表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/88

57、お風呂。

「ロザンヌさん、ちょっと待ってください。べ、べべ、別に一人で洗えますから、気にしないでください」

「ですが、綺麗に洗うのであれば、誰かの手を借りた方が良いかと存じますが」


 そう言って小さなタオルで前をそっと隠しながら、ロザンヌさんが近づいてくる。


「ゴクッ! こ、これは…… 」

「では、お背中洗いますので、お風呂から上がっていただけますか?」

「は、はひぃ!」


 くそ、久しぶりの女の裸に興奮すんじゃない俺! ただ、背中を洗ってくれるだけじゃないか。


 メイドの仕事のうちだって、たぶん、いや、きっとそうだ。


「では、お言葉に甘えて…… 」

「はい、こちらにどうぞ」


 し、慎重に前を隠しながら風呂から出るだけだ、って、もう出れる状況じゃない!


 これじゃ、ダメだ。元気良すぎて、風呂から出れないよぉー。


 そうだ! 確か、こういう時は、下半身に集中している血液を、上半身に分散してやれば元気なヘルワームも大人しくなると、中学生の時に先輩から聞いたことがある!


 先輩の話だと両腕に力を入れ、できるだけ大きな力こぶを作り、そこに血液を集めれば元気なヘルワ……


「御主人様、力こぶなどお作りになって、どうしたのですか?」

「いや、これはその、なんて言うか、アハハハハ」

「早く出てきて頂けますか? 私も冷えてきましたので、早くお願いします」

「ハァ、そうですか、そうですよね。アハハハハ」


 作戦失敗だ、ヘルワームは未だ臨戦態勢保ったままで、このままでは爆死しかねない。


 だが、断る理由が見当たらない。いや、断りたくないという強い衝動が、俺の心の奥底で暴れまくっている。


 敢えて胸の内を説明するなら、某有名アニメの名セリフ「逃げっちゃダメだ!」が、繰り返し頭の中で響き渡ってる状態だ。


 これは、もう覚悟を決めて行くしかない!


「では、失礼してお願いします…… 」

「こらぁああー! お兄ちゃんに何するのよ!」

「あら、お嬢様もお風呂に入りに来たの?」

「ちがぁぁーう! リリは、ロザンヌさんがお風呂に行ったと聞いたから、注意しに来ただけで、別にお風呂に入りに来たわけではないです」

「でも、お嬢様、ー--全裸ですよ」


 はい? 湯けむりで良く見えないが、本当に全裸なのか? リリ!


 お風呂に入りに来なかったら、なぜ全裸なんだよリリ!


「こ、これは、そう、日本では、お風呂に入る時、タオルを持ち込むのは禁止と話していたから、だからタオルは置いてきただけで…… 」


 違うぞリリ、湯船の中に入る時にタオルをお湯に浸けたらダメなだけで、お風呂場の中にタオルの持ち込みは大丈夫だぞ。


「日本? 何を仰ってるのか、良く分からないけですけど、ですがお嬢様、タオルは分かりましたけど、なぜ服を脱いだのですか?」

「そ、それは、マンションのお風呂場は狭くて、お兄ちゃんの背中を洗えないから、ここのお風呂場は広いって、さっきシェリーさんが話してくれたから、それで洗ってあげようかなって…… 」

「マンションって、何かしら? まっ、良いわ。それなら、お嬢様も、私と一緒に御主人様の背中を洗いますか?」

「えぇぇえええー! それはダメでしょ! いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、悪いけど、二人とも出て行ってくれ!」


 幾ら何でもリリと一緒にお風呂に入るなんて、それは倫理的な観点からもダメだからな!


 それに、リリの将来を考えたら、絶対に許されない事だ!


「なんでお兄ちゃん! ロザンヌさんなら良くて、リリはダメってことなの?」

「そうじゃなくて、そうだけど、そうじゃなくて、なんて言ったら良いか分からないが、兎に角、許されないというか、アウトというか…… 」

「やっぱり、ロザンヌさんの方が良いんだ!」

「違う違う、ダメだからダメだから」

「あら、私はダメなの?」

「だから、もうー、ヘルワーム的に問題で、あぁぁああー、何言ってるんだよ俺! もう、どうでも良いから二人とも、出て行ってくれ」


 まったく、良い加減にしてほしいよ、せっかくでかいお風呂を楽しんでいたのに、ー--って、本当に全裸かよリリ!


「だったら、御主人様に選んでもらいましょうか、どちらに背中を洗ってほしいのか、私と勝負しますかお嬢様?」

「え、えぇ、良いわよ。お兄ちゃんは、リリを選ぶに決まってますからね!」

「だ、そうですけど、御主人様は、どちらに洗ってほしいのですか?」

「リリだよね、お兄ちゃん!」


 ハァ、これって、リリを選ぶしかないだろ。


 今後の事を考えたら、リリを選ぶしかないだろ、勿体ないけど……


「裸じゃないリリで、お願いします」

「やった! だったら、服着てくる」

「お嬢様が良いですって、良かったわね。ちゃんと、お膳立てしたから、楽しんで…… 」

「♡…… 」


 喜ぶリリと、なぜか微笑むロザンヌさんが、仲良く脱衣場の方に消えていく。


 ん? 今ロザンヌさんが、何か言ってなかったか? 


 良く聞こえなかったが…… いや、それより俺も前を隠さないと、大変なことになる。


「お兄ちゃん、バスタオル巻いて来たけど、これなら良い?」

「あぁ、それなら良いよ。でも、なんで急に背中を洗いたいんだ?」

「だって、お兄ちゃんには命も助けてもらって、それから服とかも買って貰ったり、いろいろしてもらっているのに、何も返してないから、せめて背中くらい洗おうかなって…… 」

「別に、リリは何も返してないわけじゃないだろ、俺はちゃんと返してもらっているからな」


 リリに前を見せないように注意しながら風呂から上がり、椅子に座るとリリが背中を洗いに来た。


 うん、ちょっとくすぐったいかな。


「リリはどう思っているのか知らないけど、俺はリリのお陰で毎日楽しい思いをしているんだから、そんな風に思う事ないんだぞ」

「うん、お兄ちゃんなら、そう言うと思っていた」

「だったら、なんで背中を洗おうなんて思ったんだ?」

「そ、それは、お兄ちゃんが思っていても、リリがお兄ちゃんの背中を洗いたいって思ったからだよ」


 まったく律儀と言うか、そんな事気にしなくても、俺達はもう立派な家族なんだから、遠慮なんか要らないのに。


 でも、まぁ、リリがそれで気が済むなら、好きにさせるか。


「なぁ、リリ」

「なに、お兄ちゃん」

「最近凄く忙しいけど、実は沖縄の宮古島に中古だが家を買ったんだ。だから、落ち着いたら引っ越そうか」

「………… 」


 あれ? 返事がないけど、なぜ?


 もしかして、嬉しすぎて言葉もないとか?


 そっか、それなら、やはり買って良かったかな。


「なんで買ったの?」

「えっ、だって、そろそろリリも独り部屋が欲しいのかなって、思ったから」

「リリ、別に独り部屋なんて要らないもん…… 」


 えぇぇえええー! なんで、なんでリリの機嫌が悪くなるんだ?


 良かれと思ったのに、って、なんで背中に抱きつくんだよ!


 小さいけど、当たっているんだよ!


 二個のボタンが!


 あぁ、これは、バスタオルが外れているのに気付いてないのか……


 なんて言えば、傷つかずにバスタオルが外れてるって伝えられるんだ?


 変な言い方すれば、セクハラか?


「あのね、リリは今のマンションが好きだから、別に引っ越しとか要らないからね」

「でも、リリにだってプライベートな時間は必要だろ?」

「それは、そうだけど。でも、マンションを引っ越すくらいなら、プライベートな時間なんて要らない!」

「えぇ、そうなの? でも、リリも一人前の女子だから、そういう時間も大事だろ」

「えっ、お兄ちゃん、リリのこと普通に女子(おんな)として見てくれてるの?」

「そりゃ、そうだろ、だってリリは普通に女子(女の子)だろ」


 どこからどう見ても、リリはまだまだ女の子だよ。これから大人になって、綺麗な女性になるんだから、変な噂が立たないように俺が気を付けないとな。


「えへへへへ、そうだよ、リリは一人前の女子(おんな)だからね」

「そうだな、それで、宮古島に引っ越す話だが…… 」

「それは、ダメ! 絶対に嫌!」

「えぇ、なんで?」

「だ、だから、今のマンションが気に入っているから、そ、それが理由なの」

「そんなに? あの狭いマンションが気に入っているの?」

「う、うん! 狭いけど機能的だし、それにお兄ちゃんと一緒に眠…… 」

「なに? 何か言った?」

「ううん、何でもない。でも、とにかく引っ越し禁止! リリ、今のマンションが良い!」


 そんなにあの狭いマンションが気に入っているのか?


 プライベートな時間も要らない程、あのマンションが良いのかよ。


 まぁ、そんなに引っ越すのが嫌なら仕方ないが、宮古島の家どうしよう……


「せっかく買った家、どうしようか?」

「そうだ、別荘として使ったら良いのよ。たっまーーーに、泊りに行ったら良いのよ」

「そっか、そうだな」

「うん!」

「あとそれから、バスタオル外れているからな」

「お兄ちゃんの、エッチ!」


 なぜビンタ?


 「最初から全裸だったくせに、なぜビンタ?」


 リリが走って逃げ行った脱衣所の方を見ながら、俺は思わず呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ