46、子供達。
(お兄ちゃん、そろそろ両親のいない子供たちを、そっちに送るけど良い?)
(あぁ、もう、そんな時間か。ーーーちょっとだけ待ってくれ、すぐに準備するから)
(うん。ーーーただ大勢の子供達の中には不安や淋しさで泣き出す子もいるから。お兄ちゃんが忙しいのも分かるけど、なるべく早くお願いね)
(あぁ、すまない)
食事の準備をした後は、孤児達を受け入れる準備か……
考えても仕方ない、院長先生に念話するか。
(院長先生、いま念話大丈夫ですか?)
(少しだけなら、大丈夫ですよ)
少しだけか……
住居の斡旋は家族の人数を把握して住宅まで案内しないといけないから、人手が増えたとはいえ忙しいのは変わらないか。
だが、これだけは院長先生に相談しないと、何から手を付けて良いのか更に先生達の人数はどれくらい必要なのか、分からない事が多すぎて俺だけでは荷が重い。
(実は、孤児達の受け入れをしたいと思っていますが、どう対処すれば良いのか分からないのです。そちらは誰かに任せて、こちらのほうに来てもらえませんか?)
(あぁ、そうですね。ーーー分かりました、すぐに行きます)
(あっ、セリナ先生やローラ先生は近くにいますか?)
(あっ、はい居ます)
(でしたら、調理室の前で待ってますので、二人とも誘って来てください。お願いします)
(分かりました)
領民たちに住宅を斡旋するスタッフは、大勢のボランティアを派遣したが院長先生の話だと、もう少し増やしたほうが良いかもしれないな。
調理担当のほうは、一応調理器具の説明は終わったし、もう料理を作り始めているので問題はないと思う。
俺は院長先生達が来るまで、他に見過ごしてるところはないか必死に考えていた。
計画性が無いと言われたらそれまでだが、一刻も早く食事と寝床を準備しなければ死ぬ人が出ると言われたら、最良でなくても進めるしかないし進めたい以上は走り続けるしかない。
あれ? あの人だかりは……
「お待たせしました、大翔様」
「ありがとうございます、院長先生にセリナ先生とローラ先生」
「それで、子供達はどこにいますか?」
「まだこっちには来てません。準備ができ次第連れて来るつもりです」
「そうですか、それで何名くらい居ますか?」
「えっと、ー--だいたいですが、千九百人ほどでしょうか?」
「「「えっ!」」」
あっ、院長先生達が固まってしまった。
「院長先生…… ?」
「えぇぇえええー! 千九百人だって!」
おぉ、復活した。
「今、千九百人って言いましたか?」
「あぁ、確かに良いました」
「………… 」
なぜか院長先生が、その場で崩れ落ちるように両膝を地面に付ける。
「それで、俺なりに子供達に何ができるか考えてたけど、子供を育てた経験のない俺には、どうしたら良いのか分からないのです。そこで院長先生なら沢山の子供達を育てているので、どうしたら良いのか教えてください!」
両の手の平をくっつけた俺は、軽く頭を下げた。
リリだけでも何が何だか分からないのに、沢山の子供達の面倒を見るなんて俺には想像もできない。
「大翔様、千九百人もの子供達の世話なんて、私達にも無理ですよ!」
「千九百人って、無理無理無理無理無理、絶対に無理!」
「三十人でも大変なのに、千九百人って、正気ですか大翔様!」
「そ、そんな大声で言わなくても、聞こえますから」
三人で俺に迫らないでくれ!
特に院長先生、顔が近すぎる! そんなに近寄らなくても、別に良いと思うんだけど!
「いいえ、大翔様は分かってません! 良いですか、子供一人でも親にとってはとても大変な事なのですよ。それなのに、千九百人なんて、絶対に無理です。なにか遭った時、どうするのですか? 誰が責任を取るというのですか?」
「それは、そうですが…… 」
「小さい子供には、誰かがずっと側に居ないいけないし、子供同士の喧嘩やイジメなども注意深く見ていないといけないのですよ、それなのに千九百人だなんて、どうやって見るつもりですか? 無理ですよ、絶対に無理です!」
「ー--無理だと、ダメなのです。ー--俺が無理だと言ったら、彼らは死んでしまいます。責任なら、俺がとりますよ。まぁ、どうやって取ったら良いのか分からないですけどね」
「あっ、そ、そうですね…… 」
「俺が、めちゃくちゃな事を言ってるのは分かってます。ですが、誰かが何とかしないとダメなのです」
「そ、そうね。その通りだわ。でも、千九百人の子供達のお世話をするとなると、一人で十人の子供のお世話をするとして、昼間だけでも最低百九十人の先生達が必要になると思います。しかも朝昼晩の全ての時間に子供達と接する事を考えたら、三百人は必要かと思います」
「三百人! そんなに必要なのですね…… 」
三百人の先生達って、やはり俺が考えた以上に大変そうだ。
でも、考えたら人の命を預かるんだから、大変なのは当たり前か。
そういえば、さっきの人達はもしかして……
「はい、そうです。それから小さい子供達が多い場合は、更にそれ以上の先生達が必要になると考えてください」
「そうですか、三百人でも足りない可能性もあるのか」
「はい、孤児院は四六時中子供達の側に居ないといけませんので、どうしても人手が必要なのです。ーーーそれだけの先生達を、どうやって集めるつもりなのですか?」
「それなら、俺に考えがあります。ちょっと一緒に来てください」
「えっ、ええ、わ、分かりましたから、腕を引っ張らないでください」
「あっ、すいません。ちょっと焦ってしまって」
「いえいえ、お互い冷静にならないとダメですよね。うふふふ。ーーーそれでは、一緒に行きましょうか」
「はい。お願いします」
先程、高等学校の体育館に人が集まってるのを見たが、あれは俺がボランティアを募集してた場所だ。
そこに人が集まっているということは、彼らも何かしら手伝いがしたくて集まった人達かもしれない。
いや、きっとそうだ。
「あっ、救世主様が来た! みんな、救世主様が来たよ」
「本当だ! 救世主様だ」
「救世主様、私達は何をしたら良いですか?」
「私達にも何か仕事はないですか?」
「そうです、私達にも仕事をください」
「何でもしますから、働かせてください」
「皆さん働いているのに、何もしないのは辛いです」
「お願いします、仕事をください」
良かった! やっぱりそうだった。皆、何か手伝いたくて集まっていたんだ。
これなら、何とかなる。
「ふふふ、救世主様か。そうだよね、大翔様は私達孤児院全員の、まぎれもない救世主様でもあったからね」
「もう、冗談言ってからかわないでください。でもチャンスですよ、これなら大勢の先生達が手に入ります」
「そうね、手に入りますね。でも、冗談では…… 」
「えっ? 何か言いました?」
「ふふふ。何でもないです、それよりも皆待ってますよ」
院長先生が何か言ってた気がするが、体育館の中は人が多すぎて騒々しく、何を話していたかよく聞こえなかった。
でも、今はそれどころではない。
早く子供達の面倒を見てくれる人達を集めないと、いつまでも子供達を待たせるわけにはいかない。
俺は舞台に上がると、さっそく皆に声をかける。
「みなさん、お願いがあります」
「何でも聞くよ。だから、私達にも仕事をください」
「私も、何でもするから、手伝わせて」
「私だって、なんでするから働かせて!」
「ちょっと、静かにしてよ。救世主様の声が聞こえないでしょ」
「そうよ、今は救世主様の話を聞くべきでしょ」
「そうね、そうだった」
「今は、話を聞きましょう」
「そうよ、静かにしましょう」
舞台に上がるだけで大騒ぎになってしまったが、全員誰かの役に立ちたいと思って集まったのだから、嬉しい限りだ。
「実は今、大勢の子供達が戦争で両親を亡くし、行き場もなく困っています。子供達には大人の助けが必要で、俺達大人が手を差し出さないと子供達は死んでしまいます。そこで俺は、巨大孤児院を設立しようと思う。その巨大な孤児院で、子供達のお世話をする先生達を募集したいと思いますが、若い人には畑の仕事や工場等の仕事などがあるので、そちらを優先して選んでもらいますが、畑の仕事や力仕事は無理だけど子供の世話なら大丈夫という方に、是非子供達の先生になってもらいたいのです。私は子供が大好きだと思っている方も、是非子供達の先生になってください。ーーーよろしくお願いします」
小さい子供のいる家庭なら、自分の子供と一緒に他の子供の世話もできるはず、それに力仕事が無理な年配の方なら、子育ての経験もあるはずだから適任だと思う。
「私、やります。子供達の先生になります」
「私も、やらせてください」
「私、お婆ちゃんだけど、仕事があるならやらせてください!」
「私も、力仕事は無理だけど、子供達の面倒なら、まだまだ大丈夫だわ」
「うちの子供は小さいから一人にしておけないけど、孤児院に一緒に連れていけるなら、安心して仕事ができるわ。お願い、私にやらせてください」
「「「「私も、私も、うちも」」」」
良かった、これなら直ぐにでも孤児院が開設できる。
「凄いね、千九百人の子供達の世話をするなんて、絶対に無理だと思っていたけど、これなら何とかなりそうですね」
「院長先生…… 」
「私も大翔様から話を聞いた時は、絶対無理だと思った」
「私も思ったよ。だって、千九百人だよ千九百人。普通は無理だと思うよ。こんなの、大翔様じゃないと絶対に無理だよ」
「ハハハハ、そうじゃないよ、皆が協力してくれるからだよ。さぁ、先生達を確保して、子供達を迎えに行きましょう」
「「「えぇ、行きしょう」」」
まだまだ問題は山積みだけど、皆が協力してくれるのなら、どうにかなる!
将来、子供達が笑えるように、今はただ頑張るだけだ。




