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3、金のなる木

「それで、どこに運べばいいんだ」

「ちぃがうだろうぅ! そうじゃないだろ。丸太は、どこに消えた」

「お兄ちゃん、ーーー丸太は、どこ?」

「うわぁ、どうすんだよ! 兄ちゃん、丸太を出せ、俺が怒られるだろ。おい、なんとか言えよ」

「丸太は? 丸太? お兄ちゃん、丸太が消えたよ」


 ボルシチのように顔を真っ赤にしながら身振り手振りで大騒ぎする男と、チワワのように愛らしい丸い瞳でキョロキョロと丸太を探すリリ。


 反応は違うが、それでも二人が凄く驚いたことには変わりはなく、そんな二人に感極まり、思わず言葉となって飛び出てしまった。 


「ありがとう」と。


「ふざけてんのか、この野郎! 俺には家族が居るんだぞ、丸太が出てこないと、首になっちまうだろ。頼むから丸太を出してくれ。頼むよ、俺のカミさんは怖いんだよ、殺されちゃうよ…… 」

「お兄ちゃん、ーーーおじちゃん、泣いているよ」


 大の男がボロボロと涙を流し、嗚咽を溢しながら泣いていたが、俺は今猛烈に嬉しかった。


 ラノベを読んでる時に毎回思ったものだ、主人公の魔法が凄くて、それに驚く一般人の反応の面白さに。


 凄い魔法に驚く民衆の声が、読んでて興奮したり嬉しかったり感動したりと、最高に楽しかった。


 目の前にそんな光景があったら、誰だって俺と同じ事を言うに決まっている。


 最後の方は男が本当に涙目で「丸太、丸太、丸太、丸太、丸太、丸太」と、壊れたレコードのようだったが、俺は両手を空に向けて「やったぁぁああー」と叫びながら、歓喜に震えていた。


 ただ、興奮してた俺も段々落ち着いてきて、この世界にはアイテムボックスが存在しないか、物凄く珍しいかもしれないと考えていた。


 異世界召喚された時、魔法の存在を聞かされていたので、アイテムボックスも当たり前に存在するものだと思っていたから、敢えて隠すつもりはなかった。


 だが、二人の反応を見て、やはり隠したほうが良かったかもしれない。


 まっ、今更か。ーーーアイテムボックスで金儲けしようと考えたら、これぐらい乗り切らないとな。


「別に、大丈夫だって。そんなに心配しなくても良いから、早く運ぶ場所を教えてくれ」

「心配するわ! 丸太が消えたんだぞ、心配するに決まってるだろ」

「お兄ちゃん! すっごぉい!」

「ハンドパワーです」

「お前、馬鹿にしてるだろ! 兎に角早く出せ!」

「まぁまぁ、どこに運んだら良いか教えてくれよ、ちゃんと仕事するからさ」


 男なら誰もが憧れる異世界チート。やっと俺の番が来たので、目いっぱい楽しむことにする。


 丸太が消えてなくなり大騒ぎする男を、心配ないと説得しながらも、俺はアイテムボックスを使うのが楽しくて仕方なかった。


 そして思った。ーーーアイテムボックスは『金になる』と。


 スキル運び屋は、使い方次第で間違いなく金を生む最高の金のなる木だ。


 大金持ちになるというバカにされそうな夢だが、俺にとっては最高の夢で、そう思うと笑いが止まらなかった。


 そのためには目の前の男を説得して、丸太の運搬の仕事をきちんと終わらせる。


 男は丸太が奪われないかと心配をしていたが、俺が冒険者ギルドの正式な依頼書を持っていたため、なんとか納得して仕方なく運搬先を教えてくれた。


 男を説得する事が、一番疲れた。


 男が教えてくれた運搬先は、ロードス木材加工場と呼ばれ、王都で一番有名なロードス大商会の木材部門らしい。


 距離は結構あるみたいだが、俺はテレポートを駆使して短時間でロードス木材加工場に辿り着く。


「すいません、丸太を運んできました」

「おぉ、そうか。ありがとうな、こっちに来てくれ」


 男に案内され丸太置き場に着くと、俺は早速丸太をアイテムボックスから取り出す。


 一瞬だけもやっとしたと思ったら、瞬く間に敷地いっぱいに丸太が積み上げられてしまう。


「なんじゃこりゃ!」


 どこかの有名な刑事ドラマの殉職シーンみたいなセリフを、体全体を使って叫ぶ男に、俺は「まだ半分ですけど」と告げた。


 放心状態の男を、なんとか現実に引き戻し、空いてる敷地を何箇所か案内してもらい、時間はかかったが全ての丸太を引き取ってもらえた。


 最初は納得できなかった男も、最後は考えることを放棄して素直に喜んでいた。


「こんなに沢山の丸太を持ってきたのは、お前が初めてだ。お礼に少し上乗せしといたからな」


 男に依頼達成証明書を書いてもらい、ロードス木材加工場を後にして冒険者ギルドに向かう。


「お兄ちゃん、さっきのは何」

「運び屋のスキルの一つで、アイテムボックスと言うんだ。何でも異空間に収納する事ができるから、便利だろ」

「異空間? 収納?」

「目に見えない、大きなポケットみたいなものだよ」

「そうなんだ、凄いねお兄ちゃんのポケット」


 目に見えない大きなポケットで納得したらしく、リリは目をランランと輝かせながら俺を見つめていた。


「リリ、アイテムボックスのことは別に良いけど、瞬間移動(テレポート)のことは誰にも話したらダメだよ」

「どうして?」

「テレポートは、便利だろ」

「うん」

「便利なテレポートを使おうと、悪い人がお兄ちゃんを誘拐するかもしれない。お兄ちゃんが誘拐されたらリリも嫌でしょ、だから秘密にするの。約束できる?」

「分かった。絶対誰にも言わない、約束する」


 いずれはバレると思うが、敢えて自らバラす必要はないので、秘密にしたほうが良いだろう。


 リリと話をしながら歩いていたら、いつの間にか冒険者ギルドに着いていた。


「これ、ロードス木材加工で書いてもらった依頼達成証明書。これで良いかな?」

「はいはい、確認しますね。ーーーッ! なんじゃこりゃー!」


 受付のお姉さんが大声で叫んでいたが、その時俺は(二度目だと、最初に比べて感動が薄いなぁ~)と、他人事のように考えていた。


大翔(ひろと)さん、この丸太千三百四十五本とは本当ですか?」

「えぇ。なんでも新記録だそうです。あっ、そうだ。お礼に少し上乗せするって、話していました」

「あっ、そうですねぇ。ーーー確かに本物だし、ーーー分かりました、今すぐお金を準備しますので、暫くお待ちください」

「お願いします」


 かなり驚き悩んでいたが、一瞬で笑顔を作るとテキパキと仕事をする。


 さすが、プロだ。


 受付のお姉さんは一旦席を立って、奥の部屋に入り暫くすると、お金らしきものが入った袋を持って出てくる。


「大翔さん、こちらが依頼料になります」

「ありがとうございます」

「金額は、金貨一枚と大銀貨二十六枚、後は銀貨九枚だけど、上乗せ分の銀貨一枚が付きますので、銀貨十枚を袋に入れときました。ーーー少し使いやすいように細かくしたけど、良かったかしら」

「は、はい。ありがとうございます」


 うーん、お姉さんが丁寧に対応してくれるけど、通貨の基準が分からない。


 こんなの聞いたら、怪しまれるよね。でも、必要だしなぁ、やっぱり聞いたほうが良いよね。


「あの、この辺の宿屋の値段を、教えてもらっても良いですか?」

「あぁ、王都に来たばかりだと、話していましたね。この辺の普通の宿屋で、一泊大銅貨五枚ぐらいかな。朝食付きでプラス銅貨六枚、夕食だとプラス大銅貨一枚が相場だね」


 あっ、一枚も(かす)ってない。銀貨はどの辺?


「なるほど、ありがとうございます。ーーーちなみに、銀貨も使えますか?」

「えっ? 何を聞きたいのか分からないけど、ーーーさっきの話に銀貨を使ったら、一泊大銅貨五枚だから、お釣りが大銅貨五枚ちゃんと返してくれますよ」

「あぁ、ありがとうございます」


 よしっ! 解決した。


 俺の予想だと、冒険者が泊まる宿屋は安いはず。つまり、宿屋の代金、大銅貨五枚は五千円と考えれば、銀貨は一万円か。


 そうなると、銅貨は百円になるのか。


 ん? ちょっと待てよ。俺の予想が正しければ、今日稼いだお金は三百七十万円相当ってこと! 


 すっげー、異世界最高!


「お兄ちゃん、大丈夫?」


 大金を手に入れ興奮のあまり暫く呆然としていたら、リリに心配されたようだ。


「あっ、大丈夫、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから。そうだ、ちょっと買い物に行こうか」

「買い物?」

「そっ、買い物」


 リリに買い物に行くと言ったけど、お店の場所も分からないし、もう一度お姉さんに尋ねてみる。


「あのぉ、もう一度良いですか?」

「えっ、また来たの」


 度々訪れる俺が、段々迷惑な人だと思われたのか、お姉さんの態度が露骨に悪い。


「すいません、丁寧に教えていただいたので、これはお礼です」


 俺は袋の中から銀貨一枚をカウンターに置くと、お姉さんの方に滑らせていく。


「えっ、良いのですか?」

「えぇ、勿論です、お姉さんには助けてもらってますから」

「そう、そうなのね。それで、何が聞きたいの?」


 物凄く笑顔になったお姉さんに、俺は洋服屋さんと、美味しい食堂の場所を丁寧に教えてもらった。


 やっぱり世の中、何と言っても金だよね。


 お姉さんも、嬉しそうだし。


 でも、泊まるのは、日本で決まりだな


 この辺、ウォシュレットも無いし……




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