51、映画の撮影?
次の日、俺は朝早くからリリと一緒に、麗華さんと本田さん、そして佐藤さんの三人を伴って異世界に来ている。
初めての異世界に興奮する三人だが、三人を異世界に招いたのには理由がある。
今日は電動トラクターの充電の仕方や、パーツの交換の仕方をメーカーの人に教えてもらう日で、彼らにはメーカーの人達を手伝ってほしいからだ。
どうやらトラクターという農機具は、作業によって後ろのパーツを交換しないといけないらしく、俺は三十台の電動トラクターを購入するとき、直接農家に教えてくれるように頼んでいた。
勿論メーカーの方々には異世界とは話しておらず、日本の北の方にある田舎だと教えただけだ。
メーカーの方々には、俺がタンカー座礁の時の目出し帽の正体だと教え、実際に目の前でテレポートして見せた。
そのうえで、彼らには移動はテレポートだと伝えている。
テレポートで移動すれば、テレポート先が異世界なのか田舎なのか、区別する物が周りに何もなければ知りようがない。
更に異世界の人達のことを外国人だと言えば、疑うこともないだろう。
一度に三十台もの電動トラクターを購入すれば、メーカーの営業マンは移動がテレポートだと伝えても、喜んで協力すると笑ってくれた。
「では、前もって話していた通りにお願いします」
「「「分かりました!」」」
三人には昨日の段階で異世界の事を話しており、戦争難民を俺の会社の社員にした事や、電動トラクターの説明会の話、領主のギルバート様がお昼から視察に来ることも話している。
既に新しい街の住人の多くが見物に来ており、その数は一万人以上に及ぶ。
ハッキリ言って多すぎる!
日本の田舎で、外国人にトラクターの説明をする話でメーカーの人を呼んだのに、一万人以上の外国人が田舎に住んで畑仕事をするとなれば、ニュースで大々的に報道するだろ!
これは問題だ!
俺はさっそく、住民の中からトラクターに興味のありそうな男女五十人を選び、それ以外の住民には家に帰ってもらった。
更に、この辺一帯には近寄らないように伝え、今は体を休める時で時期がきたら働いてもらうからと、お願いしておいた。
領民達は何か仕事をしないと落ち着かないらしく、少しでも仕事の話が出ると慌てて駆け付けて来る。
仕事もしないで食事を得ることが嫌なのか、それとも子供達に働く姿を見せたいのか、もしかしたら仕事をしないと街から追い出されると思っているのかもしれない。
勿論追い出すなんて、そんな勿体無いことは絶対にしない。
だが、彼らの辛い気持ちも良く分かる。それでも多くの人の仕事場を提供するには、それなりの準備と時間が必要となるので、今は我慢してもらうしか無い。
ただ俺的には理由が何であれ、彼らの働きたいという気持ちから生まれた行動は、素直に嬉しくて仕方なかった。
「リリ、俺は今からメーカーの人達を連れて来るから、残った住民達の事をよろしく頼む」
「分かった」
片言でもリリは日本語と異世界語の両方が話せるので、彼女には通訳の仕事をしてもらう。
住民達が完全にいなくなるのを確認すると、俺はメーカーとの約束の場所にテレポートする。
待ち合わせ場所はメーカーの敷地内で、人目につかない場所を指定していたので安心だ。
「おぉ、大翔さん。柳田さんから聞いていたが、本当に一瞬で現れるのですね。感動しました」
彼の名前は富田さんと言い、トラクターの器具の交換や、操縦の仕方等を教えてくれる先生の一人だ。
今回は営業の柳田さんのお陰で、トラクターの事を教えてくれる先生が五人も来てくれることになった。
「ハハハハ。それより、皆さん揃ってるようなら、さっそく移動したいのですが宜しでしょうか?」
「是非お願いしたい。ー--ここだけの話、実は昨日からテレポートが楽しみで眠れなかったのだよ。だから、今日は安全運転でお願いしますよ。ガハハハハハ」
笑って誤魔化す俺に、軽い冗談を交えながら豪快に笑う富田さんは、案外空気の読める人かもしれないと思った。
富田さん以外の四人と軽く挨拶を交わし、俺は四人を連れて異世界にテレポートする。
「おぉ、すごい! 本当に一瞬で景色が変わった」
「実際に体験しても、信じられない気持ちです…… 」
「やった! 妻に自慢できますよ」
「「「「本当だ! アハハハハ」」」」
やたらと陽気なメーカーの人達に、麗華さん達三人を紹介した後、実際にトラクターの操作を習うべき五十人の住人を紹介する。
その後、すぐにトラクターの説明会が始まった。
通訳できる人が俺とリリしかいないので、二つのグループに別れて教習を行う。
「畑に畝を作るときのパーツの取り付けは、この部品をこのようにして…… 」
「………… 」
「どうしたのですか、富田さん」
俺が富田さんの言葉を通訳していると、彼が不思議そうな顔をしていたので、思わず声をかけてみた。
「大翔さん、私は不思議でしょうがないのですが」
「何が不思議なのですか?」
「う~ん、私には大翔さん、貴方が私の言葉を彼らに通訳してる時、ただ私の言葉を日本語で繰り返しているだけですよね。それなのに、彼らは貴方の言葉を理解している。それが不思議に思えてしょうがないのです」
あぁ、なるほどな。俺はすべて日本語で話しているが、どうやら良く分からない力が働いているようで、日本人には普通に日本語に聞こえるが、同時に異世界人にも異世界語に聞こえるらしい。
つまり、富田さんの言葉を繰り返す俺の言葉は、富田さんには普通に日本語に聞こえ、街の住民には異世界語に聞こえるという摩訶不思議な現象が起こっているのだ。
自動言語変換、恐るべし!
「俺にも良く分からないけど、そういう物だと思ってくれ」
「そ、そっか。分かった。ガハハハハ」
笑って納得してくれた富田さんに感謝しながら、俺は通訳を続けた。
トラクターのパーツの取り付けは意外と多く、俺の予想では午前中で終わるはずだった説明会は、お昼以降も続くことになった。
お昼になり、皆で昼食を取っていても、話題はトラクターの事ばかりだ。
住民は初めて操作するトラクターに興奮気味で、メーカーの人達も俺が準備した昼食に大喜びだった。
だが、話が盛り上がってしまい、俺はすっかり忘れていた。
領主のギルバート様が、お昼から視察に来ることを……
★ ★ ★
「救世主様、救世主様、領主のギルバート様がお見えになりました」
お昼の説明会を始めてすぐに、住人の一人が血相を変えて走ってくるが、その言葉に俺も血相を変える事になる。
なぜなら、彼の後ろから馬に跨がったギルバート様と、三十人近くの騎士達がフル装備でやって来たからだ。
騎士のフル装備なんて異世界なら普通に見ることができるが、日本の田舎で騎士のフル装備は見たことも聞いたこともない。
「大翔さん、彼らはいったい?」
「あぁ、そうだった! 今日はこの場所で、映画の撮影があると話していた。彼らは、その役者達だ」
「えぇぇええー。ここは日本ですよ、彼らは日本で外国の戦争映画を撮影しているのですか? しかもあの格好は、中世時代の騎士の格好でしょうか、凄くリアルに見えますね」
そりゃ本物の騎士なんだから、リアルに見えて当たり前だ。
だが、これからも汎ゆる分野で日本人の専門家を異世界に招き、機材の取り付けや説明などを実際に行ってもらわないといけない。
なぜなら、せっかく高価なな機材を購入しても、使える人がいなくては宝の持ち腐れになってしまうからだ。
だから、絶対にバレるわけにはいかない!
ここは何としても誤魔化さないと……
「あぁー、ほら、あれです。昔あったじゃないですか『テ◯マエ・◯マエ』とか言う映画、あれも古代ローマ時代の風景を日本で撮影していましたよね、あんな感じの撮影じゃないですか、よく知らないけど…… 」
「あぁ、ありましたね。なるほど、日本人の役者さんを外国人に見えるように化粧で誤魔化し、更に日本を外国のように見せて撮影する。ありました、ありました、そんな映画」
「あったでしょ、そんな感じの映画! だから、気にしないでください」
「でも、どう見てもリアルな騎士にしか見えないから、最近の技術は凄いですね、感心しました」
「そうですよね、凄い技術だと思います。きっと監督がCGよりも、生の役者さんに力を入れてると思いますよ、たぶん…… 」
「そうでしょうね、そうでないと、あれだけのリアル感はでませんよね」
「アハハハ、どうも本格的な映画のようですね。ちょっと彼らと話をしないといけないので、失礼しますね」
冷や汗を垂らしながら適当な嘘を吐くと、俺は慌ててギルバート様のもとにテレポートする。
「出迎えもせずに、すいませんギルバート様」
「いや、それは良いが。ここは何だ! 村の建物といい、水路といい、光り輝く板といい、大翔、君はいったい、たった数日で私の領地に何をしたんだ!」
「えっ、開拓ですけど」
「これが、開拓であってたまるか!」
興奮しすぎで今にも倒れそうなギルバート様は、両手を何度も振り上げたり振り下ろしたりと、忙しく動かしながら大声で俺に叫び続ける。
この街をギルバート様が見たら大騒ぎするような気がしたから、俺が直接迎えに行って、街を案内しながら説明するつもりだったのに、遅かったようだ。
だが、今は早いとこギルバート様に退場してもらわないと、ここが異世界だとメーカーの人達にバレてしまう。
何とかしないと……
「ギルバート様、後で説明しますので、ごめんなさい」
興奮したギルバート様を説得するのは無理と判断した俺は、すぐさまギルバート様を含む彼ら全員を、片っ端から領主邸にテレポートすると、ギルバート様に何度も頭を下げてから、詳しい理由も言わずに再び説明会の行われている場所にテレポートする。
「すいません、お待たせしました」
「撮影のほうは、宜しかったのですか?」
「えぇ、今日は別の場所での撮影に切り替えて頂きましたから、大丈夫です」
「そ、そうなのか。それは良かった。それではさっそく始めましょうか」
「はい、お願いします」
取り敢えず上手く誤魔化したが、あぁ、絶対に怒っているよなギルバート様……
その後、トラクターの説明会は無事に終わり、俺はメーカーの人達全員を日本に送り届け、麗華さん達には街を探索しておくように伝えると、街の説明をするために領主邸へとリリを連れてテレポートした。
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