日本人が同時に存在する時に限った話で、俺が書いた文字を異世界人に見せたら異世界語のまま固定されてしまった。その逆も然り。


 つまり一度異世界人に見せた文字は異世界語に変化するため、再び日本人に見せたところで日本語に変化することは無いと言うわけだ。


 まっ、当然と言えば当然だろう。


 その特性を考えた時に、もし俺がパソコンで文字を打ったらどうなるのか?


 試してみたら、これも不思議なことに、異世界の人には異世界語として見えるんだよね。


 なら、もっと深く掘り下げて試してみることになり、俺がコピー機のスキャナーの上に手を置いてコピーしたらどうなるのか?


 実際に試して見たら、これも先程までと同じで、異世界人には日本語の文字が異世界語に見えるらしい。


 勿論、パソコンやコピー機で一度プリントアウトした文字は、最初に見せた人の主要言語で固定されるのは、前回の実験と同じだった。


 ここからが本番で、俺は春奈さんが連れてきた言語学者に言われるまま、多くの文章が書かれた本を片っ端からコピーして、それをリリに見せて異世界語に変化させた後に、再び言語学者の元に戻した。


 すると言語学者の方は、簡単に文字の翻訳に成功したのだ。


 後は翻訳した文字を、カインの街に住む大勢の人に声に出して読ませることにより、文字と、文字の発音がビックデーターに蓄積され、それを利用してスマホアプリを作ると言うものだ。


 まっ、俺が聞いた説明は大雑把にこんな感じだったが、本当はもっと複雑な話だろう。


 問題はネット環境が無いとスマホは使えないので、日本と異世界だけは優先で繋ぐことにした。 


 設置型テレポートの設定を常時接続に切り替え、両方の世界を光ファイバーケーブルで繋いだというわけだ。


 勿論設置型テレポートの大きさは、光ファイバーケーブルの大きさと同じにしているため、人や動物が行き来することは不可能だ。


 単純だが一番確実な方法で、これにより異世界にもネット環境を作ることに成功した。


 後はスマホの、翻訳アプリが完成するのを待つだけだ。


 これで異世界でも、エッチな動画を見ることができるが、リリには内緒にしている。


 ワンルームマンションでエッチな動画を見ることができないんだから、せめて異世界に俺の個室を作って……


 ハァ、年頃の娘を持つと、いろいろ大変だよ。



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