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71、ブラック企業。

「リリ、これはいったい!」

「え~っと、サプライズ?」


 サプライズって…… あっ、この花は、その辺の道端に咲いてる花だ。


 そっか、そういう事か。


 とうとうこの時が来たんだな……


 でも、今暫くは無理なんだよ。


 今日は収穫祭だって聞いていたのに…… そっか、大勢の前で問い詰めるつもりなんだな。


 わざわざ道端の花を贈り物にするより、ハッキリと言えば良いのに。


 お給金払えと!


 俺が給料を支払わないから、贈り物も道端の花を摘むしかないと言いたい気持ちは良く分かるが、俺にだって言い訳の一つや二つはあるんだからな。


「大翔様、どうぞこちらへ。リリ様も、どうぞ前のほうに」

「えっ、リリも?」

「勿論で御座います。大翔様とリリ様は、『不思議な運び屋ミステリアスクーリィア』の社長と副社長で御座いますから」

「そ、そうだけど…… 」

「それに、ガリック様が仰っておられました。ー--リリ様が、大翔様をドリントの街にお導きになられたお方だと…… 」

「そ、そんな…… 」


 確かにリリは副社長で、俺の背中を押してくれたから責任の一端は彼女にもあるが、全ての責任は社長である俺にある。


 だからリリ、(うつむ)かないでいつものように堂々してくれ、後は俺がなんとかするから。


「諦めろリリ。リリの頑張りは、誰よりも俺が一番知っている。だから、自信を持て!」

「お兄ちゃん…… 」

「それでは、お二人とも、こちらの馬車に乗ってもらいますか」


 あっ、これって市中引き回しってやつだ。


 ハァ、そんなに大勢の前で俺の事を断罪したいのかよ。


 勿論、全ての責任は俺にあるけど、流石にこれは少し堪えるな。


「「「「ウワァァアアアー 」」」」


 街の人が歓声を上げる中、俺とリリを乗せた馬車はゴトゴトと動き始める。


 その歓声の裏に、彼らの本当の心の声が俺にはハッキリと聞こえる。


 いつになったら給料を支払ってくれるのかと……


 この現状を作った全ての責任は社長である俺にあるが、リリも副社長としての責任を感じてるみたいで、彼女は今にも泣き出しそうだ。


 勿論副社長であるリリにも責任はあるが、責任の度合いで言えば俺の方が格段に多いはずだ。


 だからリリ、堂々としてくれ。


「お兄ちゃん、みんな凄いね」


 少しだけ元気になったリリが、窓の外を覗いて話し掛けてきた。


「そ、そうだな」

「皆の期待に応えてみたら?」

「そんな事、できるわけ無いだろ! 未だに給金を支払う目処も経ってないだから、皆の気持ちは分かるが、流石にこれはやり過ぎなんじゃないか?」

「えっ?」

「そりゃ、そうだろ! 俺だって払ってやりたいが、会社は立ち上げたばかりで、現状アスクにお給金の支払いは不可能なんだから」


 アスクがブラックな会社だと言いたいのは分かるが、もう少し待ってほしかった。


 それなのに収穫祭だと嘘まで吐いて俺を呼び出さなくても、俺は逃げも隠れもしないのに……


 そりゃ俺だって皆に給料払っていたら、ここで大手を振って笑ってるよ。


 でも現状給料の支払いは不可能なんだから、期待に応えろと言われてもどうしょうもない。


 それに、俺が彼らの立場でも「金払え!」って、大声で叫んでいるはずだからな。


「お兄ちゃんの悔しい気持ちは分かるけど、皆が前向きに考えられるようになったのは、少なくともお兄ちゃんのお陰なんだから。それには、応えてあげようよ!」

「それは、どうかな…… 」

「それに、見てよ皆の笑顔を、この沢山の笑顔を守ったのは、お兄ちゃんなんだよ。だから、お兄ちゃんは素直に喜んで手を振ったらいいのよ。そして、お給金が渡せるようになったら、もう一度、今よりも盛大にパレードしようよ!」


 また何を言い出すかと思ったら、今度は盛大にパレードしよってか?


 そんなの無理に決まって……


「大翔さまぁー、…… てくれて、本当…… がとー!」

「リリ様も、………… 」

「大翔さまぁー、この子、大翔…………、こんなに…… なったのよ、………… 」

「大翔さまぁー、お母さんが、お母さんが、………… ようになったよ、本当に…… 」

「リリさまぁー、遅くまで街の…… 頑張ってた姿…… ないわ!」

「大翔さまぁー、弟を………… れて、一生忘れないわ!」

「「「「救世主さまぁー、大翔さまぁー、リリさまぁー」」」」


 なんだこれ、少し顔を出しただけなのに、この歓声はなんだ。


 だが煩すぎて、何言っているか、さっぱり分からん!


 本当に、皆喜んでいるのか? いや、泣いてる人の方が圧倒的に多い!


 殆の人が泣き叫んでいるだけで、これのどこが喜んでいると言えるんだ!


 馬車の窓から少しだけ外を見ると、悲痛な顔で泣き叫ぶ女の人の姿が多く見える。


 カインの街は女性が多いから仕方ないが、やはり女性の涙を見るのは辛い。


「お兄ちゃん、鼻の下が伸びてるよ」

「えっ、そんな事ないだろ」

「そう? 女の人にキャァーキャァー言われて、本当は喜んでるんでしょ」

「喜ぶとかじゃないだろ、だた気になるだけだ!」


 給料渡してないんだから、普通気になるだろ!


「ふ~ん。気になるんだ…… 」

「な、なんだよ」

「別に…… 」


 なんだよ、なんでリリまで不機嫌になるんだよ。


 こんな状況で気にするなって言われても、普通気にするだろ!


 こんな俺でも、社長としてのプライドはあるんだから、社員の声は気になるよ……


 馬車の中は悪天候一歩手前の空気を保ちつつ、俺と、なぜか機嫌の悪いリリを乗せたまま馬車はゴトゴトと進んでいき、やがてカイン集会場(元高校の体育館)に到着した。


「大翔様、リリ様、どうぞこちらへ」

「あれ? そっか、エリザベート様も責任者の一人だからね」

「えっ? そうだけど、今回の主役は大翔様とリリ様ですよ」

「勿論、責任の全ては俺にあると思ってるから、安心して」

「責任……?」


 エリザベート様が困ったような顔をしているが、たぶん責任の一端を領主側も感じているのだろう。


 もしかしたら、領主夫妻は俺以上に責任を感じているのかもしれない。


 エリザベート様の案内で集会場の舞台の上に俺とリリは移動したが、そこは以前テレビで見た謝罪会見の会場そっくりで、横並びにテーブルが三つ設けられていた。


 左端のテーブルに設けられた三つの椅子には、ギルバート様やガリック様、そして空いてる席は多分エリザベート様の席だろうか?


 反対側の右端のテーブルに設けられた三つの椅子には、麗華さんと春奈さん、良一の三人が座っていた。


 そして中央の二つは俺とリリの席だろう。


 一瞬俺の脳裏に、テレビの謝罪会見で良く見る、責任者全員で頭を下げる光景が浮かんだ。


「それでは、収穫祭を始めたいと思います。最初に………… 」


 エリザベート様が司会進行をするようで、舞台の左端からマイクを使って話を進めていくなか、俺はこの後の謝罪するセリフを必死に考えていた。


 しかし、いつの間にかマイクまで準備したのだ? 


 まぁ、麗華さんあたりが準備したと思うが、あの三人もいつの間にか異世界に馴染んだよな。


 今では普通に設置型テレポートを使って、異世界と日本を行き来してるんだから、馴染むのも当然か。


 おっと! ギルバート様の挨拶だ。


 ん? なぜ俺を褒め称える?


 こんな謝罪会見の場で俺を褒め称えるような言い訳は、却って皆の反感を招くだけだ!


 安月給どころか完全無給なんて、ブラック企業の代表格どころかブラック企業世界大会第一位と言われても仕方ないんだぞ。


 えっ、なぜ俺を手で指し示すのか。しかも政治家が選挙の時の様な怪しさ満点の笑顔で俺をアピールするが、その笑顔は詐欺師の笑顔にしか見えないからな!


 あれか、俺の会社がブラック過ぎてイメージが最悪だから、少しでもイメージを良くしようと褒めちぎっているのか?


 あぁぁああー、もう勘弁してくれぇー! なるべく早く給料を出せるように頑張るから、頼むから、もう許して下さい!


「続いて、カインの街に多大なる貢献をなさった救世主様、大翔様による貴重なお言葉を承りたいと思います。大翔様、よろしくお願いします」


 ハァ、ついに街の人の前で謝罪会見かよ……


 だが、これは俺の仕事。俺がやらなければ、リリが謝罪しなければならなくなる。


 それだけは、絶対に避けなければならない。


 俺は、勇気を振り絞って立ち上がった。


「では、大翔様、こちらにどうぞ」

「あ、あぁ、分かった」

「皆さん、救世主大翔様に盛大な拍手でお迎えください」

「「「「パイパチパチパチパイパチパチパチ」」」」


 謝罪会見に拍手って、そっか、俺にもっと頑張れって、ハッパを掛けるつもりなんだな。


 社長なんだから、頑張って皆に給料出せるように頑張れって、ハッパを掛ける拍手なんだな!


 分かったよ、もっと頑張ってやるよ!


 でも、その前に、きっちり謝罪してやる!


 俺は覚悟を決めて、エリザベート様からマイクを受け取った。


「ここに集まっている大勢の皆さん、そしてこの会場の外にいる大勢の皆さん、誠に申し訳御座いません」


 俺は土下座をした。


「えっ? ちょっと、どう…… 」

「本当なら、皆さんが頑張った分だけのお給金を、支払わなければならないのに、未だに会社が軌道に乗らないためお給金が支払えず、誠に申し訳ございません」

「「「「………… 」」」」


 良かった、まだ俺の謝罪を聞く人が、こんなに大勢いてくれる。


 この静けさが、何よりの証拠だ。


 俺は土下座をしたまま話を続ける。


「未だ畑の収穫も食べる分を育てるのに精一杯で、他の町に販売するまでは至らず、繊維団地の方も最近始動したばかりで販売網を広げているところです」

「「「「………… 」」」」

「勿論、だからといって、皆さんにお給金を支払わない理由にはなりませんが、あと少しだけ、あと少しだけ時間をください。販売網はバスタアニア王国では五つの都市や街に広がっており、ドリッシュ帝国でも六つの都市や街に店を構えることができました」

「「「「えっ、そんなに?」」」」


 そうだよな、こんなに広がっているのに、未だに給料を払えないなんて、最低最悪なブラック企業だよな。


「勿論、皆さんがご存知のように、我が社ではロンバード辺境伯製コスメ製品の開発され、既に販売される段階まできました。だが、それらの商品が安全な製品かどうか、現在治験を開始したところでで、安全が確認されれば直ぐにでも販売されますので、もう少しだけ時間をください」

「治験って、そんなことする必要あるの?」

「治験は商品を販売するうえで、大事な工程の一つです。もし身体に害のある商品を販売すれば、会社の信用を失ってしまいます。会社は信用が第一ですので、そのために販売する商品は、検査したり治験を行ったりと、とことん調べて安全性が確認された製品だけを販売するのです」

「凄い、そんな事までするんですね」


 よし、このままいけば謝罪会見は成功する。


「だからと言って、お給金が支払われない理由にはなりませんが、もう少しだけ時間を頂ければ会社を軌道に乗せ、必ずお給金を支払いますので、それまでお許しください」

「ねぇねぇ、どうなっているの」

「さぁ、でも私、感動しちゃった」

「私も、本当に感動しちゃった」

「これだけの人を助けただけじゃなく、大翔様は常に前を見ているんだわ」

「そうだわ。大翔様は常に私達に道を作ってくださり、その進むべき道を指し示しているのよ」

「えぇ、そうね。そして、前に進むために、努力を惜しまない人でもあるのよ」

「私、どんな事があっても、大翔様について行くわ」

「うちも、絶対について行く」

「私も、ついて行く!」

「「「「私も、私も、うちも、私も」」」」

「「「「大翔様! 大翔様! 大翔様!」」」」


 おっ、これは、俺の気持ちが伝わったのか?


 良かった、これでもう少し待ってもらえるぞ!


 カインの街の名前のように、街の人の優しい歓声は暫く続いた。


応援のブクマや評価、いいね、本当にありがとうございます。


大変励みになっております。


これからも応援、よろしくお願いします。

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