5、日常
数日前にリリと服を買いに行ってから、俺は冒険者ギルドで仕事を受ける事もなく、王都の街を彼女と探索している。
探索と言えば仰々しいが、実際は散歩したり食事をしたりと、遊んでいると言ったほうが正しいかもしれない。
理由は、リリに俺の事を知ってもらいたいのと、俺も彼女の事が知りたかったからだ。
相棒として、これから一緒に暮らしていくのに必要な時間だと考えたからだ。
その甲斐もあって、最近のリリは良く笑うようになった気がする。
なんとなくだが、リリとの暮らしも落ち着いてきたので、俺はそろそろ荒稼ぎがしたくなってきた。
勿論、丸太の仕事でかなり儲けたが、今後もそんな儲け話が転がっているわけでもない。
俺はリリに留守番を頼み、朝からスーパーに行くと塩、砂糖、胡椒、唐辛子などの香辛料を大量に購入する。
更にホームセンターに行くと蝋燭、石鹸、シャンプー、コンディショナーなどの日常製品も大量に買い占めた。
アイテムボックスには幾らでも入るので、売れると思った物は片っ端から買い込んでいく。
大量に買い込むと誰もが不思議そうにジロジロ見るが、そんな事がどうでも良いと思えるほど、今の俺にはスーパーやホームセンターが海賊の隠した宝の山のように思えて、心の底から笑いが止まらなかった。
景気良いついでに、某車屋さんスズ◯に行き、ジ◯ニーを予約してからマンションに帰る。
納車は一ヶ月後と言われたが、あの世界を車で走るのを想像したら、今から楽しみでしょうがなかった。
マンションで留守番してるリリと、一緒にコンビニの弁当を食べてから、異世界にテレポートする。
異世界に移動したらすぐに冒険者ギルドに足を運び、掲示板とにらめっこしながら情報を集めた。
俺が情報を集めている間に、リリは不◯家のMILK◯に夢中になっていた。
甘いものが大好きなリリは、コンビニのプリンをおやつに出すと、可愛い瞳を大きく真ん丸にしながら、カップの蓋も舐め回すほど綺麗に食べてくれる。
多少機嫌が悪くても、コンビニのスイーツを出せば許してもらえると、最近俺は学んだ。
既にリリは、異世界に引き返せないほど日本のスイーツの虜になっていた。
話がそれたが、掲示板で得た情報を整理すると、魔物討伐は常時行われており、結構良い値段で売れる。
勿論、ラノベでも見かけたように薬草などの採取依頼もあるが、今の俺には薬草の判別が難しく、採取に時間も掛かりそうなので儲けは少ないと思える。
護衛の依頼や、盗賊の討伐依頼は最初からパスだ。
アイテムボックスを使い、魔物から核を奪い取って倒す俺の戦い方は、人間相手には通用しない事は分かり切っていた。
結論から言うと、魔物の討伐が俺のスキルを活かせる分、安全確実で一番儲かる。
今は日本の商品を売る方法が思いつかないので、暫くは冒険者ギルドを通して金儲けをするしかない。
俺は、常時依頼の魔物を狩るため、リリと二人で魔物のいるデュークの森に出かける準備をする。
当初、リリにはマンションで留守番をしてもらおうとも考えたが、万が一彼女がマンションに居るところを誰かに見つかれば、俺は誘拐罪や監禁罪で刑務所に入る可能性がある。
日本で、幼い女の子を部屋に入れるということは、たとえ同情や善意だとしても法律上で裁かれるのは免れない。
そうなったら俺は、確実に世間でロリコン認定され、社会的に抹殺されるだろう。
俺と一緒なら誰かが来ても、テレポートで一次避難は簡単だが、リリ一人だと不安が残る。
勿論、隣近所や警察にも言い訳はするが、異世界の事を話せるわけもなく、結局最後は日本からも逃げ出す羽目になるだろう。
何より、役に立ちたいから絶対に行くと、涙目で訴えるリリの気持ちを最優先に考えたいと思ってしまったからだ。
一緒に連れて行くとなれば、リリの安全確保は何よりも最優先事項とり、俺は悩んだすえ、一つの妙案が捻り出した。
以前行った丘の上にテレポートすると巨大な岩を見つけ、人がしゃがんで潜れるほどの小さめの穴をくり抜く。
岩の中に潜っていき、ある程度進んだら岩の内部を人が生活できるように、丁寧にくり抜いていく。
後は、最初にくり抜いた小さめの穴の内側に、ホームセンターで買った丈夫な扉を取り付ければ、強大な岩の隠れ家の完成だ。
勿論、くり抜く方法は、以前地面に穴を開けた時とおなじように、アイテムボックスを使う。
これでリリの安全も確保でき、ちょっとした休憩もできる。
日も暮れてきたので、魔物討伐は明日からにして、俺とリリは再びマンションに戻ることにする。
「リリ、マンションに戻るけど、夕飯は、何食べたい?」
「何でも良いけど、リリが選んでも良いの?」
「勿論、何が良い?」
「だったら、カップ麺?」
「あれは、非常時用だから、ダメ」
「えぇー、リリが決めても良いと言ったのに」
お互いを知るための時間が功を奏したのか、、リリは自分の意見をきちんと言うようになった気がする。
俺の事を信頼してくれているなら、嬉しい限りだ。
ただ、カップ麺とコンビニ弁当が好きすぎて、多少困った意見も言うようになった。
俺が自炊しないのが問題と言えば問題なんだけど、一人暮らしで自炊って却ってお金が掛かるから、ケチな俺がするわけがない。
精々カップ麺か、袋麺で満足するんだよ俺は……
だが、このままでは大事なリリの健康に、不安が残ってしまう。
俺に選べる道は一つだけで、答えは自炊だ! 俺が自炊すれば全てうまくいく。
分かってはいるんだよ、分かっては。ただ、面倒なだけなんだよ。
「リリ、今日は、お兄ちゃんが、美味しいカレーを作ってあげよう」
「カレーって、なに?」
「美味しくて、栄養があって、値段も安い庶民の味方だ」
「そんなに! リリ、カレー食べたい」
話は纏まり、俺とリリはマンションにテレポートすると、炊飯器をオンにしてから、リリに留守番を頼み、俺はスーパーに駆け込んだ。
ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、牛肉、そしてカレールー。
特にカレールーは、お金が儲かる匂いがプンプンするので、超大人買いだ。
リリを待たせるわけにはいかない、俺は近所のスーパーなのに、トイレに駆け込みマンションにテレポートする。
これが正しいテレポートの使い方だ。
「見ちゃダメぇぇええ! お兄ちゃん、あっち向いて!」
「ごめん、ごめん」
「お兄ちゃん、リリのパンツ見たでしょ」
「見てない、見てない」
運が良いのか悪いのか、リリは着替えの真っ最中だった。
「お兄ちゃんの、エッチ」
「本当に、わざとじゃないから、ごめんな」
真っ赤な林檎みたいに頬をぷくっと膨らませたリリは可愛いけど、それを指摘して余計にエッチと言われるのは嫌なので、頬をツンツンするだけにする。
「むう、なにふるのよー。りりふぁ、おほってるのよ」
「ごめん、ごめん。可愛かったら、つい!」
「お兄ちゃんったら、なんで頬をツンツンするのかなぁー。ーーーでも、お兄ちゃんが、どうしても見たい…… 」
最後のほうは、良く聞こえなかったが、これがお約束というやつなのか……
ラノベみたいでちょっと楽しいが、現実は少し違う。
幾らリリが可愛いからと言って、見た目九歳の女の子のカボチャパンツなんて、色気も何もあったもんじゃね。
正直、何とも思わないが、ーーーそれをリリに話す勇気は俺にはない。
俺はまだ、死にたくない。
冗談はその辺に置いといて、俺は素直にリリに謝ってから、ワンルーム特有の小さなキッチンに立つと、小さなまな板と果物ナイフを武器に、食材と戦った。
頑張って戦った甲斐もあり、大きさはバラバラで肉は細切れ状態になってしまったが、それでも一応カレーが完成した。
ちょっと不安が残るが、初心者なんて誰でもこんなもんだと自己完結して、皿に乗せたカレライスを食卓に運ぶ。
「リリ、これが、カレーだ」
「これが、カレーなんだ」
リリは、軽くカレーライスをスプーンに乗せ口に運ぶと、目を丸く輝かせながら何度もスプーンを口に運んだ。
「お兄ちゃん、カレーって、最高の料理だね」
「だろ。俺も大好きなんだ」
「少し辛いけど、凄く美味しいよ」
「辛いって、甘口なんだけどなー」
「お兄ちゃん、おかわりしても良い?」
「勿論だ」
どうやらリリは、カレーがお気に召したようだ。
流石日本が誇るカレールー、食材の形が歪でもきちんと美味しく仕上げてくれて、俺は大いに満足した。
滅多にしない自炊だったが、リリのためにもこれからは沢山のいろんな料理に、挑戦しようとかとか思っていた。
リリのこともあるが、時間が経過しないアイテムボックスに、食材や調理済み料理が保存でき、食品ロスが出ないことに気付いてしまったからだ。
明日は朝早くから日銭を稼ぐために、デュークの森で魔物狩りをするつもりなので、その日は少し早いが布団に入った。
次第にリリと一緒にいる日常が、俺の大事な宝物になっていた。