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6、魔物狩り。

 日が変わり、俺とリリは目が覚めると直ぐに身支度を終え、一度丘の上にテレポートすると、方角を確認してから何度かテレポートを使い、デュークの森に移動する。


 魔物の出現が多いデュークの森に移動したら、森から少し離れた場所に岩の家を設置して、本格的に魔物狩りを開始する。


「リリ、ここから出たらダメだよ」

「うん…… 」

「どうした?」

「これなら、留守番してるのと一緒じゃないの」

「それは違う」

「何が違うの?」

「俺が安心できる」


 マンションにリリを一人で留守番させるには抵抗があるし、かと言って宿屋で留守番をお願いしても、お金を使うことを彼女が嫌がり却下された。


 だからと言って、こんな岩の家に留守番するのも、どうかと思う。


 自分でも矛盾してるのは分かるが、現実を変えるには金と時間が必要だ。


「本当に?」

「あぁ、だから、待っててくれるか」

「お兄ちゃんが、そうい言うなら待ってるけど……」


 リリがポツリと呟いた言葉が、チクチクと俺の心を突き刺してきて、やはり今の環境をなんとかしなければと、考えてしまう。


 仕事も辞めたし、都会のマンションよりも田舎の一戸建てでも借りて生活するほうが、今後の事を考えたら良いのかもしれない。


 異世界のラノベのような生活も良いが、便利で衛生的な日本での生活を捨てようとは思わないので、今後の課題は日本での商売だ。


 リリのためにも、俺がしっかりしないとな。


 決意を新たに、俺は岩の家を後にする。


 森に入ると、すぐに三体の魔物と遭遇する。


 豚みたいな魔物だから、オークだろうか? 


 俺は様子を伺いつつ、一番手前の魔物にテレポートすると、一瞬で魔物の核をアイテムボックスに収納して、その場を離脱する。


 空中に離脱した俺は、反対側の魔物の背中にテレポートとして、再び一瞬で魔物の核を収納する。


 二体の魔物が死んだことにすら気付かない三体目の魔物の核を、俺は無言でアイテムボックスに収納した。


 三体の魔物は、俺の存在すら気付かずに息を引き取ったに違いない。


 魔物にとって、テレポートとアイテムボックスのコンビネーションは、死神のカマのようなものだ。


 いつ殺されたのか、何で殺されたのか、誰に殺されたのか、全て知らないうちに死んでしまうからだ。


 見えない攻撃は、恐怖すら感じさせない。


 戦いが終わり、俺は魔物をアイテムボックスに収納すると、空中へとテレポートする。


 リリの居る岩の家の周囲の確認と、他の魔物を探すためだ。


 デュークの森は、魔物が大量に存在するが、魔物は滅多に森から出ないので、放置されていると聞いた。


 放置されてる理由は、距離が離れていることと、魔物を倒しても持って帰ることが困難だからだ。


 魔物の素材は冒険者ギルドで高く買ってくれるが、一体の魔物は数百キロもあるので、王都まで運ぶ事を考えたら、割に合わないらしい。


 つまり、デュークの森は俺専用の狩り場みたいなものだ。


 魔物は空から探すと簡単に見つかり、再びテレポートして五体の魔物の核を、近づいては離れるヒットアンドアウェイ戦法で次々に倒していく。


 魔物討伐も数をこなせば不意打ちのような危険な時もあるが、飛び道具でもない限りテレポートで逃げられる。


 テレポートがあれば、近づくのも逃げるのも簡単だ。


 デュークの森は想像以上に魔物が多く、数時間で三十前後の魔物の討伐に成功する。


 魔物の核をアイテムボックスに取り込む狩りの仕方は、完璧な素材を得るだけじゃなく、出血がないので殺伐としないから、日本人で元リーマンの俺向きの戦法と言える。


 血が飛び出て、内蔵がぶちまけられるスプラッタは、俺には重すぎる。


 途中リリの所に顔を出したが、少し元気がなかった。


 俺の役に立ちたいと話していたリリは、ただの留守番には納得できないようだ。


 田舎に引っ越すことを考えるよりも先に、リリに仕事を与えたほうが上手くいきそうな気がする。


「リリ、そろそろ冒険者ギルドに行こうか」

「うん」

「どうした、元気ないけど、具合でも悪い?」

「ううん。リリ、役に立ちたいけど…… 」

「明日から頑張ってもらうから、元気出せ」

「本当に?」

「あぁ、本当だ」


 少しだけリリが元気になったところで、岩の家をアイテムボックスに収納してから、俺達は冒険者ギルドに向かった。


 冒険者ギルドに着くと、早速受付のお姉さんの所に行く。


 そろそろお姉さんじゃなくて、きちんと名前を聞かないと社会人としてダメだと思いながらも、今更ながら、どうやって聞き出すか悩んでいた。


 ある程度の時が経つと、名前を聞くことが失礼なような気がして、聞くに聞けない。


 そんなジレンマを感じながら、俺は受付のお姉さんに話しかける。


「すいません。魔物の買い取りは、こちらでよろしいですか?」

「違います。買取場所は、この裏の建物になります」

「ありがとうございます」


 以前、チップとして銀貨一枚を進呈した効果なのか、今日のお姉さんは優しく丁寧に教えてくれた。


 お姉さんに教えてもらった通りに行くと、物凄く血の匂いのする建物が在ったので、すぐに見つけることができた。


 男の俺でも嫌な感じがしたのに、リリは意外と平気そうにしてる。


 日本人には信じられない事だがが、この世界では血の匂いや死臭などは日常的に存在するので、誰も気にしない。


 気にしないと言うよりも、気にしてもしょうがないといった感じだ。


 誰もが死に慣れていて、死は身近に存在するものだと知っているからだ。


 この世界では、人の命も想像以上に軽い。


「あの、魔物の買い取りはこちらで良いですか?」

「あぁ、そうだ。なんか持ってきたのか?」

「色々持ってきたけど、どこに置けば良い?」

「そっか、この台の上に置いてくれ」


 男に言われた台は、少し広めだが流石に全部は置けない。


 もう一度聞けば良い話だが、機嫌の悪そうな男は近寄るなオーラを出しながら、包丁を研いでいるので、かなり聞き辛い。


 身長もデカく体格も良いので、ひょろひょろの俺にしてみれば、できれば関わりたくない部類の人間だ。


 積めるだけ積めば、どうにかなりそうな気もするが、流石に怒られそうだし、台が壊れて責任を取るのは嫌だ。


 俺は覚悟を決めて、もう一度聞いてみる。


「度々すいません」

「ん? なんだ」


 めちゃくちゃ不機嫌な顔で返事するなよ。俺だって一応お客様なんだから、優しく接しても良いと思うけどな。


「あの台だけでは、乗り切らないと思います」

「はぁ、あのでかい台に乗り切らないだと」

「えぇ、その場合はどうすれば」

「乗せてから言えや、面倒臭い」


 面倒臭いって、仕事だろ。まったく、聞いてるこっちが面倒だっていうの。


 段々俺も、腹が立ってきた。


「お兄ちゃん、あの人なんだか怖いね」

「だな、でも、気にしなくて良いからな」

「うん…… 」


 こうなったら積めるだけ積んで、知らん顔してやる。

 

 俺はアイテムボックスから魔物を大量に取り出すと、広めの台全体を使い、綺麗に積み上げた。


 積み上げた魔物は、まるで積み木ゲームのジェンガのようだった。


 広めの台の脚が折れそうだけど、天板も思いっきり反ってるけど、触ったら魔物が崩れそうだけど、きちんと積めました。


 たった一つの魔物加工用の台の上に、一体数百キロの魔物が全部で三十三体乗り切った達成感は、トランプのピラミッドが完成した時の気持ちに似ていて最高だった。


「あっ、すいません、あの台だけで足りましたから、他の台は要りませんでした」

「だろ、まったく、どんだけ持って…… なんじゃこりゃ~!」

「お兄ちゃん、すっごーい」


 驚きの余り大声で叫ぶ男が、先程研いでた包丁を地面に落とし、リリは魔物ジェンガを眺めて嬉しそうにしていた。


 はーい、異世界で流行りの「なんじゃこりゃ~」と「お兄ちゃん、すっごーい」頂きましたぁー。


 そして残念だが、男の包丁の研ぎ直しが確定した瞬間だった。


 




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