66、騒動の後。
俺は朝早くから、昨日起こった開拓の災厄について報告するべく、ギルバート様のお屋敷に来ており、先程ガリック様にお屋敷の応接室に案内されている最中だ。
そう言えば、この前来た時も気にも留めなかったが、俺が新しい街を作る前は、このお屋敷は戦争被害者の方々で溢れていて、廊下も人が通れない程の大勢の人で溢れていた。
更に屋敷の外でも、所狭しと簡単なバラックを建てたり、毛布等でテントを作ったりと、とても貴族の屋敷とは思えなかった。
それが今ではバラックやテントも取り除かれており、屋敷の中にいた大勢の領民も、当然のように今はいない。
すっかり元の屋敷としての風貌を取り戻していたが、相変わらず装飾品などは一切なく、広い敷地と立派なお屋敷以外は、平民の家と変わりはなかった。
そういえばガリック様って、確か財務官なのに執事みたいな仕事までしてるが、何故だ?
う~、聞きたいけど、今更聞けないよなぁー。
うん、忘れよう。そのうち、話題が出た時に聞いたら良いや。
「ギルバート様、大翔さんが参りました」
「待っていた、早く通してくれ」
ガリック様が応接室の扉を開け、俺とリリの順で部屋に入る。
すると以前と同じようにエリザベート様がソファー前に立っていて、ギルバート様が机の椅子から立ち上がるとテーブルの方に回り込み、エリザベート様の隣に並んで俺とリリを迎え入れる。
「大翔、いろいろ聞きたい事があるが、取り敢えず座ってくれ」
「「失礼します」」
ギルバート様に促され、俺とリリは両夫妻とテーブルを挟んだソファーに腰を下ろした。
「まず、連絡に遣わしたバッドを助けてくれた事に礼を述べる。ありがとう」
「いえ、お気になさらずに。リリは、当たり前のことをしただけです」
すぐさまリリが返事をすると、両夫妻の顔が綻んだ。
「それで早速で悪いが、魔物は街の外壁を突破できずに森に戻ったのか?」
「ん? ギルバート様は確認してないのですか?」
「あぁ、私は見てない。ただ、ドアーク山の見張り小屋から狼煙があがったから、魔物が大量に発生した事は分かった」
「狼煙ですか?」
「そう、狼煙だ。ー--昨日、魔物を示す赤の狼煙が四本上がった。だから魔物は最低でも一万頭以上の大群が発生したはずだ」
「狼煙の数で、魔物の数が分かるのですか?」
「狼煙の数が一本なら、魔物の数は百頭以下となり、二本なら千頭以下、三本なら一万頭以下、そして四本は、一万頭以上の魔物が発生したことを知らせる合図だ。つまり、昨日は魔物が一万頭以上は発生したはずだ」
「………… 」
なるほど、狼煙の数で魔物の数を教えていたのか、通信手段が存在しない中で考えられた連絡手段か。
「お陰でドリントでは、寝ずの番で魔物を警戒するつもりだったが、突然ドアーク山の見張り小屋から魔物の存在が確認されなくなったらしく、安全が確認されたことを示す青の狼煙があがってな。それで魔物が新しい街に入れなくて、諦めて森に帰ったのかと考えたのだが、違ったのか?」
「えぇーっと、それは、魔物は全て俺が倒したから、それで…… 」
「えぇぇえええー! 一万頭以上の魔物を、全て倒したと言うのか?」
「アハハハ、正確には、五万三千六百四十五頭だったけどね」
「「………… 」」
あっ、二人とも固まっちゃった。
「ほら、前にも話したでしょ、俺は魔物を狩る事ができるって! だから食料は大丈夫だって、あれ? 前にも話しましたよね」
「それは、そうだが…… 数が違うでしょ、数が! 確かに、この前の魔物も凄い数だったけど、五万三千頭余りの魔物を経った数時間で倒したと言うのか、信じられん…… 」
「お兄ちゃんは一時間半で魔物を殲滅したけど、本当は「三十分で倒したかったけど、流石に無理か?」なんて言って、かなり悔しがってたよ」
「こら、余計な事を言うな、恥ずかしいだろ!」
うわぁぁあああー! めちゃめちゃ中二病みたいなセリフ!
どうして、あの時のセリフを覚えているんだよ! もう、頼むから、忘れさせてくれぇぇえええ!
リリに悪気が無いのは分かっているが、俺の心は何度も言葉のナイフでグサッグサッと突き刺さって、ハッキリ言って、もうマンションに戻って布団の中に入りたい。
「そう? でも、本当の事でしょ」
「そ、それは、そうだけど、そうじゃなんだよ!」
「流石大翔様ですわ! 神の御使様としての力は、伊達では御座いませんわね!」
「えっ、神の御使様って…… 」
「大翔様は救世主様でもあり神の御使様でもありますから、魔物の五万や十万なんて、敵では御座いませんわよね! ウフフフフ」
「だから、俺は、神の使徒なんかじゃないですから!」
「あら、ごめんなさい。ー--そう言えば、そういう設定でしたわね」
設定って。エリザベート様は、そんなに俺を神の使徒にしたいのか?
勘弁してくれよ、俺はただのしがない雑貨店の社長でしかないんだから……
「と、とにかく、大翔よ、君は本当に五万もの魔物を、全て退治したというのだな?」
「まぁ、そうですけど、神の使徒ではないですからね」
「そ、そっか。だから、青の狼煙が上がったのか。なるほど、なるほ…… ど…… って、納得できるかーい! 普通の人間に五万を超える魔物を退治できるわけないでしょ。やはり大翔様は、本当は神の御使様なのですか?」
ギルバート様は、両手でテーブルを叩き、更にテーブルの上に乗るという最悪なマナー違反を犯しながら、今にも泣きそうな顔で俺にキスでもしそうな勢いで近づいてくる。
「近い、近い、近い、近い、ちっかぁぁあああーい! 悪いけどギルバート様、離れてください」
「大翔は、本当に人間なのですか? 本当は、神の御使様では無いのですか?」
「俺は、紛れもなく人間だ。神に誓って、神の使徒ではなぁぁああーい」
「あぁ、そうでしたか、本当に人間なのですね…… 済まなかった。私としたことが、冷静でいられなかった…… 」
もう目と鼻の先にギルバート様の濃い顔があって、大粒の唾が俺の顔に掛かるし、もう最悪だよ!
「兎に角、俺は人間だけど、魔物だけには最強と言っても良い。それくらい、ま、も、の、だけには強いつもりだ」
「畏まりました。その設定は、私も守りましょう」
なんでギルバート様まで、設定何て言葉を使うんだよ!
俺は、人間だと言うのに……
もう、良いや、説得するのも面倒になってきた。
この夫婦に何を言っても、設定で論破されてしまうから、もう、良いや……
「と、り敢えず魔物は倒しましたので、どうか安心してください」
「畏まりました。領民達には、そのように申し上げます」
「だから、畏まりますとか言わないでください! いつものように接してくださいよ、お願いしますよギルバート様!」
「そ、そ、そうですか。分かった、分かったから、そんな顔をするな。大翔」
「まったく、俺に敬語とか、本当に止めてくださいよ!」
「分かったって、ほんの冗談だから、気にするな。アハハハハ」
どこの世界に、領主が一平民に敬語なんて使うんだよ。
そんなのもう、ある種のイジメじゃないか。
ハァ、疲れた……
「それから、魔物の肉が沢山手に入ったので、ドリントの方の食料にも割り当てようかと思うのですが、どれくらい必要でしょうか?」
「えっ、ドリントの街にも分けてくださるのですか?」
「勿論です。新しい街も、ドリントの街も、ともにロンバード辺境伯領の領民、協力するのは当たり前です」
「大翔、ありがとう。本当にありがとう」
「ああぁ、流石大翔様。三万人もの人を助けておきながら、更に他に苦しむ人まで救おうとは、やはり貴方様は…… 」
「はい、ストーーーップ! それ以上は言わないでね!」
「あぁぁー、左様でした。それでは、大翔様。あちらの中庭に出していただけますか?」
「分かりました。それでは必要な分だけ出しますが、足りなくなれば使いの者を寄こしてください。すぐにでも参上しますので」
虚ろな瞳で俺を見つめるエリザベート様の言われるまま、俺は中庭に魔物をアイテムボックスから取り出した後、次に行く場所があるからとギルバート様に伝え、俺はリリと一緒に、ザードに在るジェームズの屋敷にテレポートした。




