45、ロリコンじゃない。
ドリントから新しい街までの領民達の移動は、リリが設置型テレポートを使って移動させてくれることになった。
俺は、新しい街まで徒歩で移動している新入社員達を追いかけ、途中の道に設置型テレポートを設置して、彼らを新しい街までテレポートさせる。
ドリントの街から同じことを何度か繰り返したので、もうすぐ徒歩で移動している新入社員全員のテレポートが終わる。
「はい、到着しました」
「うわぁー、ここが…… あっ、救世主様、ありがとうございました」
「救世主様じゃなく、大翔と呼んでください」
「はい、分かりました。救世主様」
「あぁ…… ハハハハ」
苦笑いしつつ最後の女性を新しい街にテレポートさせ、俺はリリを手伝うべくドリントの街にテレポートする。
リリは設置型テレポートの真ん中に立ち、右手と左手を交差するようにして、多くの人を連続で新しい街に移動させていた。
「リリ、手伝いに来たよ」
「ううん、こっちは大丈夫。それより、そろそろ夕飯のしたくをしたほうが良いのじゃなくて?」
「あっ、そうだった。そっちもあった。リリ、悪いがもう少し頑張ってくれ。必ず誰か応援を寄こすからな」
「うん。でも、無理しないで良いからね」
「分かった、ありがとうリリ」
リリに礼を言ってから、設置型テレポートを通り抜け新しい街に移動する。
移動先の広場は既に大勢の人で溢れていて、それをロンダさんや孤児院の先生達スタッフが必死で住宅を斡旋しているが、数が数だから簡単にはいかない。
リハーサルなしの一発勝負だから混乱するのは当たり前で、あっちこっちで住居の斡旋をサポートするスタッフの大きな声が聞こえてくる。
これだけ大勢の人が集まると、日本ならクレームを言う人が現れるが、まるで好きな人のコンサートにでも行くかのように、領民達の顔には時おり笑顔さえ見える。
長い間我慢していた広場や路上での生活から抜け出せる喜びからか、誰もが文句を言わずスタッフの話を聞いている。
だが、このままの状態が続けば誰かが怪我する可能性もあるうえ、そのうちスタッフとのトラブルが起きてもおかしくない。
大至急スタッフの増員が必要だ。
「すいませーん、皆様にお願いがあります。良かったら、聞いてくれませんか?」
「あっ、救世主様だ」
「本当だ、救世主様が何か話している」
「皆、救世主様が何か話しているから、静かにして」
「救世主様が何か仰っているわよ、静かに聞きましょう」
ギルバート様のせいで、すっかり救世主様にされてしまったが、この際救世主の肩書を利用する事にした。
「みなさーん、実は今日の夕食の準備をしてくれるボランティアや、他にも住居の斡旋のボランティアなど、大勢のボランティアの方が必要な状態です。だから、お願いします。余裕ができた人からボランティアに参加してください」
「ボランティア? 良く分からないけど、仕事なら幾らでも頑張るよ」
「私も、食事を恵んでくれるなら頑張って仕事するよ」
「うちも、仕事するよ! どこに行けば良いの?」
「私だって仕事なら何だってするから、どんな仕事か教えてください」
「私にも、仕事させてください。子供が四人もいるのよ! 仕事させてください!」
ん? いつの間にかボランティア募集だったのに、仕事の募集になっている?
だが、それならそれで良い。
今は猫の手も借りたいほど、大勢の人手が必要な状態だ。勘違いだろうが何だろうが、使える者は親でも使えだ!
「あの建物に来てくれ!」
俺が指差したのは、ある街の高等学校から譲り受けた体育館で、これも元は解体される予定の体育館だ。
「あの変な建物だね。分かった。あの建物で仕事を紹介してくれるのね!」
「あの建物で仕事を紹介してくれるの?」
「それなら、すぐにでも行かないと、仕事なくなるかも」
「えぇ、それは困るわ。私の両親は満足に動けないのよ、私が働かないと家族が困るわ」
「私だってそうだよ、早く行きましょう!」
「そうね、早く行きましょう」
「「「「私も、私も、うちも、」」」」
大勢の人が次々と体育館の中に入って行く姿を見て俺は、この会社が絶対成功すると妙な自信を得ていた。
勘違いでも、これだけ大勢の人が協力してくれるのに、もし失敗したらそれは俺の社長としての資質が無かったと言うことだ。
その時は素直に社長を誰かに譲って、俺は陰からサポートすれば良い。
そう思わせるくらい、領民達は率先して仕事を求めていた。
いつの間にか体育館の中には大勢の人が集まっており、体育館の中に入りきれない人達が体育館を埋め尽くす勢いで集まってくる。
俺は慌てて体育館に入ると、舞台の上にあがり皆に話しかける。
「まず、住宅を斡旋するスタッフが足りませんので、住宅を斡旋する仕事を手伝っても良いと思う人、舞台の上にあがってくれ!」
「私、手伝います」
「私も、手伝います」
「うちも、手伝うよ」
「「「「私も、うちも、私も」」」」
すぐに大勢の人が舞台の上にあがってきたので、俺はロンダさんに念話で体育館まで来てもらい、彼らをロンダさんに任せた。
同じ要領で今度は街の説明係を舞台の上にあげ、セリナ先生とローラ先生に彼らを任せた。
説明係とは、街に到着したばかりの人に、トイレの場所を教えたり、井戸の場所を教えたり、住居を斡旋するスタッフの所に連れて行ったりと、何でもこなす係りの事だ。
最後に残った大勢の人が、全員夕食を作る係りだ。
三万人弱の食事を作るとなると、かなり広い調理室が必要となってくる。それこそ、学校の給食センター以上の広さを持つ調理室が必要だ。
その調理室を俺は、以前手に入れた小学校の体育館と中学校の体育館を使うことにした。
元は繊維工場にする予定で改造した体育館なので、床がコンクリートになったことと、太陽光発電システムから直接電源を取り入れられる事以外は、ただのだだっ広い建物だ。それ故、調理室への変更も割と簡単だった。
小学校の体育館には業務用の巨大なコンベクションオーブンと、スチーム式のデッキオーブンが幾つも備え付けられていて、更にミキサーやホイロ、フライヤー等も設置されており、すぐにでもパンを作ることができるが、今回は使えない。
それらの機械は初心者に扱いが難しく、何度か練習をしないとダメだと判断したからだ。
よって今回は中学校の体育館を使うことにする。
中学校の体育館では、業務用の三連式のIHコンロが壁沿いに百個並べられ、更に二十升炊きのIH炊飯ジャーが百個設置されているので、大量の調理が可能となる。
中央には作業台や、洗い場なども設けているため作業効率を妨げない設計になっている。
問題は調理するスタッフの数で、今回は六百人くらいで調理するが、明日からの朝昼晩を考えれば最低でも千二百人程度は必要だと考える。
異世界には水道がないので、井戸水を汲み上げ沸かすところから始める事を考えれば、人員は更に必要になるかもしれないが、確実に必要となる人数は今のところ未知数だ。
三万人分の食料を作るとなると、どれくらい量になるのか俺には分からないが、J◯の山田さんが親切にも学校給食のレシピを幾つか渡してくれたので、そのレシピを参考に調理することになった。
「私、野菜を切ります」
「うちも、野菜を切ります」
「だったら私は、野菜を洗います」
「私は、水を運びます」
「私も、水を運びます」
「だったら私は…… 」
三万人分の食事は大変だが、誰もが積極的に自分にできる仕事から取り掛かっている。
「この井戸すごーい! 水が簡単に出てくるよ! みんな見て」
「本当だー。なにこれ、なんだか楽しんだけど」
「私水を出す係りをしまーす」
「だったら私も、するー」
体育館のすぐ横には手押しポンプ付きの井戸が三個作ってあるので、手押しポンプの使い方を教えると、感動のあまり手押しポンプの係りが奪い合いになった。
三個だと数的に少ないと思うが、井戸を作る作業が一番時間が掛かるため諦めてもらうしかない。
「水を運ぶなら、このリヤカーを使ってくれ」
俺はプラスチック製の三十リットルの樽を幾つか取り付けた特別製のリヤカーを十台、アイテムボックスから取り出す。
「これなら、大量に水が運べるわ」
「救世主様は、凄い道具を沢山持っているのね」
「台所の道具も、見たことのない物ばかりだし、救世主様、凄すぎるよ」
「私の娘は、もうすぐ十三だから結婚できるけど、救世主様が貰ってくれない?」
「アニータだけ、ずるーい! 救世主様、私の娘は十二歳だけど、可愛くて良い子だからから、どう?」
「お母さん、恥ずかしいから止めて!」
「でも、チャンスだよ!」
「そうだけど…… 」
「ダメダメ、私の娘を貰ってくれよ。そうだ、愛人でも良いよ!」
「愛人で良いなら、うちのところの娘も貰ってくれよ」
「愛人なら、私がなる!」
「あら、あんたじゃ、救世主様に相応しくないわよ」
「違いないね、アハハハハハ」
「もう、酷いよ。アハハハハハハ」
「「「「アハハハハハ」」」」
彼女達が大笑いしてる間に、俺はとっとと退散して今度は調理場に行く。
彼女達の殆どが戦争で旦那を亡くしており、悲しみを隠しながら必死に明るく振る舞おうとする姿が、俺には少し居た堪れなかった。
「救世主様。これは、どう料理するんですか?」
「あぁ、米か」
俺達日本人にとってお米は当たり前だが、異世界の人にとってお米は初めて見る食べ物だから、調理するのに困るのは仕方ない。
俺はお米の洗い方を説明して、お米の分量に対して入れる水の分量を説明すると、後は業務用IH炊飯器の使い方を説明する。
これだけで、美味しいご飯ができるはずだ。
炊飯器、ばんざい!
「意外と簡単だね」
「これで、終わりなの? 本当に簡単だね」
「えぇ、これで終わりです。後はご飯ができたら、このお櫃に入れ替えて十分蒸らしたら、アイテムボックスに入れてください。時間は、あの時計で確認してください」
俺は壁に掛かった大きな時計を指差しながら話を進める。
不思議なことに異世界と日本の時差はなく、まるでパラレルワールドのような感じだ。
「分かりました。それで、救世主様は、好きな人いるの? もしいないなら、私の妹はどうだい?」
「ちょっと、待ってよ。救世主様には、私の娘を紹介するつもりなんだから」
「貴方の娘は、まだ子供じゃない」
「あんたんとこの妹だって、私の娘と一つしか変わらないじゃない!」
「あら、十代の一つの年の差は大きいのよ」
「あまり変わらないわよ」
「ダメダメダメ、私の娘を紹介するのが先よ!」
「えぇ、それはズルいよ、私の娘は可愛いわよ、救世主様」
「ちょっと、私の娘が先よ!」
「アハハハハハ」
俺は苦笑いしつつ、こっそりその場を抜け出した。
ほぼ百%女性だから、俺が逆らうなんて絶対に無理!
だけど、俺に対するセクハラってないのかな……
俺の仕事は調理器具の使い方を説明するだけだが、どこに行っても「娘を紹介したい」と言われる。しかも、なぜか全て十三歳以下の子供ばかりだ。
もしかして、俺がリリといつも一緒に居るから、ロリコンだと思われているのか?
だから小さい女の子ばかり紹介してくるのか?
勿論、俺はロリコンじゃないが、あの人数相手に「俺はロリコンじゃないので、君の娘はいらない」とは、とてもじゃないが言えない。
女性に逆らっても、良い事など一つもないからな……




