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47、大事な家族。

 孤児院開設のための人手も集まったので、後は大勢の先生達を孤児院に連れていくだけだ。


 俺が孤児院に選んだのは、小中学校の校舎と閉園となった幼稚園や保育園、更には公民館や建て替えとなり解体予定の市役所等だ。


 団地やマンションでも良いかと考えたが、大勢の子供達を一同に見渡せる場所を考えた時、学校の教室のように広い空間が好ましいと思い選んだわけだ。


 季節的な事を考えたら冬は寒く夏は暑いかもしれないが、それは部屋を改造すれば良いだけで、そんなに大きな問題ではない。


 今は大勢の子供達を目の届く距離に置くことが一番大事で、そのためには広い空間が必要だと思う。


 勿論、年頃の子供達となれば個室も必要だと思うが、それは順次解決していけば良いだろう。


(リリ、こちらは準備できた。子供達を移動させてくれ)

(うん。院長先生やセリナ先生にローラ先生も来たから、皆で協力して送るからお願いね)

(あぁ、任せろ。最初は小さい子からだ)

(うん)


 最初は、小さい子供達が新しい先生達によってテレポートして来て、直ぐに小さい子専用の部屋に運ばれていく。


 孤児院は、年齢や性別によって部屋分けをしており、兄弟だからといって一緒に住めるわけではない。


 勿論、兄弟がいる場合は、なるべく小さい子専用の近くに住めるように配慮したり、男女別々の部屋になっても一緒に食事を取れるようにするなど、できる限り子供達に気を遣うようにしている。


 それでも完璧とは言えないだろうが、それは少しずつ改善していけば良いことだ。


 子供達の移動には二時間程掛かったが、大勢の大人達が協力してくれたので意外と早く終わった。


「リリ、お疲れ様」

「うん。お兄ちゃんも、お疲れ様」

「あぁ、ありがとう。まだ、他にもやる事があるけどな」

「えっ、次は何するの?」

「次は食事の受け渡しだな」

「受け渡し?」

「あぁ、食事は作れるようになったが、問題は食べる場所が無いことだ。流石にその辺で食べるわけにはいかないからな」

「其々の部屋で食べないの?」

「それが一番良いが、一度調理室に行ってから部屋に戻って食べるとなると、調理室に近い場所ならそれでいいが、調理室から離れていたら移動だけでも大変だ」


 各々の部屋で食べる事が理想だが、それでも受け取りに時間が掛かるうえに、桁違いの行列ができてしまう。


 行列の最後のほうなどは、何時間待つことになることか。


 また、今日は晴れてるから良いが、雨の日の行列なら目も当てられない光景になるだろう。


 孤児院の子供達の食事にしても、先生達が受け取りに調理室まで行くのは、考えただけで溜息が出てくる。



「それもそうね。あっ、アイテムボックスは使えないの?」

「それだ、それだよリリ! 流石リリ、今すぐ設置しに行こう。まずは、孤児院からだ」

「うん!」


 俺はリリと一緒に、孤児院に設置型アイテムボックスを設置する。


 設置型アイテムボックスは、俺が認めた人が使用可能になるから、先生達を使用者に認めれば調理室に行かなくても食事の受け渡しが可能になる。


 それに俺が認めた商品か、俺が認めた人が認めた商品しか受け取れないことになっている。


 つまり調理室で人数分の食事(しょうひん)しか認めなかったら良いだけの話だ。


 これなら簡単に食事の受け渡しができる。


 その後も俺達は至る所にアイテムボックスを設置していき、それらの使用者を決めるために各団地やマンション、孤児院等の施設の食事担当を決めて設置型アイテムボックスの使用者として認めた。


 全ての場所に設置型アイテムボックスを設置すると、調理室に行き二十名の調理担当の方に設置型アイテムボックスを使用許可と、食事(しょうひん)の受け渡しの許可を認めた。


 ひとまずこれで、食事の受け渡しに行列ができる事はないだろう。


「救世主様、今良いですか?」

「なんだよランランまで、俺を救世主とからかうなのか」

「からかってるつもりはないけど、それより何人かの人が、体を拭くための水を入れる桶を借りられないかって聞きに来たけど、そういうのって有るんですか?」

「あぁ、そうだった。それもあったか。すまん、準備してない」

「急な引っ越しだから仕方ないよ。取り敢えず持ってる人もいるはずだから、探し出して暫く提供するように話してくるよ」

「悪い、頼んだ」

「任せて」


 必要なものが多すぎて、とても全部は準備できないが、それも仕方のないことだ。


 少しずつ改善すれば良いよな……


 俺が知る限り、王国にはお風呂に入る習慣が無いような気がする。


 個人の家は見てないが孤児院でも体を拭くだけだし、宿屋にもお風呂場は無かったので少なくとも平民はお風呂には入らないと思う。


 勿論体を洗わないわけではなく、酷い汚れの時は川で汚れを落とし、普段は井戸の水で濡らしたタオルを使い体を拭くだけだ。


 現状この街には川は流れてなく、井戸の数も限られているうえ、先程聞いた水をためる桶すらない。


 いずれは川の水を引き込むつもりだったが、これは大至急必要なようだ。


 川の水を引き込むとなれば、水が土に染み込まないようにしなければならず、その為にはコンクリートか塩ビ管のような防水の排水溝が……


 そうだ、あれは使えないか? 


 アイテムボックスの使用時に使える新しいスキル、分離と結合。


 もし結合で、水も通さない分子レベルでの結合が可能なら、川の水を引き込むことも可能なはず。


 試しに、小さな穴を掘ると同時に結合を使ってみた。


 穴を触ってみると、物凄く固そうな感じがするので、固そうな棒で叩いてみたが棒のほうは折れたのに、穴のほうは一欠けらも壊れてない。


 今度は水を入れてみたが、土に染み込む様子もなかった。


 結合のスキルは、俺の予想通り物質を固くすることができるようだ。


 これならコンクリートの代わりになるはずだ。


 一瞬、今から川の水を引き込もうかと考えたが、既に日が暮れた状況で川の水を引き込めば、事故が起こる可能性があるので諦めた。


 現在、街の広場や収容建物には明かりがついていて作業するには困らないが、外は既に真っ暗な状況で作業するのは困難だ。


「リリ、水汲み場が足りないから、井戸を掘るぞ!」

「えっ、今度は井戸を掘るの?」

「あぁ、簡単に井戸が掘れることが分かったからな」

「それは良いけど、お兄ちゃん。何か食べようよ」

「あっ、ご飯も食べないとダメだった」

「もう、このままだとお兄ちゃんが倒れるよ!」

「アハハ、俺は大丈夫だよ。でも、そうだな、食事にするか」

「うん!」


 俺とリリは調理室に移動して、作りたての肉じゃがとご飯を貰い、調理室の隅っこで壁にもたれながら、二人で遅い夕食を取った。


「初めて作ったにしては、美味いな!」

「うん、美味しいね」

「これなら、これからの食事も安心だな」

「そうね。子供達も喜ぶと思うよ」


 子供達も喜ぶって、リリも子供なんだよな。


 忘れがちだが、リリはまだ十二歳だ。孤児院の子供達と変わらない年齢なのに、俺は彼女につい頼ってしまう。


 言い訳だが、彼女の大人びた性格は、時々本当に子供なのかと思ってしまう瞬間がある。


 貧しい家庭で生まれ、成長が阻害されるほどの劣悪な環境で育ち、更に奴隷に売られるという不幸な生い立ちが、彼女を子供でいることを許さなかったのかもしれない。


 そんな彼女の大人びた性格に甘え、気づけば今回の食事みたいに彼女の事を後回しにしてしまう。


 一番大事にしなければいけない家族なのに、近すぎておざなりにしてしまうのが俺の悪い癖だ。


「リリ、疲れてないか?」

「うん。リリは大丈夫。それより、お兄ちゃんのほうが心配」

「俺は大丈夫。だが、正直に言うと少し疲れた」

「えへへへ、リリも少し疲れた」

「ハハハハハ。だよな!」

「うん!」


 俺とリリは、肩を寄せ合い意味もなく笑っていた。


 疲れてはいたが、気遣う相手がいることに喜びを感じていて、リリも似たようなもんだと思っていた。


 そんな俺達を、調理室の後片付けをする領民達が微笑ましく見ていたことに、俺は気づかなかった。




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