25、それぞれの思い。
院長先生に一言入れてから、俺はテレポート専用の部屋に移動してロンダさんと話を続ける。
(俺の噂とは、どんな噂だ?)
(私が聞いた話では、近衛兵が、最近王都で魔物を狩って荒稼ぎをしている人物を知らないかと、訪ね回っている話です)
(近衛兵が…… )
(それから、その者は牢獄から逃げ出した犯罪者の可能性があるから、見つけたら速やかに憲兵に伝えるようにと、触れ回ってるようです)
前にロンダさんが話していたな、近衛兵は王族を専属で護衛する騎士の集団だと。
あの時俺を牢屋に入れた甲冑の男も、国王の側で護衛をしていたから近衛兵だろうか。
まっ、あれだけ荒稼ぎしてたら話題にも上がって、国王の耳に入ってもおかしくないか。
それに今更だけど、俺は冒険者ギルドや商業ギルドに、本名で登録してるからバレても仕方ないんだよね。
言い訳するなら、あの時の俺は、本名で登録しないと登録できないと考えていた。
異世界には魔法が存在するんだから、鑑定のスキルが存在してもおかしくないはずだ。
ラノベで良く出てくる鑑定のスキルが、冒険者ギルドや商業ギルドに存在する可能性がある以上、本名で登録するほうが賢明だと思ったからだ。
バレてもテレポートで逃げれば良いやと考えていたから、本当のところ、そんなに深くは考えていなかった。
よく持ったほうだと、考えるべきだな。
(それで、ロンダさんの方は大丈夫ですか?)
(問題ありません。関係が疑われても、秘密保持契約がある以上、誰にも深く追求することはできません。契約を破ろうとすれば、契約時に交わした秘密に関する記憶そのものを失ってしまうので、そんな無駄な事は誰もしません)
そう言えば、そんな話をしてたな。
(ただ、大翔様が見つかった場合、人質を取るなど面倒な事が起こる可能性がありますので、ドリッシュ帝国に行くなら早めに行かれたほうが宜しいかと)
(なるほどな、良く分かった)
(騎士団じゃなく近衛兵が動くということは、国も大きな問題にしたくないと思います。大騒ぎになって大翔様を利用できなくなるほうが、彼らも困りますから)
(分かった。ーーーだが、くれぐれも気をつけるように。何かあったら、直ぐに連絡をしてくれ)
(畏まりました。あっ、それから、商品が売れすぎて忙しいので、もう一軒店舗を増やしても宜しいでしょうか?)
えっ、こんな状況なのに店舗を増やすの? それって、大丈夫なの?
いくら何でも攻めすぎではないですか、ロンダさん。
(それって、大丈夫なのですか?)
(大丈夫です。ただ、一つだけ、御主人様にお願いしたいことがあります)
(お願いとは?)
(私の亡くなった友人の、奥様と子供を買い取ってください。店は、その方に任せようと思いますから)
(それって…… )
俺はピンときた。ロンダさんが奴隷になった原因を作った友人で、確か自殺して亡くなったはず。
その奥さんと子供が、奴隷になっているのか。
でも、ロンダさん一家を奴隷に落とした張本人の家族だぞ、いくら本人が悪くなくても奴隷に落ちれば、恨みこそすれ助けるなんて思わないはず。
(ロンダさんは、それで良いのですか?)
(彼は、私達家族が困っている時に手を差し述べてくれた、大切な友人なのです)
(………… )
(私も妻のシャロンも、彼の事を恨んでいません。彼が手を差し伸べてくれなければ、疾うの昔に死んでいたと思いますから)
(そっか、分かった。それ以上は聞かない。ロンダさんが決めたのなら、俺はロンダさんの意思を尊重するよ)
(ありがとうございます)
(それで、彼女たちの値段は幾らだ?)
(奥さんと子供達二人で、金貨十枚です。これからも頑張って働きますので、お願いします)
あれ、意外と安いな。やはり若い女性じゃないと、需要がないのか?
でも、子供達もいるのに……
そっか、ザリューム奴隷商会のローレンは、そんな男だったな。
(分かった、今から金を届ける)
(いえ、今までの利益の一部で買えますから、お金は必要ありません。ただ、お金を使う許可をくださいますか)
えっ、そんなに儲かっていたの?
異世界雑貨店がオープンしてから、一ヶ月ちょっとしか経ってないのに、そんなに稼いでいたなんて驚きだ。
異世界の商品と日本の商品を比べれば品質の差は歴然だが、これは想像を遥かに超えている。
(分かった、許可する)
(ありがとうございます。それでは、ローレンさんには話しておきますので、次の定休日に直接ザリューム奴隷商会に来ていただけますか?)
(あぁ、そうだな。連絡してくれたら、すぐにでも行くよ)
(ありがとうございます。それから、新しい店ができたら在庫の心配も御座いますので、そちらの方もよろしくお願いします)
(分かった、そちらも増やしておく。それより、ロンダさんに全て任せているけど、大丈夫なのですか?)
俺は何もしないで店の経営から新しい店舗の事まで、全てロンダさんに丸投げで、本音を言うと肩身が狭くてかなり居心地が悪い
本来なら、率先して俺が指揮を執り続けなければならないのに、いくら奴隷とはいえロンダさんに任せっきりなんて、段々情けなくなってきた。
(御心配には及びません。御主人様から働き手を雇用する権利を得ましたので、忙しくなる前に孤児院の子供を三人臨時で雇ってますから安心してください)
(そっか、安心したよ。もし、子供達が働きたいというなら、正式に雇っても構わないからな)
(ありがとうございます。彼らと相談して決めたいと思います)
(そうだな…… あっ、言ってくれれば、院長先生と直接念話できるようにするからな)
(畏まりました。それでは仕事がありますので、また連絡します)
(分かった。いつでも連絡を待っているから、よろしく頼む)
(畏まりました)
今はロンダさんに任せっぱなしだけど、近い将来絶対何とかしてみせる。
そのためにも、孤児院の経営する異世界雑貨店を成功させないといけない。
俺は部屋を出ると、一階の店舗部分に移動する。
「せっかくお茶を入れてもらったのに、すいません」
「いえ、今から入れなおしてきますので、気にしないでください」
「ありがとうございます」
「ロンダさんは元気でしたか?」
「えぇ、元気です。それよりも、ロンダさんのお店に子供達を貸して頂き、ありがとうございます」
ロンダさんと念話で話したことを、院長先生に全て話し今後の事を相談する。
院長先生は、俺の噂を聞いても焦る様子もなく、軽く聞き流してる感じだ。
どうやら秘密保持契約の威力は誰でも知っているようで、異世界では商売に関する事を、無理やり聞き出すような無駄な事は行わないようだ。
俺の噂よりも、院長先生は子供達が異世界雑貨店で正式に働くことが気になるようで、今度ローレンさんと話をさせてくださいと仰っていた。
セリナ先生ローラ先生を交えて休憩をした後は、再び商品を棚に並べる作業をする。
一通り作業を終え残りは明日することになり、手伝ったお礼に俺とリリは孤児院の夕食に招待された。
夕食の間もお店の話題で持ち切りとなり、商品の値段や販売の仕方、アイテムボックスの使い方など様々な事を、お互いが納得するまで話し合いを続けた。
日が変わる頃、俺とリリはマンションにテレポートして眠りについたが、疲れてはいてもリーマン時代とは違い、充実した一日でもあった。
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