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24、涙。

 百聞は一見に如かずで、分からないのなら試してみれば良い。


 俺は、アイテムボックスに入っているシャンプーの時を遡ってみた。


 だが、何も起きない……


 次に、ハンドクリームの時を遡ってみたが、やはり何も起きない。


 うーん、使い方が良く分からない。


 ん? もしかして、これなら……


 今度は、今履いている靴をアイテムボックスに収納してから、時を遡ってみる。


 うん、靴が新品になっていた。


 汚れていた靴の汚れが取れたのではなく、完全に買った時の状態に戻っている。


 新しいシャンプーは時を遡っても変化はなく、古い靴は新品にまで時を遡る事ができた。


 つまり、時を遡るアイテムボックスは永遠に時を遡るんじゃなく、完成した状態まで時を遡る事ができるというわけだ。


 一度買った商品を、永遠に新しいまま使えるなんて、ある意味恐ろしいスキルだ。


 このスキルがあれば、もう二度と同じ商品を買う必要がなくなる。


 そうなったら、経済が破綻してしまうかもしれない……


 うーん、まっ、良いか! 俺だけが使えば、別に問題ないよな。


 俺は考える事を放棄した。


 院長先生のところに戻った俺は、設置したアイテムボックスから商品を取り出し、院長先生達と一緒に棚の上に並べていく。


 商品自体はロンダさんのお店と殆ど同じで、コスメ商品を中心にお酒やソフトドリンクなども販売する。


 孤児院が経営する異世界雑貨店では、作りたてのポップコーンやポテトチップスなども販売する。


 以前、孤児院の子供達が喜ぶと思って、お土産に持ってきたポップコーンとポテトチップスをローラ先生が気に入り、是非販売したいと強く求められ、販売することが決まった。


 お店を経営してくれる先生達が販売したいと言ってくれてるのに、俺が反対する理由がないからだ。


「大翔様、後は私とローラでやりますので、大翔様は、院長先生と休んでいてください」

「良いのですか?」

「勿論です。ここまでしてくれて、本当に感謝してます。それに、院長先生にも休んでほしいので、うふふふ」

「そういう理由(わけ)なら、お言葉に甘えよます」

「えぇ、どうぞ、どうぞ。今すぐお茶を入れますので、少しだけお待ちくださいね。ー--院長先生、大翔様が休憩しますので、院長先生も大翔様と一緒に休んでください」


 俺を利用して院長先生を休憩させるセリナ先生の優しさに、甘えて少し休むことにする。


 カウンターの中にある椅子に座り、寛ぎながらゆっくりお店を見渡すと、セリナ先生がローラ先生に何か話してから、二階の階段を登って行った。


 お茶の準備をしに、キッチンに向かったのだろう。

 

 セリナ先生やローラ先生は、他人に対する気配りもできるうえ、仕事も真面目で孤児達の面倒も見る優しさまで兼ね備えている。


 考えてみれば二人ともまだ十七歳で、俺が十七の時は親が健在だったから、結構ダラダラ生きていたような気がする。


 く〇ク〇熊ベ〇ーのユ〇さんも言ってたけど、本当に異世界の子供達って真面目で頑張り屋で、素直に凄いと思う。


 そういえば、ユ〇さんが孤児院を助ける話があったが、あれは心が暖かくなる話だった。


 面白くて、何度も読み直したっけ。


(お兄ちゃんは、セリナ先生みたいな人がタイプなの?)

(ん? 行き成りどうしたんだ?)


 少し考えこんでいると、突然リリが念話で俺に女性のタイプを聞いてくる。


 勿論、セリナ先生がタイプかタイプじゃないかと言えば、タイプに決まっている。


 少し痩せ気味だが、胸は意外と大きく見えるし、お尻だって悪くない。


 顔は少し幼いが、間違いなく美人になるだろうし、何より性格が良すぎるだろ。


(ー--さっき、セリナ先生と話してるとき、なんかお兄ちゃん、嫌らしい顔をしてたから…… )

(えっ、そ、そんな顔してないだろ)


 えっ、もしかして俺、鼻の下伸ばしてた? もしそうなら、最悪なんだけど。


 従業員相手に鼻の下を伸ばしていたら、セクハラしてるのと同義じゃないか。


(ううん、絶対してた。嫌らしい目つきでセリナ先生を見てた)

(そ、そんな失礼なことしてないって、リリの勘違いだって)

(ふーん、そうかな? だったら、お兄ちゃんの好きなタイプを教えてよ)

(あっ、院長先生が来たから、また後でね)

(お兄ちゃん、逃げないでちゃんと教えて)


 俺は念話を切ると、溜息を吐いた。


 院長先生が来てくれて助かったぁー。でも、俺は何て答えたほうが、正解なんだ?


 もしかしてリリは、俺が誰かと付き合ったら捨てられると思っているのか?


 いや、そこまでは思ってなくても、邪魔者になるぐらいは考えてるのかもしれない。


 そんな事ないのに、今度きちんと話してみるか。


「お待たせしました。やりかけの仕事を済ませたら、遅くなってしまいました」

「いえいえ、俺だけ先に休ませてもらい、どうもすいません」

「とんでもない、大翔様には大変お世話になっておりますから、どうぞ気にしないで休んでください」


 院長先生が俺の隣の椅子に座ると、なぜかリリが俺の足の上に座った。


「リリ、重いんだけど」

「だって、椅子が二つしかないから、仕方ないでしょ」

「いや、あっちにもあるんだけど」

「良いの、あれは高いところに商品を並べたりするのに使っているから、持ってきたら困るの」

「それも、そっか」

「うん」


 俺の足の上に座るリリを見て、院長先生が微笑みながら「本当に仲が良いんですね」と言ってきた。


 その言葉に、俺は素直に嬉しく思う。


 赤の他人の俺とリリが家族のように見えるなら、俺達の絆もそれなりに深く繋がっているということだ。


「大翔様、私達のような者に手を差し伸べて下さり、誠にありがとうございます」

「急に、どうしたのですか?」


 何の前振りもなく院長先生は席を立つと、頭を下げた。


 俺とリリも、慌てて席を立つ。


「以前お話を受けた時に、きちんとお礼を言えなかったものですから」

「そんな、お礼何て言わなくても、これは俺のためでもありますから」

「そうかもしれませんが、大翔さまは井戸も直してくださりましたし、手押しポンプという便利な道具も付けてもらいました。あれを取り付けて貰ってからセリナ先生もローラ先生も、子供達も、勿論私も、凄く助かってます。本当に、ありがとうございます」

「い、いや、そんな…… 」


 井戸の水を汲み上げる大変さを身を持って知った俺は、孤児院の井戸に手押しポンプを取り付けると同時に、建築用の一輪車を寄付した。


 井戸から簡単に水を汲み上げる事ができ、更に水を運ぶのも楽になって、子供達が「私もやってみたい」とか「俺も、やってみる」とか言って、手押しポンプや一輪車の事で大騒ぎしてたの思い出した。


 勿論手押しポンプがバレないように、プレハブ小屋の床に穴を開け壁を板で覆った、異世界風プレハブを井戸に設置した。


 これで手押しポンプが盗まれることも世間で大騒ぎになることもなく、雨の日も濡れずに使えるようになる。


「それだけでは御座いません。大翔様は、多額の寄付金まで頂きましてくれて、更に私達の生活を豊かにする方法まで考えてくださりました。本当に感謝しかありません。本当に、ありがとうございます」


 再び院長先生が、頭を深く下げる。


 お礼は嬉しいけど、俺は自分の都合で動いているだけで、改まってお礼を言われると、どうして良いのか困ってしまう。


 俺は今後もこの店を利用して金儲けするはずだから、お礼は……


「お兄ちゃん、泣いてるの?」

「えっ?」

「大丈夫ですか、大翔様」


 気が付けば、俺の頬に涙が流れていた。


「アハハハハハ。なんだろう、金儲けができると思ったら涙が出てしまったよ」

「お兄ちゃん、違うよ。嬉しいから、涙が出たんだよ」

「………… 」


 嬉しいのか。そっか、俺は嬉しいのか。


 両親が死んで俺一人になってから必死に生きてきたが、誰かにお礼を言われる生活をしてきたわけじゃない。


 リリにお礼を言われても、子供なんだから大人が面倒見るのは当たり前だと思っていたし、ロンダさんにお礼を言われても、奴隷として買ってしまった後ろめたさから素直に喜ぶことができなかった。


 俺は、涙がでるくらい嬉しかったのか……


「リリ!」

「ん?」

「俺はもっとお金を稼いで、俺の店で働く人達を幸せにするぞ」

「うん!」

「まぁ、心配しなくても大丈夫ですよ、大翔様。今、私達は十分幸せです。だから、そんなに頑張らなくても良いのですよ」

「そうですよ大翔様、今度は私達がお店を盛り上げて、大翔様を幸せにしてあげますから」

「えぇ、その通りです。院長先生やセリナの言う通り私達が頑張りますから、大翔様は今まで通りでいてください」


 セリナ先生とローラ先生も現れて、俺のお店を盛り上げると笑顔で話してくれる。俺は凄く嬉しい気持ちと少しだけ恥ずかしい気持ちが入り混じった、幸せな気持ちでいっぱいだった。


 俺も頑張るぞと、気合を入れようとした時、ロンダさんから念話が入った。


(ロンダさん、何かありましたか?」

(実は今、王都ではご主人様の事が噂になっております。ですから、ドリッシュ帝国に行かれるのであれば、できるだけ早く行かれたほうが宜しいかと思います)


 念話は、ロンダさんからの注意勧告だった。





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