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38、予算。

 俺は、リリとマンションに戻り夕食を食べ終えた後、部屋の壁にもたれながら、内務官達が纏めた資料に目を通している。


 内務官の頑張りで大雑把だが家や畑などを失い、更に頼る相手もなく完全に路頭に迷いそうな人が三万人弱いた。


 戦死した者の内訳は、既婚者が八千五百人超え、独身者も千五百人を超えていた。


 戦死した独身男性千五百人の内の千百人は、彼らの家族に跡継ぎがおり賠償金を支払う事でひとまず解決した。


 更に戦死した既婚男性の八千五百人の内、千四百人は親戚や兄弟など頼れる相手がおり、また畑なども無事な事から、こちらも賠償金を支払う事で決着がつきそうだ。


 残りの戦死した既婚男性と独身男性を足した数は七千五百人となり、その家族は二万九千八百人にとなった。


 彼らには家があっても食べるものが無かったり、または家や畑の両方を失った人達だ。


 そして、戦死した家族二万九千八百人の内、千九百人超えが戦争孤児となる。


 戦争孤児の殆どが十歳以下の子供達で、大人が手を差し伸ばさなければ死んでしまう危機的状況だ。


 だが、肝心の大人までも飢えて死にそうなのに、他人の子供の面倒までは……


 残念だが、これが今の辺境伯領の現状で、俺が予想していた難民の数二万人よりも、一万も多かった。


 勿論、彼らにも賠償金は支払われるが、ハッキリ言って賠償金の額はかなり少ない。


 それが異世界の常識で、戦争に参加するのは領民の義務であり、賠償金が出ない国や領地が普通だ。


 日本でも賠償金が支払われるようになったのは最近の事で、江戸時代より前は勝てば領地を得て、負ければ領地を奪われ路頭に迷う。


 戦争とは、そういうものだ……


 ロンバート辺境伯が賠償金を支払うのは、彼らが自ら立ち上がった事への感謝の気持ちが多く含まれる。


 だが、雀の涙の賠償金が入っても、そのお金で食料が買えない事が問題だ。


 食糧難に、食料を売る人など誰もいないし、売っていたとしてもパン一つが半月分の給金ということも有り得る。


 話を戻して、難民の数を三万人と仮定して、どれだけ食料が必要となるか、またそれにかかる費用はどれだけ掛かるのか、簡単に計算してみる。


 難民の数を三万人と試算して、パンと牛乳を二百円と仮定して朝昼晩と全員に配ると、一人六百円、十人で六千円、百人で六万円、千人で六十万円、一万人だと六百万円、三万人だと千八百万円か!


 大雑把だが、多少余分に一日二千万円弱かかると考えるべきだ。


 作物が育つまで配給は続くと考えると、単純にジャガイモやサツマイモが、植えてから食べられるまで三〜四ケ月は掛かるから、取り合えず計算しやすいように百日とすると……


 ヤバい! 二千万円の百日で、二十億円も掛かるのか!


 しかも、確実にそれ以上掛かるはずだ!


 あっ、頭がクラクラしてきた。 


 この前二百四十億円ほど稼いだが、所得税と住民税で半分も持っていかれた!


 しかも、太陽光パネルを利用した発電システムに七十億円ほど使い、残り五十億円も土地を購入したり他にも色々使ったから、四十億程度しか残ってない。


 更に畑の開拓で使う農機具も今から購入する予定だから、数億円ほど飛んでいく可能性がある。


 そうだ、パンと牛乳だけじゃ生きていけないから、肉も計算しないと……、


 単純に肉を一人一日百グラムを消費すると仮定して、三万人だと三千キロも必要なのか!


 牛や豚を解体した場合、実際に食べられる部位は内臓も含めて四十五%程だから、魔物もこれと同じだと仮定した場合、魔物一頭の平均体重は二百八十キロ程度だから、食べられる部位の重さは百二十六キロとなる。


 つまり、一人一日百グラムの魔物の肉が必要と仮定した場合、三万人だと一日二十四頭の魔物が必要となる。


 二日に一回、五十頭の魔物を狩れば良いと考えれば、大した問題ではないか……


 いや、問題だろ!


 二日に一回魔物を狩りに行って、その間に畑の開拓や住宅の整備、更に日本から食料の手配もしなければならない。


 あっ、お店の商品も補充もしなければ……


 俺、過労死しないかな……


「お兄ちゃん、どうしたの?」


 考え込んでる間に、どうやらリリが風呂から上がってきたようだ。


 リリが部屋を移動するたび、シットリと濡れた髪から微かにコンディショナーの匂いがする。


 彼女が最近好きな香りだ。


「なんでもない。いろいろ考えていたら、頭が痛くなってきただけ」

「大丈夫? リリが、みんなを助けてって言ったから?」

「そんな事はない。最後に決めたのは俺で、リリの後押しには感謝してるよ」

「それなら良いけど…… 」

「ただ、暫く忙しくなるから、悪いけど留守番よろしくね」

「いや、リリも一緒に行く!」


 えっ、急にどうしたんだ? 


 今迄俺が日本で活動するときは留守番してたのに、やはり留守番するの淋しかったのか。


 リリの気持ちは分かるが、日本での交渉は異世界とは違い、仕事場に子供を連れて行くと相手にされない場合も多い。


 それに学校はどうしたとか、いろいろ聞かれて面倒なことになりそうだ。


 だが、リリの気持ちも尊重したいから、悩ましいところだ。


「お兄ちゃん。ー--リリ、あまり役に立たないけど、一応ヒールの魔法だけは使えるから、お兄ちゃんの疲れを取ってあげられると思う」

「でも、眠くなるんだろ?」

「あれは、お兄ちゃんの怪我が酷かったからで、疲れ程度なら体が楽になるだけで眠くはならないよ」


 そういえば、そんな風に言ってたな。


 酷い怪我の場合、早く治すために睡眠の効果があるとかなんとか、言ってたような気がする。


 体が楽になるなら、リリと一緒にいたほうが良いか。


 ああ、もう考えるのが面倒になってきた。


 一度くらい、成り行きに任せてみるか!


 最悪ホームステイだと言えば、大した問題にはならないだろう。


「分かった。一緒に行こう。だが、こっちの常識を知らない内は、勉強だと思っておとなしくしてるんだよ」

「うん! 絶対邪魔しない」

「そっか。早速、明日から仕事開始だ!」

「お兄ちゃん、ありがとう。すご~~~~く、大好き!」


 壁にもたれ胡坐(あぐら)をかいて座る俺に、リリはゆっくりと寝転がるように膝枕してくる。


 濡れた髪が若干嫌だが、大好きとまで言ってくれた彼女を、押し退けることなど出来るわけがない。


 ただ俺は、デニムの色が濃くなっていくのを、悲しく見つめるだけだった。



 ★ ★ ★



 翌日、俺は朝早くから石油会社の社長である大竹さんにアポを取ると、急なお願いにもかかわらず、お昼過ぎなら会ってくれると連絡が来た。


 大竹さんにアポを取ったのは、人脈の少ない俺にとって、大竹さんの人脈に頼ることが一番良いと考えたからだ。


 お昼過ぎになり、俺とリリが大竹さんの会社に行くと、受付の綺麗な女性が社長室に案内してくれた。


「久しぶりだな大翔。元気にしてたか?」

「えぇ、大竹さんも元気そうですね」


 社長室に入るなり声を掛けてくれた大竹さんに、俺も笑顔で応える。


 もう何度も大竹さんにはお世話になっていて、最近では俺の事を呼び捨てにするほど親しくしてくれる。


 俺は流石に年配の大竹さんのことを呼び捨てにはできないが、散々お世話になっているので、物凄く恩を感じている。


「おっ、大翔が女の子を連れてくるとは、これまた珍しいな」

「彼女の名前はリリ、ホームステイで日本に来ている。ー--まだ、日本語が喋れ…… 」

「はじめ、まして。リリ、です。よろし、く、おねがい、します」


 青天の霹靂とはまさにこの事だ。なんと、いきなりリリが日本語を片言ながらも喋ってみせたのだ。


 日本語の勉強をしてるとは聞いてはいたが、まだ数か月しか経ってないのに、これは先が楽しみになってきた。


 近い将来、日本でもリリと一緒に行動する日が来るかもな。


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