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39、地震。

「それで、突然会いにきたのには、何か用事でもできたのかね?」

「えぇ、毎度毎度大竹さんにはお世話になりっぱなしで恐縮ですが、(まと)まった食料を販売してくれる人を紹介してほしいのです」

「食料を? それはまた、なぜなんだ?」

「説明するのは難しいのですが、できるだけ早く食料が必要なのです。こんないい加減な話で申し訳ございませんが、相談できる人が大竹さんしかいないので、よろしくお願いします」

「ふむ…… 」


 大量の食料は欲しいが、やはり異世界の事は秘密にしたい。


 最悪大竹さんが断ったとしても、それならそれでスーパーで買い漁るだけだ。


 正直買い占めみたいで嫌だが、日本ならすぐに商品が補充されるから大きな問題にはならないと思う。


 背に腹は代えられない状況が、まさに今の俺の状況だ。


「君の事だから、断ってもスーパーとかで買い漁るだろうから、良い人を紹介してやろう」


 ギクッ! この人も俺の心を読めるのか!


 でも、紹介してくれるって言ってくれたから、読まれて良かったと思うべきだな。


「ただ、私からもお願いがある」

「なんでしょうか?」

「君が私に用事がある時は、今みたいにすぐに応える事ができるが、私が君に用事がある時、多少時間が掛かってしまうので、それを何とかできないかね?」

「そ、そうですね。でも、どうしたら……」


 大竹さんの言う事は良く分かるが、異世界に行ってる間の連絡手段が思い付かない。


 できる事といえば、毎日マンションに帰って留守電を確認する事ぐらいだ。


「例えばだよ、我が社の職員を君の会社に出向という形にできれば、それが一番良いのだが、どう思う?」

「それだ! でも、出向だと無理か…… 大竹さん、その出向してくる人材を、我が社の正社員にすることは可能でしょうか?」


 日本でも店を経営したら、その店の従業員と念話が使えるはずだ。それなら、異世界にいても連絡が可能だ。


「そ、それは本人に聞かないと分からないが、たぶん大丈夫だと思う。かなり君に興味があるみたいだからな」

「ありがとうございます。すぐに会社を立ち上げますので、その人材を是非紹介してください」

「承知した。こちらも助かるよ」


 会社を設立したら、日本、いや世界で、運び屋としての仕事の幅がより広がっていく。


 これは、またとないチャンスだ!


「それで食料の事だが、何がどれくらい必要なのかね?」

「そうですね、まず米ですが、最低六百トンは必要だと思います。後は、ジャガイモや人参、大根なのど根野菜、それにナスや玉葱など、とにかく、三万人が四ヶ月ほど生きてくだけの食料が欲しいのです」

「三万人? しかも四ヶ月だと。大翔、もしかして大翔は、どこかの教祖かね?」

「教祖って、俺は無宗教です!」

「いや、すまんすまん。もしかして三万人の信者と、無人島で四ヶ月の修行でもするのかと思ってしまった」


 確かに今の日本で、三万人分の食料を四ヶ月分も必要となれば、そんな事しか思いつかないか。


 いや、良く思い付いたと言うべきだ!


「それだけの食料となれば、膨大な金額になってくる。困ってる人を助けるなら、外国でも日本でも金を送れば済むはずだ。それなのに大量の食料を必要とするなんて、大翔、いったい君はどこの誰を助けるつもりなんだ」

「それは…… 」

「言えないか。だが、君が人助けに食料を必要としてることだけは、君の態度で良く分かったよ。だから、協力しよう」

「あ、ありがとうございます」


 お願いする立場なのに、本音を隠して誠意を見せない自分自身に酷く罪悪感を覚えてしまう。


 それに、こんないい加減な話をする俺に、協力してくれると言ってくれた大竹さんには、益々頭が上がりそうにもないや。


「お米か、ちょっと知り合いに電話してみる」


 それから暫く大竹さんが誰かと電話して、それが終わると笑顔で俺にⅤサインをしてくる。


 Ⅴサインなんて古いなと思うが、大竹さんの年齢なら古くもないか。


「農林水産大臣の宮本さんに電話したら、J◯の山田さんに話を通しておくらしいから、明日にでもここに電話したら良い」


 大竹さんはそう言うと、電話番号が書かれたメモ用紙を渡してくれた。


 簡単に言うけど、農林水産大臣に電話するなんて、大竹さんの人脈を侮っていたわ!


 俺、ヤバい人と知り合いになったみたいだ。


「大竹さん、本当にありがとうございます」

「いや、気にするな。君が自分のために金を使う人なら相手にしないが、誰かのために金を使う人だと分かっているから、協力するんだ。今後も…… ん? じ、地震だ。大翔に、リリちゃん、気をつけろ、地震だ!」

「リリ、こっちに来い!」

「うん!」


 突然の地震に焦ったが、幸いなことに地震の規模は小さくてホッとする。


 地震の震度までは分からないが、本棚から本が落ちるぐらいだから震度四〜五程度はあった思う。


「君たち、怪我はないか?」

「えぇ、大丈夫です。大竹さんは…… 」

「キャァァアアアー!」


 突然扉の向こうから女の人の悲鳴が聞こえてきて、俺達は慌てて隣の部屋へ飛び込んだ。


 隣の部屋は壁一面が棚になっており、棚の中には大量の資料が保管されてたようだが、現在は棚の扉の一か所が外れており、中の資料が散乱していた。


 そして、その散乱した資料の下には、扉に挟まれた女性が一人倒れていた。


「おい、いったいどうしたんだ!」

「そ、それが、麗華さんが資料を取ろうと扉を開けた時に、たまたま地震が起きたので、外れた扉の下敷きに…… 」

「ちょっと待て、倒れているのは麗華なのか? おい! 黙ってみてないで、さっさと扉をどかさして麗華を助けろ」

「そ、それが…… 」


 オフィスで良く見るスチール製のラックとは少し大きさが違うが、見た目が大きいだけで似たようなラックに見える。


 最近のスチール製のラックなら、扉だってそんなに重くはないはずだ。


 それなのに、誰も扉を持ち上げようともしない。


 俺は不思議に思い、扉の下敷きになった女性を見に行くと、女性の上には割れたガラス製の扉が乗っかっており、ガラスの破片が女性の首元を切り裂いている。


「麗華! 麗華、しっかりしろ」

「社長、今119番に電話したから 麗華さんに触らないでください」

「な、なぜだ?」

「それから声を掛けるのも、今は止めたほうが良いです」

「だから、なぜだと聞いてる」

「今はガラスの破片が刺さった状態だが、不幸中の幸いでもあるのです。そのガラスの破片のお陰で、血液が体外に飛び出るのを防いでくれているからです」

「………… 」

「それと今声を掛けて、彼女が目を覚ましてしまうと大変危険です。ーーー彼女が少しでも動けば、ガラスの破片が取れてしまい、大量出血が起きてしまう可能性があります」

「そんな…… 」


 彼の言う通りだ。


 以前テレビで見たことがある。予期せぬ出来事で、ナイフや鉄の棒などが体に刺さった場合、それを抜いてはいけない。抜いてしまうと、そこから大量の血液が飛び出る可能性があるからだ。


 この場合、刺さったままの状態で医者の処置を受ける事が、最善の方法と言える。


「おい、それじゃ…… 」

「はい、今はそのままの状態を維持したまま、救急隊員が来るのを待つことしかできません」

「そ、そんな…… 」

「う、うぅ…… 」

「れ、麗華さんが、目を覚ましそうです」


 テレポートで、ガラスの破片ごと彼女を病院に運ぶか。


 だが、病院に到着と同時に破片が外れたら、それでも処置は間に合うものなのか?


 もし、間に合わなければ、俺が彼女を殺してしまう。


 どうする、どうする!


「あっ、う、な、なにが…… 」

「麗華、動くな。何も言わなくても良いから、今は動くな!」

「と、父さ…… キャァアア!」


 その瞬間、彼女に刺さったガラスの破片が外れてしまい、そこから大量の血液が飛び………… 出なかった。


 正確には、少しだけ飛び出た。


 ガラスの破片が外れた瞬間、リリが扉の隙間から彼女の首筋に直接小さな手の平を押し当て、止血すると同時にヒールを使ったのだ。


「聖なる祝福を彼女の身に与えたまえ、ヒール、ヒール、ヒール。我が身を通し彼女の身に祝福を与えたまえ、ヒール、ヒール、ヒール。大丈夫、大丈夫だから。すぐに治して見せるから。聖なる祝福を彼女の身に与えたまえ、ヒール、ヒール、ヒール。我が身を通し彼女の身に祝福を与えたまえ、ヒール、ヒール、ヒール」

「リリ…… 」


 リリは、自分の魔法は効果が小さいと話していたが、そんな事はない。首元を切り裂いた大怪我が、リリの魔法で確実に治り始めている。


 最初は血管を修復したのだろうか、リリが手の平で傷口を押さえながらヒールを唱えると、すぐに出血が止まり同時に麗華と呼ばれた女性の意識が失われていく。


 大怪我を負った際、怪我の治療を促進するために意識を失うと、リリは話していた。


 つまり、リリの魔法は確実に効いている。


「おい、麗華が意識を失ってしまっただろ! 何をしてるんだ」

「大竹さん、もう大丈夫ですよ。麗華さんは助かります」

「えっ、な、なんでそう言える」

「見て、麗華さんの出血が止まっているわ」

「本当だ、信じられない…… 」

「ちょっと待って。見てみろ、傷口が塞がっていく…… 」


 リリが何度もヒールを唱え続けると出血を止めただけじゃなく、今度は広く切り裂かれた首筋の傷が次第に閉じていく。


「どうなっているんだ。見てみろ、本当に傷口が消えていくぞ」

「なに! ちょっと見せてみろ。ー--ど、どうなってるんだ。ーーー大翔、彼女はいったい、何をしたんだ」

「う~ん、俺にも説明は難しいが、リリ、良くやった」

「うん! 大竹、さん、麗華、さんは、もう、大丈夫、だよ」


 片言の日本語で大竹さんを安心させると、リリが笑った。



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