21、今後のために。
次の日、朝から孤児院にやって来た俺は、院長先生と秘密保持契約の魔法陣を使い、俺の秘密を守る契約を交わす。
秘密保持契約の効果は絶大で、万が一秘密保持契約を破ると、契約を交わした以降の記憶を全て失ってしまうらしい。
その話を聞いた時、俺は一瞬躊躇したが、先生達は既に納得済みだから進めてくれと仰ってくれて、俺も覚悟を決めた。
秘密保持契約を結んだのは、院長先生とセリナ先生とローラ先生の三人で、俺は自分のスキルを話す前に、国王に追われる可能性について話をした。
まだ可能性の段階だが、孤児院に危険が及ぶ可能性がある以上、話さないわけにはいかない。
院長先生は悩んでいたが、今のままだと孤児院は潰れてしまい、全員が路頭に迷う事になるからと、セリナ先生やローラ先生の後押しもあり、最後は首を縦に振ってくれた。
「俺の秘密を教える前に、ちょっと待っててください」
院長先生に待ってもらい、俺はロンダと念話で話をした後、彼のもとにテレポートすると、再びテレポートを使い彼を連れて孤児院に戻ってくる。
「………… 」
「お久しぶりです、ローラン院長先生」
人が突然姿を消したり現れたりしたら、大抵の人は驚き大声になるか、逆に黙り込んでしまうかだが、院長先生は後者だった。
まるで壊れたオモチャのように、ピクリとも動かなかった院長先生だったが、ロンダさんの呼びかけの甲斐もあり徐々に我に戻っていく。
「今のは、いったい何ですか?」
「今のは俺のスキルで『瞬間移動』と言います」
「テレポート…… 」
テレポートの簡単な説明を院長先生にした後、お店の経営に関する話を始めた。
経営に関する話と言っても、俺よりロンダさんの方が詳しいので、俺は全部ロンダさんに丸投げした。
噂の官民工事下請け丸投げみたいだが、ここは適材適所ということで納得してくれ。
一時間程ロンダさんと、院著先生にセリナさんとローラさんが話し合っていたが、時折院長先生の嗚咽混じりの声も聞こえてくる。
たぶん、家族全員が奴隷落ちした時の話をしているのだろう。
ロンダさんは孤児院に多額の寄付をしてたようだから、もしかしたら院長先生は責任を感じていたのかもしれない。
長い話し合いが終わり、四人が俺の前に姿を見せた時は、少しだけ目を赤く染め上げ涙の後が頬に残っていたが、それらを打ち消す程の笑顔の花が咲いていた。
ロンダさんが経営するお店を是非みたいという先生達の願いを聞き入れ、俺はロンダさんのお店にテレポートする。
初めてテレポートを体験した三人は興奮して喋りまくっていたが、すぐに我に返ると真剣な眼差しで、ロンダさんに色々と質問を始める。
最初はシャンプーや化粧品などのコスメ商品に始まり、お酒の種類や量り売りの仕方など、三人の質問は終わらない。
結局三時間以上も三人の質問攻めに合ったロンダさんは、最後のほうはヘロヘロになっていた。
ロンダさんに悪いとは思ったが、経営に一切関わってない俺には何も手伝える事はなかった。
話題がアイテムボックスになると、三人は盛り上がり俺に羨望の眼差しを向けてくるが、俺は『魔〇科高〇の劣〇生』を読み始めていて、敢えて話に加わることはなかった。
話しかけるなバリアは、健在のようだ。
「大翔様、そろそろ孤児院に戻りたいのですが、宜しいですか?」
「ん? もう終わりましたか?」
「えぇ、とても勉強になりました。それと、お店を経営する自信が少しだけつきました」
「良かったぁー。断られたら、どうしようかと思いましたよ」
「断るだなんて、とんでもない。こんな好条件で仕事ができるのですから、是非頑張らせてください」
ロンダさんと話を交わし自信を付けた院長先生は、すっかり前向きに考えるようになっていて、その顔にもやる気が満ち溢れ、若返ったようにさえ見える。
俺は少しだけ院長先生に時間をもらい、ロンダさんと商品の話や売り上げなどの話をしたが、全ての商品が予想以上の売り上げで、オープン前に大量に仕入れた商品が残り少なくなっていた。
今後は異世界でお店を増やしながら、同時に日本でも商品を手に入れる方法や、ダイヤモンド以外でのお金を得る方法を考えないといけない。
まだまだお金には余裕はあるが、俺の夢を叶えるためには少なくとも、数十億、いや場合によっては数百億のお金が必要になるからだ。
「それじゃ、孤児院に帰りましょうか」
「えぇ、お願いします」
俺は孤児院にテレポートすると、院長先生に約束の金貨を手渡し、一ヶ月後に会う約束を交わした後、リリと一緒にマンションにテレポートした。
一ヶ月後には、院長先生達がお店を決めているかもしれないので、かなり楽しみだ。
マンションに戻った俺はPCを開き、ネットのニュースをリリと一緒に見ながら、今後の金儲けに役に立つ情報を探し始める。
日本でお金を稼ごうと思ったら、異世界の商品は品質が悪いので売れないだろう。だからといって、異世界の資源に手を出すのも気が引ける。
ダイヤモンド程度なら良いが、石油とかレアメタルとか、異世界の資源を食い物にする金儲けには、ハッキリ言って抵抗がある。
勿論、俺一人だと無理なことが多いので、この先協力者が必要になると思うが、その場合でも秘密保持契約の魔法陣を使える相手じゃないと、やはり難しいと思う。
「お兄ちゃん、この大きなのも船なの?」
「あぁ、これはタンカーと言って…… 」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「これだ! これなら俺の、運び屋のスキルが活かせる」
リリが見ていたニュース欄では、タンカーが座礁して海洋汚染が懸念されると報じられていた。
どうやら台風で流されてしまった日本のタンカーが、浅瀬に乗り上げたようで、石油が大量に流れている。
映像は一時間前のものなので、現在はもっと酷い状況になっているだろう。
俺は、急いでドン〇ーに行き目出し帽を買うと、トイレに行ってマンションにテレポートで戻る。
「リリ、少し出かけてくるけど、遅かったら先に寝てて良いからな」
「えぇー、また出かけるの?」
「今が俺を売り込むチャンスなんだ、だから悪いけど行ってくる」
「もう、しょうがないから許すけど、ー--罰として、今日は一緒に寝てもらうからね」
「えっ、なんでそうなるの?」
「兎に角、布団敷いて待っているから、早く帰って来てよ」
「あ、あぁ、分かった」
良く分からないが、リリにも淋しい思いをさせるのだから、少しくらい我儘を聞くのも、お兄ちゃんの役目だろう。
さてと、新しい試みだが、俺の考えが正しければ絶対使えるはずだ。
俺は映像を見ながら、テレポートを使った。
俺のテレポートは、一度行った場所と目に見える範囲なら使える。
つまり、この映像も俺の目に見える範囲だ。
予想は見事に的中し、目出し帽を被った俺は、タンカーが座礁している上空にテレポートしていた。
成功だ、次はタンカーの上にテレポートだ。
再びテレポートを使い、タンカーの上に着地した俺は、すぐに原油が漏れ出てる場所を確認すると、テレポートで移動しながら流出した原油をアイテムボックスに収納していく。
運び屋のスキルアイテムボックスは、俺が認識した物だけを収納してくれるので、たとえ原油が海水に混ざったとしても、ピンポイントで原油だけを収納してくれる。
アイテムボックスって、正に神スキル!
更に、今後流出の恐れのあるタンカー内部の原油を、全てアイテムボックスに収納する。
これで、環境汚染の心配はなくなった。
後は座礁したタンカーの持ち主である石油会社の映像をスマホで探し、一度会社の上空にテレポートしてから、ビルの屋上にテレポートする。
ビルの屋上から地上を眺めると、マスコミが押し寄せていたので間違いないようだ。
石油会社の電話番号をスマホで調べ、会社に電話する。
最初は悪戯だと思われたが、海上の原油が全て消えた事を俺が話すと、興味を持ったようで、次に俺が会社の屋上に居ることを伝えると、慌てたように迎えをよこした。
応援のブクマや評価、いいね、本当にありがとうございます。
大変励みになっております。
これからも応援、よろしくお願いします。




