59、見学会。
なに、この状況?
どうしてこんなに、鎧を着た大勢の人がいるんだ?
昨日ジェームズと念話で話をして、今朝、帝都のジェームズの屋敷に迎えに来てくれと言うから来たのに、屋敷の中も外も大勢の鎧を着た人達がいて、まるで厳戒態勢だ。
数えたら、百人以上はいるかもしれないが、数えるのは面倒なので止めておく。
「き、貴様、い、いったい、どこから現れた?」
「はい? どこからと言われると一番困るけど、敢えて言うならバスタアニア王国にあるロンバード辺境伯領に新しくできた街に、なるかな」
俺が首をひねりながら答えると、少し小太りの男は顔を真っ赤にしながら、明らかに苛立っている様子だ。
なぜ本当の事を話したのに、機嫌を悪くするんだ?
だいたい、俺はジェームズにテレポートで迎えに行くと話していたんだから、俺の移動手段は初めから知っていただろ。
それなのに、勝手に驚いて機嫌を悪くするなんて、理不尽だと思わないのか?
この、ちょっと頭の薄いおっさん!
「悪い大翔、ちょっと手違いがあったが、別に問題ない」
「でも、この大勢の人達はいったい?」
「か、彼らは、私の事が心配で見守りに来ただけで、別に他意はない」
「公爵様、失礼ですが今がつかま…… 」
「下級貴族の分際で黙れ! それ以上騒ぐと、貴様独り置いて行くぞ」
「そうじゃな、ローレル徴税官。それ以上騒ぐことは許されないことじゃ、分かるな?」
「そ、そんな…… か、畏まりました、へ、いや、ステファニー徴税官」
「それで良い。それより、ここは空気が悪いから、挨拶は向こうに着いてからじゃ。それで良いだろ、ルーベル公爵、さま」
「も、勿論、それで良いかと」
ん? なんかジェームズの態度がいつもと比べおかしいが、下級とはいえ他の貴族がいたら態度も変わるのか?
いや、これが本来の、貴族としてのジェームズなのかもしれないな。
普段とは別人のようなジェームズだが、どうせ猫でも被っているんだろうな。
それよりも、ジェームズを守るためとはいえ、護衛騎士が百人以上なんて、有り得なくないか?
「あのさぁ、ジェームズ。流石にこんなに大勢の人を連れて行くのは、無理だからな」
「分かっている。一緒に行く騎士は決まっている。ーーー紹介する、彼らが今回同行を共にするドーズ、グリル、ギル、ボトム、そしてガイアス。ガイアスには、今回の護衛隊長も任せている」
五人の騎士達と簡単な挨拶を済ませた俺は、新しい街見学会の最終メンバーの確認を執り行う。
「連れて行くのは、ジェームズとステファニー徴税官にローレル徴税官、それから五人の騎士様で宜しいでしょうか?」
「うむ、それで良い」
さっきから、ステファニー徴税官が、やたらと態度が大きい気がするが、もしかして偉い貴族とでも繋がりでもあるのか?
もしそうなら、嫌だな……
後で面倒な事にならなければ別に良いけど、進んで気乗りはしないよな。
まっ、別に気にしてもしょうがないか。俺はジャガジャガの種ジャガさえ売ってもらえたら、それで良いんだから、徴税菅のことはジェームズに任せよう。
「それでは新しい街にテレポートしたいと思いますが、その前に皆さん隣の方の手を繋いで頂けますか? もし手を繋いでいなかった場合、その人だけ置いて行く事になりますので、どうか注意してください」
「皆分かったか、彼の言う事を良く聞くのじゃ。さぁ、余、私の手を繋ぐのじゃローレル徴税官」
「か、畏まりました。それでは、失礼致します」
「さぁ、君達も早く手を繋いでくれ、時間が勿体ないから早くしてくれよ」
「畏まりました、公爵様」
俺の手をジェームズが繋ぎ、それに続くように全員が手を繋いだのを確認してから俺は、新しい街にテレポートした。
「おぉ、これがテレポートか! 凄いな、本当に一瞬で景色が変わったぞ」
「左様ですな、それと、この景色は…… 」
「あぁ、そうじゃな。信じられんことじゃが、公爵、さまの申された事は、どうやら本当のようじゃな」
「えぇ、左様で御座いますなぁ」
ん? もしかしてあの口ぶり、テレポートで移動すると言う話をジェームズから聞いていたのに、信じてなかったのか?
だがまぁ、それも仕方ないか。普通ならテレポートなんて、誰も信じないからな。
「リリ、お待たせ」
「うん。お兄ちゃんも、お疲れさま」
今回リリには新しい街で留守番を頼み、俺は一人でジェームズ達を迎えに行っていた。
ジェームズから徴税官が来ると聞いていたので、流石に女の子と二人で迎えに行くのは憚れたからだ。
「それでは、最初に太陽光発電システムから案内をしますので、俺に付いて来てください」
「ステファニー徴税官様、さっそく大翔が案内してくれるそうですので、参りましょうか?」
「そうじゃな…… 」
「最近街の中を案内することが多いので、こちらの車を準備しました。ですから皆さん、こちらの車に乗っていただけますか?」
街の広場にテレポートした俺は、アイテムボックスからマイクロバスを取り出すと、彼らにマイクロバスに乗ることを勧める。
新しい街の道路は、今後農産物等をトラックなどで運ぶ事を考え、道路幅は大型トラックがすれ違っても問題ないように作られている。
アイテムボックスで運べれば楽で良いが、流石に畑全域にアイテムボックスを設置する事は不可能なので、将来的にはバイオ燃料を利用したトラックを考えている。
それに広い道路は街の発展にも繋がるし、結合のスキルで固められているから、地盤沈下や埃などの問題も少ないと思う。
「こ、公爵、さま、これはなんじゃ?」
「私にも分かりかねますので、少しだけお待ちを。ー--大翔、これはなんだ?」
「これは、馬車のような乗り物だと考えてください」
「これが馬車だと、ふざけるな。馬もいなければ、馬を馬車に繋ぐ馬具すら無いではないか。これが馬車なら、どうやって動かすつもりだ」
「静かにしないか、ローレル徴税官。まずは、大翔殿の話を聞いてみようじゃないか」
「し、失礼しました、へい、ステファニー徴税菅様」
これは俺が悪いな。
馬車みたいなものと言ったが、マイクロバスは馬車と似ても似つかない別の物だ。
異世界には自動車なんて存在しないんだから、ローレル徴税官が文句を言いたくなる気持ちも分かる。
まっ、百聞は一見に如かずだな!
「すまなかったな、大翔殿。初めて見る物なので、ビックリしてしまっただけじゃ、気にしないでくれ」
「勿論です、ステファニー徴税官。ー--どうか、こちらの扉から中に入ってください。私が馬車みたいな物と話したことが、良く分かりますから」
「そうか、分かった。皆の者、大翔殿の迷惑になってはいけない。さぁ、早く乗るのじゃ」
「「「「はっ、失礼します」」」」
ステファニー徴税官の一言で、誰もが畏まったように動き始め、全員がバスに乗り込む。
俺は彼ら全員がバスに乗り込むと、彼らにシートベルトを装着していく。
誰もが嫌な顔をしながらシートベルトをするが、これも安全のためだから仕方ない。
走行中に誰かが立ち上がって怪我でもされたら、種ジャガの取引が中止になってしまう恐れがあるからだ。
「リリもシートベルトはした?」
「うん!」
「じゃ、行こうか」
リリが助手席に座り、シートベルトを装着するのを確認してから俺はエンジンを掛ける。
「なんじゃ、この音は」
「妙な振動がするぞ、これはいったい…… 」
「それでは出発しますので、しっかり座っていてくださいね」
「うぉぉおおー! 動き出したぞ!」
「なんじゃこりゃ! 馬も繋がってないのに、馬車だけで動き出したぞ!」
「信じられんことじゃが、馬車よりも遥かに早いなこれは」
バスの中は幼稚園児の遠足のように、ワイワイガヤガヤと騒々しくなり、ハッキリ言ってかなり煩い。
だが、久しぶりに「なんじゃこりゃ!」も聞けたし、彼らにとっては初めてのバスなので、大目に見るかな。
(お兄ちゃん、煩いからCDかけても良い?)
(そうだな、別に良いんじゃないか)
(ありがとう)
(何を聴くの?)
(え~っと、放〇後テ〇ータ〇ムでも良い?)
(良いんじゃない。俺、好きだし)
(分かった)
リリが『放〇後テ〇ータ〇ム』を再生すると、バスの中では『天◯にふ◯たよ!』が流れ始める。
最近のリリの、お気に入りの曲で、俺が神曲だと思う一曲だ。
だが音楽が流れ始めると、後ろの幼稚園児たちが更に大声で騒ぎ始め、もう煩くてしょうがない。
呆れたリリは、仕方なくボリュームを上げた。




