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67、茶番。

「やぁ、大翔。昨日は、本当に悪かったな。だが、まぁ、この通り全員謝っているから、許してくれ」

「ーーー分かった、もう気にしない。だから、頭を上げてくれ」


 それなりに警戒していたが、まさかこう来るとはな……


 ギルバート様の屋敷からザードに在るジェームズの屋敷にテレポートすると、すぐに執事のレディアーノのがジェームズの執務室まで案内してくれて、何故か部屋に入ると昨日の騎士達全員が土下座をしていて、更に王様や宰相様までもが土下座じゃないが、頭を深々と下げている。


 こうも簡単に頭を下げられたら、種ジャガの交渉を復活させたい俺が選ぶ道は一つしかない。


「おぉ、許してくれのじゃな。それは良かった」

「ハァ、この状況で許さなかったら、俺が我儘な子供みたいじゃないですか」

「ハハハハハ。いや、大翔には本当に悪いことをしたと思ってな、だから誠心誠意謝罪しようと思ったら、やはり頭を下げることが一番じゃろ」

「それは嬉しいですけど…… やはり王様が簡単に頭を下げるべきではないと思います」

「そか、大翔は良い奴じゃの」

「そ、それは…… 」


 なに、この茶番……


 こんな事で、昨日の出来事を無かったことにするつもりか?


 まぁ、俺は種ジャガの交渉ができるなら、ありがたいが……


 流石に、何か裏が在ると考えるべきだよな。


 俺はジェームズに促されるままソファーにリリと並んで座り、俺の目の前にはテーブルを挟んで王様と宰相様、そしてジェームズが其々一人用の豪華なソファーに腰を下した。


 更にその後ろには、騎士達が並んで立っており、隊長のガイアスが一番後ろで小さくなっていた。


 彼の表情から鑑みれば、かなり手酷い叱責を受けたようにも思えるが、それすらも芝居ではないかとつい考えてしまう。


 ラノベに出てくる王族や貴族は全員一筋縄では行かない存在で、『本◯き◯下◯上』のロ◯ゼマ◯ンも、お貴族様相手には相当苦労していた。


『お◯し◯転生』でも貴族たちは腹の探り合いで、読者としては楽しくて仕方なかったが、実際に目の前に王族や貴族を前にしたら、俺なんか大海原に漕ぎ出した手漕ぎボートくらいの存在でしかない。


 俺の異世界での経験上(ラノベやアニメの知識)、ここは最大限に警戒するべきだ。


「だがな、大翔よ。余は、心の底から謝罪したいのじゃ、嘘を吐いたのもそうじゃが、其方を化け物呼ばわりした騎士を止められなかったことや、剣まで抜いて其方に危害を加えようとしたことは、その場で一番立場が上の余の責任じゃ。誠に済まなかった」


 ダメだ、そんなに真剣な眼差しで謝罪されたら、俺は素直に受け取ってしまう。


 絶対に裏があるはずなんだ!


 だけど、俺にはペ◯ス◯リのように腹の探り合いなんて、到底無理だ!


 所詮、俺は庶民だ…… 情けないけど、もう直感を頼りにしよう。


「畏まりました、その謝罪、きちんと受け取りました。リリ、ー--リリもガイアス様を傷付けたことを謝りなさい」

「ーーーうん! 本当に、申し訳御座いませんでした」


 リリは直ぐに立ち上がると、ガイアスの方に体の向きを変えて、両手をお腹の下の方に当てると丁寧に頭を深々と下げた。


「リリ殿、頭を上げてください。あれは元々私が未熟だった故、自らを抑えることができず、あの様な恥ずべき行動に出てしまいました。リリ殿は、大切な人を守ろうとしただけで御座います。だから、謝る必要は御座いません、堂々としていてください。それよりも、真に謝罪しなければならないのは、この私で御座います」


 ガイアス様は真剣な眼差しで俺を正面に捉えると、頭を深々と下げ「誠に、申し訳御座いませんでした」と謝罪した。


 昨日とは打って変わって謙虚な態度に多少違和感を覚えるが、ここは彼の素直な謝罪だと思い許したほうが良いだろう。


 彼にも、同情の余地は十分あると思うからな。


 魔物が万単位で出現して、その魔物を僅かな時間で倒した者が、何食わぬ顔で王様のすぐ傍に現れたのだ、彼の立場なら王様を守るために動くのは当たり前のことだ。


「ガイアス様の謝罪、きちんと受け取りました」


 俺は謝罪を受け取った。


「よし、これでお互い禍根は無くなった。故に、大事な商談に入ろうと思うが、宜しいですか?」


 ジェームズが間に入り、俺と王様は無言で頷く。


「その前に、我々は大翔とリリさんの事は知っておりますが、こちらの自己紹介がまだだったので、私の方から紹介したいと存じます。ー--こちらは、ドリッシュ帝国皇帝、ドリッシュ・コーラル・ステファニー様で御座います」


 陛下は俺に軽く瞳を瞑ると、ゆっくり瞳を開き美しく微笑む。


「それから、こちらが、ドリッシュ帝国宰相、ローレル・アレン・ランドール侯爵に御座います」


 宰相様は軽く頷くと、ニコリともせず真剣な眼差しを俺に向けてきた。


「それでは、挨拶も済みましたので、さっそく交渉を行いたいと思います。ー--大翔は、今現在も種ジャガの交渉を進めたいと考えておられるのかな?」

「勿論です、できれば百万個の種ジャガを、販売して頂ければと考えております」


 なんだろう、種ジャガの交渉に帝国の皇帝と帝国の宰相が加わって、かなり大袈裟な交渉になってきたが、考えてみたらジェームズだって帝国の公爵様だった。


 大企業の役員が勢揃いって、これって完全アウエーだよな。


「大翔、陛下も許可してくれたので、百万個の種ジャガの販売契約を結ぼうじゃないか」


 あれ? アウエーかと思ったら、こうも簡単に契約を結べるなんて、やはり裏が?


 だが、これを断る必要はないよな……


「良いのか、ありがとう。凄く助かるよ」

「それで大翔よ、余からも頼みごとがあるのじゃが」


 やはり来た!


「そ、それは、どのようなお話でしょうか?」

「そうじゃな、以前ルーベル公爵と、ザードの街に工場を設立する話をしていたと思うが、間違いないか?」

「えぇ、その通りです。勿論、新しい街が動き出し、軌道に乗ったと確信した後になりまが」

「それだ。それでじゃな、良かったらザード以外にも帝都には数多くの街がある。勿論最初はザードで良いが、他の街にも工場を作ってみようとは思わないか?」

「それは他の街でも、俺の工場を作る許可を頂けるという事でしょうか?」

「その通りじゃ、其方が望むのなら、帝国皇帝ドリッシュ・コーラル・ステファニーの名において、是非協力をしたいと思っておる」


 えっ、これは何か思惑が在るかもしれないが、俺にとっても願ってもないチャンスだ。


 ここは、どう返事をするべきか……


「別に警戒する必要はないのじゃ、ただ、其方が作る工場の恩恵を、真っ先に我が国が受けたいと思っただけだからな」


 そういう事か。確かに日本の技術は、この異世界にとって途轍もない恩恵を与えることになるだろう。


 そのことを踏まえ、先を読んでの投資と帝国が考えているなら、この条件は俺にとっても好条件だが、帝国にとっても好条件と言える。


 お互いにとって Win-Win の関係なら、それを引き受けない手は無いよな。


「承知しました。ただ、資金と時間が掛かりますのことを、念頭に置いて頂けるようにお願い致します」

「勿論じゃ、余に協力できることがあれば、なんでも話してくれ」

「畏まりした」

「話が上手くいって良かった。ー--もう、固い話や終わりじゃ、大翔よ、今宵はここに泊っていけ。余と、酒でも飲もうじゃないか」


 えぇー、どうしてそうなるの?


 突然そんな事言われても、俺、今から麗華さん達と事務所となる物件を見に行く予定だし。


 だけど、皇帝の誘いを断るなんて…… あぁ、俺には無理だ。


 いや、殆どの日本人が、一国の王様の誘いを断るなんて絶対に無理だろう。


 ハァ、やはり偉い人は面倒だ。


「分かりました。ー--でも、せっかく陛下と吞めるなら、俺にも美味いお酒を準備させてください」

「ほぉ、美味いお酒とな」


 おっ、食いついた!


「えぇ、その通りです。ウイスキーに、ブランデー、スコッチに、ワイン! 更に極めつけは、日本酒、純粋な米の風味を味わうなら、純米大吟醸。それともフルーティーな味わいの大吟醸か、これらを呑み比べるのも酒飲みの楽しみの一つ」

「おぉぉおおー! 何か良く分からないが、美味そうじゃ!」

「そして酒の肴には、例えば珍味どころならウニ、カラスミ、コノワタ、他にもイカの塩辛や、ナマコの酢の物など、数多く御座いますが、準備に時間が掛かるのが難点でして」

「おぉ! なんか美味しそうじゃのぉ! 時間が掛かっても良いから、全部食べたいのぉ」

「それならば今夜、できるだけの物を準備致しますので、少しだけお待ちして頂けますか?」

「うむ! 良かろう! 待っておるので、あまり遅くならないでおくれよ」

「承知しました。なるべく早く参ります。それでは時間が勿体ないので、リリ、すぐにお酒と、酒の肴を取りに行くぞ」

「はい!」

「では、失礼します」

「おぉ、早く頼むぞ」


 ふ~、なんとかなった。


 これで多少の時間は稼げたので、後は麗華さん達との打ち合わせを早めに終わらせ、デパ地下にでも行って準備したら良いか。


 俺はマンションにテレポートしながら、そんな事を考えていた。


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