55、ジェームズからの条件。
麗華さん達とは念話で連絡を取り合うようになり、暫く日本での俺の仕事は彼らが代わってくれる事になったが、先に会社の事務所となる物件を探さないと設置型アイテムボックスが設置できないので、彼らの仕事は当面事務所探しが最優先事項となる。
彼らのお陰で異世界に専念できることになり、現在俺はメイド長のロザンヌの案内のもと、ジェームズの屋敷、つまりドリッシュ帝国のルーベル公爵邸にリリを伴って来ていた。
ジャガジャガの種ジャガを手に入れるために、ジェームズと交渉するためだ。
「久しぶりだな大翔。元気そうで何よりだ」
「ジェームズも元気そうで何よりだよ」
執事のレディアーノの案内で俺達は、ジェームズの執務室に通されている。
彼の執務室は屋敷と同じように沢山の贅が散りばめられており、壁には値段の張りそうな絵画や刀剣などが飾られ、書棚には硬そうな表紙に守れらた本がぎっしりと並べられている。
更に机やソファー等の家具も、きめ細かな作りと彫刻が数ランク上の価値を見出し、どれ一つ取っても平民には手の届かない貴重な代物だと、素人の俺にさえ分かるほどだ。
同じ貴族でも、ギルバート様の屋敷とは雲泥の差だ。
まぁ、戦後処理で大変なギルバート様を、他に類を見ない程景気の良い国、帝国の公爵でもあるジェームズと比べるのは、酷な話だと言えよう。
「昨日帰宅してレディアーノから少し聞いたが、なんでも王国の、辺境伯領の領民を救うためにジャガジャガの種ジャガを探しているようだな」
「えぇ、できれば大量に欲しくて、それでジェームズの事を思い出して訪ねて来たわけです」
「まぁ、外ならぬ大翔からの頼みだ。勿論喜んで協力させてもらいたいが、なにぶん他国の事だ。簡単に私が手を出せば、公国や他の国に何を言われるか分からないからな」
「………… 」
ジェームズが心配するのは当たり前で、公爵と言えば王族にだけ与えられる爵位だ。つまりジェームズは王族の一人であり、帝国の政策に携わる重要人物の一人と言える。
その彼が他国に手を貸せば、王国と敵対している国に帝国が敵視され、余計な軋轢を生みかねない。
「だが、人道的観念から協力しても良いが、それにはクリアしなければならない問題が幾つかある」
「問題ですか?」
「そうだ。一つは皇帝の許可が必要となるが、それは私が何とかしよう。ーーーそこで相談だが、皇帝の許可を得るためにも実際に私が現地に赴き、どのような状況なのか確認する必要がある」
「現地の確認というと、俺が作った新しい街を視察するということですか?」
「その通りだ。大翔の事は信用しているが、皇帝に報告する以上実際に確認しないわけにはいかないんだ。他国の関与でもあり、更に隠密みたいで心苦しいが…… 」
「別に良いよ」
「良いのか? 本当に良いんだな!」
「あ、あぁ。勿論、それくらいなら全然OKだよ」
俺だってガリック様に頼まれたときに、返事は現地を見てからだと言ったからね。
信頼関係は大事だが、契約するなら実際に見て確かめる事が、ビジネスの基本だと思う。
それに他国による辺境伯領の視察とはいえ、俺が作った街だけなら、そんなに問題にはならないだろう。
何より、今後の食糧問題を占う重大な交渉だから、ある程度は条件は仕方がない。
「ー--そっか、それはありがたい」
「ありがたい?」
「いや、なんでもない。次の問題だが、これは他国を欺くために必要な事だが、種ジャガの売買契約をロンバード辺境伯とじゃなく、君の会社との契約にしたい」
「それも問題ありません。元々そうするつもりでしたから」
あれ? 俺の会社との契約が他国を欺くためのものなら、現地を訪れたり皇帝の許可まで必要なのか?
俺がその場で金を払えば済むことでは?
いや、万が一俺と辺境伯領との繋がりを他国が知れば、遠回しに援助したと疑われてしまうかもしれない。そう考えれば、やはり皇帝の許可は必要になるのか。
「そっか、これでこの問題もクリアだな。後は種ジャガの値段だが、これも他国を欺くための理由で値下げするわけにはいかないが、それでも良いか?」
「勿論です。現在の相場で売っていただけるのならば、感謝こそすれ不満などありません」
「それなら、問題ないな。それで、いつなら視察に行けるかな?」
「今からでも」
「い、いまから?」
「えぇ、行って帰ってくるだけなら直ぐに済みますから、今から行きましょう」
「えっ、えぇー。すぐ済むわけないでしょ?」
あれ? 以前ジェームズを助けた時に、何度もテレポートを見せたのに気付かなかったのか?
まぁ、いいか。俺も仕事が沢山残っているから、決めるなら早い方が良い。
貴族の作法とやらで時間を取られたら、金銭面で俺の首が回らなくなってしまう。
よし決めた! 今すぐ行こう。
なぁーに、簡単な視察程度なら、一時間もあれば十分なはずだ。
「それじゃ、行きますか」
「ちょっと、本当に行くのか? 本当に?」
やっぱり、俺がテレポートを使えること知っているじゃないか、そうでなければその慌てぶりは説明が付きませんからね。
俺は立ち上がるとテーブルを回り込み、ジェームズの肩に右手を当てるとすぐにリリも俺の左腕に抱きつく。
だが今回はリリだけじゃなく、なぜかレディアーノさんが俺の肩に手を置き、ロザンヌさんも抱きついてきた。
あれ、レディアーノさんは俺のテレポートを見てるからなんとなく分かるが、ロザンヌさんはなぜ俺がテレポートを使える事を知っているんだ?
不思議に思いロザンヌさんを見ると、彼女は軽く微笑むだけだった。
まっ、いいか。
俺は四人とも連れて、新しい街にテレポートした。
「はい、到着。ここが、ロンバード辺境伯領内に俺が作った新しい街です」
「なんじゃこりゃ! 行き成り知らない街が、め、目の前に現れたぞ!」
「ほほー、これは、想像を絶する世界だ…… 」
「………… 」
おっ、久しぶりの「なんじゃこりゃ」だ。それにしても、分かっていたくせに大袈裟だなぁジェームスは。
それに比べ、レディアーノさんは驚いてはいるが、相変わらず紳士的な振舞だ。
ロザンヌさんは…… 落ち着いていると思ったら、固まっていたのか。
ーーー最近思うのだが、初テレポートの後の其々の反応を見るのは、結構楽しいよな。
驚き騒ぎ出す人や、呆然と立ち尽くす人、更にロザンヌさんのように、一見落ち着いているように見えるが、実は固まって動けない人、各々の素直な性格が反映されるから人間観察には持ってこいだ。
おっと、それよりも新しい街の見学コースを考えないと、種ジャガの交渉が掛かっているんだった。
暫く彼らが落ち着きを取り戻すのを待ってから俺は、彼らに先ほど考えた見学コースに沿って新しい街を案内する。
最初に太陽光発電システムを案内してから、体育館を改造した調理室を案内する。
三万人分の料理を作る調理室は圧巻で、忙しく動き回る料理人達を邪魔しないように、ジェームス達は調理室の隅で唖然としながら眺めていた。
「ここでは大量のお米を使い、三万人分のご飯を炊いています」
業務用のIH炊飯ジャーを紹介しながら、ご飯が出来上がるまでを簡単に説明する。
「三万人…… 」
「信じられない…… 」
「ご、ご飯とは、いったいどんな食べ物ですか?」
「そうですね、おにぎりで食べますか?」
やはり女性らしく、見たこともない料理が気になったロザンヌさんに応えるため、依然作ったおにぎりをアイテムボックスから取り出し、皆に振る舞う。
「お、美味しいですね」
「えぇ、とても美味しいです」
「これは、かなり美味しいです」
「お口にあって良かったです。現在ここではご飯が主食ですが、隣の調理室ではパンも作ってますので、後ほど見学しますか?」
「あぁ、是非見学させてくれ」
「私も、是非見てみたいです」
「勿論、私も見たいですが、その前に業務用のIH炊飯? これもうそうだけど、あちらの鍋もお湯が沸いているようだけど、どちも火を使わないで調理しているように見えるのですが、あれは魔法でしょうか?」
おっ、流石メイドのロザンヌさん。目の付け所が違いますね。
その事を説明するために、最初に太陽光発電システムを案内したんだよ。
さぁ、説明はリリの担当だから、頑張ってくれ。
「これはですね、ロザンヌさんの仰るとおり、ある種の魔法だと思ってください。まず太陽光発電システムで………… 」
三人の大人が、十二歳のリリの説明を真剣に聞いている姿は、なかなかシュールで面白い。
本来なら俺が説明するべきだろうが、俺の説明はどうやら分かり難いらしいので、自ら大役を降りることにした。
適材適所という事で、俺は納得していて、決して面倒だからという理由ではない。
それから俺達は隣の体育館のパン工場を案内したり、電動トラクターで畑を耕すところを案内したりと、テレポートを使用しながら短い時間で街を案内した。
驚きを隠しきれないジェームズに、俺はある提案を思いついた。
その提案とは「ジェームズさんも、俺の会社の社員になりませんか?」だ。
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大翔とリリの物語に、これからも応援、よろしくお願いします。




