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48、水路。

 食事を終えた俺は、取り敢えず必要な箇所だけ井戸を掘り、手押しポンプを取り付ける。


 手押しポンプの組み立ては簡単だが、俺一人では時間が掛かってしょうがない。


 そこでお爺さんたちに協力してもらい、手押しポンプの組み立て方を教え、彼らに残りの手押しポンプを取り付けてもらう事になった。


 明日から少しずつ、手押しポンプを取り付けていくだろう。


 立ってる人は親でも使え! その言葉通りお爺さんたちを使ったお陰で、俺は井戸を掘るのに専念できた。


 新しいスキルを使うと、井戸を作るのが凄く簡単になった。


 本来なら、井戸を掘って周囲を石垣で補強するが、新しいスキルを使えば井戸を掘ると同時に結合で周囲を固める事ができる。


 井戸を作るには、この石垣の石を探すのに一番時間を取られていた。


 だが、もう石を探す必要がなくなった。それにより井戸の制作時間が大幅に激減して、俺は数多くの井戸を作る事ができた。


「大翔様! もう作業をしないでください!」

「院長先生…… 」

「大翔様が、頑張ってくれてるのは分かりますが。もう日が暮れて随分経ちます。そろそろ作業を止めて、休んでください」

「ですが、他に…… 」

「ダメです! 大翔様が休まないと、誰も休めません。お願いだから、皆にも休息を与えてください」

「あっ…… そうですね。分かりました、もう作業はしません」


 院長先生の言う通りだ。俺が働けば、誰も休めなくなる。


 前の会社の先輩が、いつまでも仕事をして家に帰らなかったとき、俺も家に帰れなくて嫌な思いをしたんだっけ。


 上に立つ者の立場として、休む時は休まないとな。


「私達もお店を三日間休みを取りましたので、なるべく大翔様の役に立てるように頑張ります。ですが肝心の大翔様が倒れてしまったら身も蓋も御座いません」

「そうですね。分かりました。院長先生の言う通りにします。リリ、帰ろうか」

「うん!」

「私達も家に帰りましょうか」

「「はーい」」


 院長先生に注意され、俺とリリはマンションに帰ったが、俺は皆の事が気になり眠ることなどできなかった。



 ★ ★ ★



 次の日、俺は朝早くから街に行き、川の水を引き込む作業を開始する。


 辺境伯領に流れる川は全部で三つあり、一つが国境付近のスヌーズ川と、その川上のほうで分かれた支流のサードス川、あと一つはスヌーズ川とは水源の(こと)なるローレル川だ。


 スヌーズ川は新しい街までは遠すぎることと、やはり国境付近に流れる川なので、敵対するガードランド公国の事を考えると使えそうにない。


サードス川はドリントの街に流れており、この街からも一番近いが残念なことに水の量が少なく街よりも低い位置にあるので使えない。


 勿論、水車などで汲み上げれば使えるかもしれないが、それだと将来的に水の量が更に減り、ドリントの街と水の奪い合いになる可能性があるうえ、時間や費用をなどを考えても現実的ではない。


 最後の一つはローレル川で街から十数キロ離れているが、水量も多く地形的にも高い位置にあるので水を引き込むのに適している。


 問題は距離だが、ここは俺が頑張るしかないだろう。


(お兄ちゃん、もう街に出かけたの?)

(リリ、起きたのか?)

(うん。お願いだから、迎えに来て)

(分かった、今行く)


 リリが起きたので、彼女を迎えにマンションにテレポートしたが、なぜか不機嫌で一言も口を聞いてくれない。


 そりゃ、リリを放って一人で出かけたのは悪いと思うが、軽い寝息をたてながら気持ち良さそうに寝てるリリを起こすのは忍びなく、仕方なく独りで出かけた。


 それなのに、そんなに怒るなんてお門違いもいいところだ、俺だってリリに言われっぱなしじゃないからな、今日こそガツンと言ってやる!


「リリ! いつまで怒っているんだよ!」

「お兄ちゃん、リリを起こさなかったのが悪いのに、もしかして今流行りの逆ギレ?」


 えっと、逆ギレが流行っているか分からないが……


「逆ギレじゃな…… 」

「お兄ちゃんが居なくなって、リリが心配しないとでも思ってるの?」

「うっ、そりゃ、悪いと…… 」

「リリが、どんなに心配したかもしらなくせに、逆ギレするの?」

「そ、そんなつもりは、ないです。ーーー頼む、この通り謝るから、機嫌を直してくれ」


 リリだって体は小さいが、考え方はすっかり大人の女性だ。


 女性に逆らっても良いことなど一つもなく、俺はすぐに考え方を改め土下座する。


 男のプライド? それって、美味しいの?


「もう、置いて行かない?」

「約束するから、なっ!」

「分かった、プリン五個で許してあげる」

「五個って、多すぎないか? そんなに食べたら、太るよ」

「女性に向かって、太るとは言わないの! もう、デリカシーがないんだから」


 どこでデリカシーなんて言葉、覚えて来たんだ?


 まっ、プリン五個で許してもらえるなら安いか。


「分かった、五個だな。今度買ってくるよ」

「うん。それと、もう二度と置いて行かないと約束して」

「分かった。約束するし、必ず守る。だから許してください」

「はい、録音しました!」

「えっ、それスマホ、いつの間に…… 」

「言質、取りました。もう、引っ込められませんよ」


 なんだよそれ、憧れのリゼ〇のレ〇たんのセリフじゃないか。


 くそぉー! 実際にその言葉を聞く日が来るなんて、最高じゃないか!


 くぅううー! これは、ス〇ルにでもなった気分だ!


 思わず立ち上がり両手でガッツポーズを取る俺を、リリが不思議そうな顔で見てきて恥ずかしくなり、慌てて平静を装うがニヤニヤが止まらない。


 嬉しい感情は、簡単には引っ込まないのだ。


「お兄ちゃん、朝ごはん食べた?」

「いや、まだだけど」

「ダメでしょ、ちゃんと食べないと!」

「それは、リリが起きたら一緒に食べようかと思ったから」

「そ、そっか。それなら、仕方ないかな…… うふふふ♡」


 フッ、ちょろいぜ。


「何か言った?」

「ううん、何も言ってない。それより、手伝おうか?」

「良いよ、座っていて。リリが準備するから」

「そっか、ありがとな」

「うん」


 でも、リリの機嫌が直って良かったよ。


 リリは鼻歌を歌いながら朝食の準備を始め、俺は新しい街に必要な物資のリストを作り始める。


 まだまだ足りない物が多すぎて溜息が出るが、ここが踏ん張りどころだろう。



 ★ ★ ★



 朝食を食べ終えると、俺はリリを連れて新しい街にテレポートすると、彼女には院長先生達の手伝いをしてもらい、俺は川の水を引き込む作業に取り掛かる。


 朝早く来た時にだいたいの構想は立てていたので、後はそれを実行するだけだ。


 まず最初に上空テレポートすると、そのまま街と川までの間に前もって作って置いた円柱の柱を、何本も立てていく。


 円柱の柱は前にも作ったことがあるが、簡単に説明すると、アイテムボックスを使い地面に対して円の形のまま垂直に地面を抜き取ると、抜き取った瓦礫が円柱になる。


 今回は、その瓦礫に結合のスキルを使い、円柱をより強固な柱に作り上げた。


 円柱の柱を立てたのは、掘っていく目標にするだけなので深い意味はない。


 目標が決まったら、後はテレポートとアイテムボックスを駆使して、ひたすら柱に向かって掘っていくだけだが、距離が長いだけあって掘り終えるのに半日以上も掛かってしまった。


 ローレル川から水を引き込み、そのまま再びローレル川に戻るように作ったつもりだが、時間を掛けて作ったので水路のはずが、ある程度幅のある川になってしまった!


 水を引くつもりが、川を作ってしまった……


 夢中になったら、川が出来てしまうなんて普通有り得ないが、運び屋の能力なら簡単だ。


 昼からは水路を街まで作り、更に溜池も何か所か作った。


 水路は幾つかに分けて作られており、それぞれ洗濯用や水浴び用等の用途を決めて、使うことにする。


 溜池は農業用水専用となり、そこから畑まで小川のような小さな水路を、網の目のように張り巡らせる。


 それらの作業をすべて終えるのに、二日も掛かってしまったが、運び屋のスキルが無ければ数年は掛かると思うので、二日なら超速と言っても過言ではないはずだ。 


 用水路が完全に出来上がった頃に、院長先生達や、ロンダさん達、他のお店の従業員達も各々のお店に帰り、元の生活に戻っていった。


 新しい街では、未だ農業や産業などは動き出してないが、取り敢えず全ての住民に食料は行き届いていており、新しい住宅での生活も今のところ問題ないように思える。


 孤児院の方は、当初二十四時間勤務という体制に懸念していたが、小さい子供のいる家庭や年配のご夫婦が施設に住み込んだり、夜中に施設に通ってくれたりして事なきを得た。


 ただ今後の孤児院の事を考えたら、ゴーテリアの孤児院のように子供達にでも出来る仕事を与え、ある程度自立型を目指した方が良いかもしれない。


 街の生活が安定して孤児院の子供達も大人になれば、自然と孤児院は縮小されていくはずだ。


 その時に彼らの生活の糧になるような仕事場を、今の子供達に与えられたら最高だと思う。


 後は食料の確保と新しい商品の開発だが、やはり一番大事なのは食料の確保で現在一日も無駄にできない状況だ。


 だが、ここに来て新たな問題が発生した。


 植えるべき作物の、肝心の種が無いのだ。






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