64、一網打尽。
(院長先生、聞こえますか?)
(えぇ、聞こえます)
(そちらは、皆さん大丈夫ですか?)
(問題ないわ。それより、そっちはどう?)
(見つけましたよ、かなり怪しい人を!)
(そう、それでは後はお願いね)
(任せてくれ、俺の店に手を出した報いを受けさせてやる)
(あっ、あんまり酷…… )
ん? 念話を切るのが早かったか?
まぁ、良い。あいつら、全員捕まえてやる!
(リリ、今回収した物の確認を任せて良いか?)
(えぇ、任せて!)
(では、行ってくる)
(うん、気を付けね)
前回は院長先生達の事が心配で後手に回ってしまったが、今回は違う。既に『緊急避難テレポート』の効果は確認済みだ。よって、俺が慌てて院長先生の傍に行く必要はない。
今回『緊急避難テレポート』が発動した時、俺はゴーテリアの孤児院ではなく、ゴーテリア異世界雑貨一号店の上空にテレポートした。
お店に壊滅的なまでの損害を与えるくらいだから、絶対半端な攻撃ではないと考えたが、案の定前回と同じ丸太を積んだ馬車が、お店に突っ込んでいた。
しかもご丁寧に、今回は二台の馬車がお店に突っ込んでいて、お店の外も中も最悪な状況だった。
だが、丸太を積んだ馬車を二台もお店に突っ込ませるためには、お店に馬車が突っ込むギリギリまでは、大勢の人の手が必要となるはずだ。
つまり、ガラの悪いお前ら全員怪しすぎるんだよ!
俺はお店の前の坂の上にいる十五人の怪しい男達の所にテレポートすると、全員逃さないように片っ端からタッチすると、とある場所にテレポートする。
その場所とは、桁違いに魔物の出現率が高いデュークの森で、そこに俺は高さ五十メートル程の円柱の塔を作った。
塔の頂上の広さは直径三十メートル程の広さで、十五人程度なら余裕で立っていられる。
「な、なぜ、こんな所に…… 」
「さ、さっきまで、街にいたのに、ここはどこだ?」
「な、なにが起こったんだよ…… 」
「おいおい、これは夢なのか?」
「夢じゃないから、心配するな」
こいつら、俺が連続テレポートで連れて来たことに、誰一人気付かなかったのか。
これじゃ王様を守ってたガイアスが、俺のことを化け物と呼んだのも、ある意味仕方ないかもな。
「お、お前、誰だ! お前が、何かしたのか?」
「何なんだお前、いつの間に現れたんだ?」
「お前は、いったい、なに者なんだよ…… 」
まっ、そう言われても仕方ないよな。
ゴーテリアの街に在る雑貨店の経営は、全て院長先生達に任せていたから、俺の存在など知るわけ無いか。
「なに者って、お前達が潰そうとしたお店のオーナーだよ」
「お、お前が、オーナーだと? だとしても、なぜ俺達をこんな所に連れて来た?」
「そうだ。俺達が何をしたというんだ?」
「何もしてない、一般市民にこんな事して、ただで済むと思うなよ。民兵に突き出してやる!」
「そうだそうだ。俺達を、さっさと元の場所に戻せ!」
「はぁ、煩いなぁー、少し待ってろ」
「お前何言っているんだ! さっさ…… 」
あの時間のあの場所に、お前らしかいなかったんだから犯人はお前らで決定なのに、それでも悪足掻きするって、まるでテレビの悪役のまんまだな。
まっ、それも、もう少しでハッキリするから別に良いけど。
(お兄ちゃん、聞こえる?)
(あぁ、聞こえるよ。どうだった)
(うん。バッチリだった)
(そっか、今行くから、待ってて)
(うん)
俺はリリの所にテレポートすると、今度はリリを連れて再び円柱の塔にテレポートで戻ってきた。
突然消えたと思ったら女の子を連れて現れた俺に、流石に男達も俺が普通の人間ではないことに気付いただろう。
更に自分達がリリと同じように連れて来られたことにも、ようやく気付いたようだ。
「今のは、なんだよ。その小娘は、どこから連れてきた」
「おいおい、お前、魔法使いか?」
「何もしてない俺達に、何かするつもりか?」
「そうだ、俺達は何もしてない、だから返してくれ」
「あぁ、そうだ。今返してくれたら、民兵には黙っておいてやる」
「そうだな、黙っておいてやるよ」
ハァ、段々時代劇の水〇黄〇みたいになってきたよ。
では、そろそろ期待に応えて、印籠でも見せてやるか。
「お前ら、これ見えるか?」
「ん? なんだそれ、あぁ! 俺達が箱の中にいる!」
「なんじゃ、本当だ。俺達が箱の中にいるぞ」
「あっ、箱の中の俺達が動いて…… 」
「そう、お前らが動いていて、丸太を積んだ馬車を押しているのが、良く映っているだろ! これがお前らが犯人だという証拠だ。分かったか?」
彼らに見せたノートパソコンの映像は、ゴーテリア異世界雑貨一号店近辺に、大量に仕掛けられたソーラーパネル付き監視カメラの映像で、さっきまでリリに映像を確認してもらっていた。
まっ、映像が無くても、こいつらが犯人で間違いないけどな。
監視カメラの存在を知らない異世界の悪党共は、カメラの目の前で堂々と犯行を行っており、犯行時の一人一人の顔がハッキリと分かるほど鮮明に映っていた。
「そんなの証拠になるか! 俺はそんなの知らないわ!」
「お、俺も知らねぇーや」
「俺もだ、俺も身に覚えがない!」
「そんなの、なんの証拠にもならんわな」
「うるせぇ! 黙れ! お前ら泣こうが喚こうが、これはお前らが犯した犯罪の証拠なんだよ。それに、俺が証拠だと知る事ができたら、それで良い」
こいつらが犯人だと確実に分かる証拠さえあれば、こいつらが何を言っても関係ない。
別に監視カメラの信頼性を、こいつらに説明しようとも思わないし、こいつらが納得しなくても別に気にしない。
だって、これから裁くのは俺だから。
「どういう意味だよ! それは酷すぎるぞ!」
「そうだ、そうだ! さっさと俺達を元の場所に戻せ」
「あっ、な、何をする」
一番煩かった男の隣にテレポートすると、男と一緒に今度は塔の十五メートル上空にテレポートして、そのままテレポートを連続で発動して上空に浮かんだ状態を作り出す。
「さてと、嘘吐きは、ここから落ちて死んでもらおうかな…… 」
「えっ、う、嘘だろ、本当に落とすのか?」
「えっ、なんで落とされないと思っているの? 俺の店潰しておいて、自分は何もされないと思っていたの? バカじゃない?」
「ちょっと待て、俺は本当に何もしてないんだよ、信じてくれ」
「もう良い、後悔は地獄に落ちてから幾らでもすればいい。じゃ、もう、死ね!」
「わ、分かった! 全部話す、全部話すから、許してくれ!」
フ~、まったく芝居するのも大変なんだから、早めに認めてくれて良かったよ。
本気で落としたら、寝覚めが悪いからな。
それにしても芝居とはいえ、無理やり悪人らしい笑顔を作るのは、結構面倒だな。
「で、全部話すと言ったからには、誰が黒幕か教えてくれるんだろうな」
「あぁ、話す話す。だから、落とさないでくれ」
「良いから、さっさと言え」
「あの店を潰してくれと頼んだのは、そこにいるドルーゲ商会の会頭のドルーゲだ」
「ふざけるなぁぁあー、勝手に白状するんじゃねぇ! おいドリアーノ、その小娘を、さっさと捕らえて人質にせんか!」
「おぉ、任せろ。みんな、小娘を捕まえろ!」
「「「「おぉ!」」」」
なるほど、今大声で「ふざけるな」と口にしたのが、もしかしてドルーゲか?
しかし、大人しく捕まれば良いのに、リリを人質にしようだなんて、可哀想に……
案の定、乾いた炸裂音の数と同じ分だけ、男たちの悲鳴がデュークの森に響き渡った。
悲鳴の元凶となったリリは、両手に持つルガーLC9sを男達に向けたまま、余裕の表情で彼らに冷たい眼差しを送っている。
悲惨なことに、リリに飛び掛かった八人は、全員足の甲を撃ち抜かれて立つこともできず、その場で悲鳴を上げながら転げ回っている。
「止めといた方が良いよ。その子は、俺よりも危険だから」
ドルーゲと呼ばれた男の上空二メートルにテレポートすると、捕まえてた男を彼の真上から落とし、更にもう一度テレポートを使いリリの前に移動する。
「それで、お前がドルーゲか?」
「お、俺は、ドルーゲなんかじゃない」
「そっか、まっ、本当かどうかなんて、その辺に転がってる人に聞けば良いか。もし、嘘を吐いてたら、ここから落ちてもらうからな!」
うーん! 俺って悪役もいけるんじゃね?
なんか、肩で風切って歩きたくなってきたぞ!
って、そんな目で見るなよリリ!
あっ、溜息まで吐いてるし……
「お、俺がドルーゲだ…… 」
「それで、どうして俺の店に馬車を突っ込ませたんだ?」
「そ、それは、あの店が邪魔だからだ」
「ふーん、邪魔なら潰すんだ。なら、俺がお前を潰しても文句ないよな」
「そ、それは…… 」
「まぁ、良い。どうせここで、ワイバーンの餌になってもらうんだからな」
「「「「えぇぇえええー! 」」」」
「こ、ここに置いていくのか?」
そりゃ、置いてくでしょ。
こんな悪党、生かしておく理由もないし、かと言って俺やリリが手を汚す理由もない。
ここで野垂れ死ぬか、本当にワイバーンの餌にでもなった方が、世のために人のためになるってもんだ。
「頼む、許してくれ。何でもするから許してくれ!」
「嫌だ。お前らさぁ、今迄許してくれと言った善良な人を許したことがあるのか? だいたいお前ら、お店の店員だけでなく、お店に来たお客様まで殺そうとしただろ。それなのに今更助けてくれって、そんなの無理だから諦めろ」
「「「「そんなぁー!」」」」
ここで置き去りにしても良いけど、ハッキリ言ってあまり殺人は犯したくない。
それに怯える彼らを殺したところで、気分が良くなるとは思えないからな。
「それが嫌なら、大人しく民兵に捕まって全て正直に話すか?」
「あぁ、話す話す、だから街まで連れて行ってくれ」
「本当か? もし嘘を吐いたら、今度は本当に置き去りにするからな」
「あ、あぁ、もう嘘は吐かない。だから、置き去りだけは止めてくれ」
「そっか、別に嘘を吐いても、またここに連れてきたら良いだけだから、一度だけ信じてあげよう。だが、嘘を吐いたら……」
「わ、分かっている。だから頼む」
「仕方ないなぁ、なら、少しだけ眠ってろ」
俺はアイテムボックスから護身用のスタンガンを取り出すと、彼らを順番に気絶させ、一人一人後ろ手にすると、両手の親指同士と両足の親指同士を結束バンドで締め上げた。
後は夜遅く人けのない時に、テレポートで全員を破壊されたゴーテリアの街のお店の前に連れて行き「私達が壊しました」と書いた板に紐をつけ、ドルーゲの首に掛けておく。
これで朝になれば通りすがりの人が気付いて、民兵に連絡してくれるだろう。
まっ、逃げたら、今度は本当に置き去りにすれば良いだけだ。
あぁ、明日は麗華さん達が選んだ事務所の確認と、ギルバート様との謁見、そしてジェームズはどうしよう……
ハァ、早く帰らないと、もう寝る時間がないよ……
俺は項垂れながら、リリを連れてマンションにテレポートした。




