52、エリザベート様。
「大翔、あの町はいったいなんなんだ! それに、なぜ俺を街から遠ざけた! 別に出迎えなど要らないが、街があんな風になるなら、せめて前もって説明をだな…… 」
さっきから物凄い剣幕でギルバート様が怒っていて、俺の話に聞く耳を持ってくれない。
確かにギルバート様を追い返すような真似をしたが、あの時はメーカーの人達にここが異世界だとバレるわけにはいかなかったので、仕方なかったのだ。
だが、それを説明するのも……
ハァ、面倒くさい。
今俺がいる場所は、初めて領主邸を訪れた際に案内された応接室で、俺の横にはリリが座っていて、目の前には領主のギルバート様と左隣りに奥様のエリザベート様が、テーブルを挟んでソファーに座っている。
更にその後ろには、ガリック様とメイドが二人立っていて、ガリック様は目の下に大きなクマができており、未だ戦後処理に負われ苦労していると思われる。
良く見ると、ギルバート様とエリザベート様も化粧で誤魔化しているのか、目の下のクマが薄っすらと覗いていた。
「良い加減にしなさい! 貴方が大声で怒鳴っていると、大翔様が話すことができません。まずは話を聞き…… 」
「だが、エリザベート、君はあの街を見てないから…… 」
「だから、良い加減にしなさいと申しているのです! 今は大翔様の話を聞くべきです。分かりましたか!」
「………… 」
どうやらギルバート様は、奥様のエリザベート様に完全に尻に敷かれているようで、あれだけ凄い剣幕だったのに、エリザベート様のお言葉には大人しく従うようだ。
まぁ、どこの世界でも奥さんが一番強いよね。
ラノベでもそうだったけど、良い奴ほど奥さんには弱い!
これ鉄則で、鉄板ね!
「大翔様、大翔様、聞いてますか、大翔様!」
「はいはい、勿論聞いてます」
「では、説明していただけますか」
「分かりました。ですが、何から説明したら良いのか分かりませんので、質問にお答えする形でも宜しいでしょうか?」
エリザベート様は隣に座るギルバート様の顔をチラッと見た後、直ぐに俺のほうに体の向きを戻すと無言で頷いた。
ギルバート様が視察に来ると聞いた時から、こうなる事は予想できていた。
俺は、こうなると分かっていて日本から団地や、太陽光発電システムを持ち込んだのだ。その事を、今更隠すつもりはない。
ていうか、隠しようがないからね。
「貴方、大翔様に一つずつ順を追って質問をしてください。分かりましたね」
「あぁ、分かった。ー--それなら最初の質問だが、あの巨大な建物はどうしたんだ」
あぁ、団地やマンションのことか。
「あれは俺の故郷の建物です。撤去される予定の建物を俺が譲り受け、それを再利用したのです」
「だが、あの建物はどれも新築だったぞ」
「それは、俺の能力です」
「大翔様、今御自身の能力と仰りましたが、いったいどのような能力なのでしょう?」
「そうだなぁ、ちょっとお待ちください」
どうやらエリザベート様は、直ぐに結論を求めるギルバート様と違い、冷静沈着に物事を見極めようとする性格のようだ。
もしかして、影の領主はエリザベート様だったりして。
おっと、それどころではないな。
俺はアイテムボックスから、魔物の核を取り出しテーブルの上に置く。
「おー、これは突然魔石が現れたが、これが大翔様の能力でしょうか?」
「その通りです、エリザベート様。こちらは以前ギルバート様にもお見せしましたが、俺は生物以外のあらゆる物を、別の世界に収納したり取り出したりすることができます」
「それは、凄い能力ですね」
「大翔の言う通り、その能力は前にも見た。だが、あの建物が新築だったのは、今の能力では説明できんだろ」
「貴方、大翔様は順を追って話しているのです。焦らないで話を聞いてあげてください」
「あぁ、そうだったな。大翔、すまない」
「いえ、お気にしないでください」
それにしてもギルバート様は、エリザベート様には笑ってしまうくらいに素直だな。
なんか二人を見ていたら、ほっこりした気分になってきたぞ。
「ギルバート様、壁に掛かっている剣をお借りしても宜しいでしょうか?」
「あぁ、別に構わないが、それは安物だからたいして切れないぞ」
百聞は一見に如かずだ!
俺は壁に飾ってあった剣を取ると、軽くテーブルに突き刺した。
流石安物というべきか、剣の先端は見事に欠けてしまい、テーブルには大きな傷が付いた。
「おい大翔、いったい何をするんだ」
「まぁ、見ていてください」
俺は剣とテーブルをアイテムボックスに収納すると、剣とテーブルの時を遡らせ新品同然まで戻すと、テーブルをアイテムボックスから取り出し元の位置に設置して、その上にそっと先程の剣を置いた。
「なんですかこれは、剣の欠けた部分も、テーブルの傷も跡形もなく全て消えてしまった。これも大翔様の能力なのですか?」
「アイテムボックスに入れた物の時を、ある程度遡らせることができる能力です」
「物の時を遡らせる?」
「例えば、さっきの剣なら剣が完成した時まで戻せます。テーブルの場合も同じで、テーブルが完成した時まで戻すことができます」
「「………… 」」
あっ、二人とも黙り込んでしまった。
時間の操作なんて、ハッキリ言ってチート過ぎるからなぁ。
「この能力を利用して、廃墟だった建物を新築に生まれ変わらせましたのです」
「そ、そうでしたの。ー--大翔様の能力は、桁違いに凄いと聞いていましたが、まさか時まで操るとは、貴方様は領民の言う通り、本当に神様が招いてくれた使徒様ですか?」
「とんでもない! 俺は、ただの人間ですよ」
「ただの人間は時など操作できませんが、ー--そういう事にしておいた方が良さそうね」
良さそうって、本当にただの人間だって言っているのに、教祖だの神の使徒だの、俺に何を期待しているんだ?
俺は、ただの雑貨店のしがない社長だぞ。
「家屋の件はそれで良いとしても、あの光る板や井戸の上に有った変な魔道具はなんだ? 井戸の水を簡単に汲み上げておったぞ」
「大翔様、ギルバート様の仰ることの説明をお願いします」
「分かりました」
ソーラーパネルの事を説明するには、電気の事を知ってもらわないといけないので、俺は小学校時代に習った豆電球の実験をする。
と言っても豆電球がないので、ペンライトで説明することにした。
「だから、この乾電池からこの部品を通して電気が流れて行き、こちらLEDライトに電気が流れつくと光る………… 」
「「?????」」
あぁー、全然無理だった! 電気を知らない人に電気の話なんて、俺の知識レベルでの説明は全然ダメだった!
「あのね、この乾電池と言うのには、魔力に似た電気というのを溜める事ができるの。それで、その電気というのが流れると、先端にあるここの所が光るんだって」
「なるほど、魔力に似たものがあるのか」
「うん。そんな感じ」
くぅー! 俺よりも、リリの方が説明は上手かった!
でも、魔力か、なる程な。
それからは、俺の説明不足のところをリリが補いつつ、小一時間程かかったがなんとか辺境伯夫妻に理解してもらった。
「つまり、あの光る板で魔素を集め、巨大な乾電池で魔力に変換してから、あらゆる魔道具を使いこなしているのか」
「そうです。ちょっと、違うが、まぁ、だいたい合ってます」
全然違うが、これ以上の説明は無理でした!
「太陽光発電システムと言ったか、あれはもっと増やせるのか?」
「そのつもりですが、物凄く資金がかかるので、すぐには無理です」
「そっか、もし増やせるなら便利で良いが、やはり簡単にはいかないのか」
「貴方、なんでも大翔様に望むものでは御座いません」
「それも、そうだな。ーーーそれで、井戸の上についている物は何だ? 領民達が使っているのを見ると、魔法を使っている風にも見えなかったが、魔導具ではないのか?」
やはり手押しポンプも、初めて見る者には魔法の道具に見えるんだな。
ラノベでは主人公が手押しポンプを作り販売することにより、莫大な富を得ることに繋がっていくストーリーが多いが、『異◯界転◯騒◯記』では、主人公のバ◯ドが作った手押しポンプを国が全て買い取り、国王のウェ◯キ◯が国内に広げ税金を徴収するという斬新な金儲けの仕方に、素直に凄いと感心したもんだ。
あぁ、もう一度読みたくなった!
「大翔様? 聞いていますか?」
「はいはい、勿論聞いてますよ、手押しポンプの事ですよね」
「ん? 井戸の上に付いていたのは、手押しポンプと言うのか?」
「そうです、手押しポンプと言います。ーーー手押しポンプは魔導具ではなく、水圧を利用して水を汲み上げる装置になります」
「装置ということは、やはり魔法は必要ないのか、その話が本当なら、凄いことだな」
「現物が有りますので、お見せしましょうか?」
「そ、それは有り難い。是非、見せてくれ」
テーブルを傷つけないように、先に毛布をアイテムボックスから取り出しテーブルの上に敷くと、その上にアイテムボックスから取り出した手押しポンプをそっと置く。
「これだ、これだ」
「大翔様、これが手押しポンプと言う物で御座いますか?」
「そうです。この筒の中にピストンと呼ばれるものが御座いまして、こちらのハンドルを押すと水圧で水が汲み………… 」
俺はテーブルの上に置いた手押しポンプを使い、手押しポンプが水を汲み上げる仕組みについて簡単な説明をする。
「これは凄い発明ですね。仕組み自体も簡単で部品も意外と少ないから、頑張れば我々にも作れるでしょうか?」
「勿論です。現在新しい街では繊維団地の他にも、コスメ商品などの製造や、手押しポンプなどの鉄製品の製造にも力を入れようと思いますので、いずれ国内、いや世界中の全ての井戸に、このロンバード辺境伯領で作られた手押しポンプが、取り付けられる時代が来ると思います」
「繊維…… 大翔様、是非、このロンバード辺境伯領で、思う存分大翔様のお力を発揮してくださいませ。大翔様が思い描く街が完成するまで、主人のギルバート様も協力を惜しむ事など御座いません。ですよね、貴方!」
「あ、あぁ。勿論、協力は惜しまんさ。大翔のお陰で、このドリントの街にも光が見えてきたからな」
「主人もこの様に申しておりますので、大翔様、是非、このロンバード辺境伯領に、貴方様の理想の街をお作りになってくださいませ」
エリザベート様は突然立ち上がると、ギルバート様の襟首を掴んで無理やり立ち上がらせ、更にギルバート様に無理やり頭を下げさせ自らも頭を深々と下げた。
「突然何をするのですか、頭をお上げてください」
「いえ、大翔様がお約束するまで頭を上げることは御座いません。ですから、ですからお願いで御座います。このロンバード辺境伯領にて存分に力を振るうと、お約束してくださいませ」
「わ、分かりましたから、約束しますから頭を上げてください。ーーー新しい街に幾つもの工場を作る事は俺にとっても望むところなので、そこに領主夫妻の協力が得られるのなら、尚更頑張らせて頂きます」
半ば脅迫とも言えるエリザベート様の行動に、俺はパニクってしまったが、それでも領主夫妻から今後も協力する約束を取り付けたのだから、俺にとって悪い話ではない。
「そうですか、それは良かった。貴方、大翔様が存分に力を発揮できるように、私達も頑張りましょうね」
「おぉ、そうだな。どうやら、それが一番良いようだからな」
「えぇ、その通りですわ」
先程の頭を下げた時とは打って変わり、元の和やかな笑顔を取り戻したエリザベート様は、再びギルバート様とのほっこりした空気を作り始めた。
ギルバート様、俺は、貴方のような女性を敵に回さない生き方を、尊敬したいと思います。
男のプライド、そんな不味い食べ物なんて、ゴミ箱にポイして良いと思う。
「完成した街の話も良いが、やはり今現在の街の様子や、手押しポンプ等を実際に使っているところを、見てみたいものだ」
「それは、私も是非見てみたいものです」
「それでは、今度機会を設けますので、その時に是非思う存分確認してください」
「おぉ、そうさせてくれ」
「えぇ、楽しみにしてます」
思わぬエリザベート様の行動により、あたふたと慌てふためいてしまったが、領主夫妻から存分に力を発揮してくれと言質を取り付ける事も出来たので、事後承諾のためのプレゼンと見做せば成功と言えよう。
こうして俺は、やっと解放されたのだった。




