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20、孤児院の事情。

 井戸の修復を終え、院長先生と依頼料の相談をした結果、孤児院で夕食をご馳走してもらう事が依頼料の代わりとなった。


 本当はマンションに戻ってカレーを作る予定だったが、院長先生や子供達の手前断れなく、ありがたく受けることにする。


 リリには悪いが、料理する手間が省けて少しだけ嬉しく思う。


 料理する事に慣れていないせいか、未だに面倒に思えて仕方ない。


 世の中の主婦は、本気で偉大だと思うよ。


 そういえば巨大ミミズが暴れた件だが、どうやって巨大ミミズを倒したのかは、俺がテレポートで連れ去ったあと、リリが上手く誤魔化してくれたようだ。


 事前の打ち合わせ通り、俺のオリジナル魔法とでも言ったのだろう。


 それから幸いな事に、他の住宅から孤児院が離れていることもあって、意外にも目撃者は孤児院の関係者だけだった。


 大騒ぎになり変な噂が立つよりも、目撃者がいない方が俺も孤児院も都合が良いので、敢えて民兵や冒険者ギルドには報告しないつもりだ。


(お兄ちゃん、本当に食べていくの?)

(こんな状況で断れないだろ)

(そうじゃなくて、かえって孤児院の負担になるんじゃないの)

(それは、そうだけど。ーーーだったらリリが、カレーが食べたいから帰るって言えば?)

(そんなの、言えるわけないでしょ)

(だろ! だったら俺に期待しないで、黙って接待受けたら良いんだよ)

(接待って。ーーーでも、ご好意は受けたほうが良いわよね)

(そうだぞ、それが大人の対応というやつだ)


 リリも納得してくれたので、俺達は孤児院の接待を受けることになり、夕食ができるまでの間、暇な時間を持て余すこととなる。


 ポッカリ時間が空いてしまい、何もする事がなくなったので、俺はアイテムボックスから大好きな「私、能◯は◯均値…… 」を取り出し、続きを読み始める。


 最新十八巻も新たな冒険が始まり、マイ◯の活躍ぶりに心踊らせながら楽しく読んでいたら、リリがやってきてニヤニヤしている。


 なんだろうと思っていたら「なに、ニヤニヤしてるの? そんなに面白いの?」と笑いながら聞いてきてきたので、俺は「あっ、まぁな」と、適当に応えた。


 リリは催促した飴玉を手に取ると、再び子供達の所に遊びに行った。


 ラノベを一人で読んでたら、たまにニヤつく自分に気付くことがあるが、誰かに見られたら結構恥ずかしい。


 だからお願いだ。誰かが本を読んでニヤついている時は、優しくそっと見守っていてほしい。


 聞かれた時は、マジで恥ずかしいからな。


 俺の気持ちも知らないリリは、どうやら年下の子供達にお姉さんと呼ばれることが気に入ったようで、甲斐甲斐しく小さい子の面倒を見ている。


 この孤児院には三十人を超える子供達がおり、院長先生の他に二人の女の先生がいて子供達の面倒を見ている。


 二人の先生は元々この孤児院育ちで、普通は大人になったら外に出るところを、孤児院の手伝いとして残ってくれたと、院長先生が話してくれた。


 朝は全員分の朝食を作り、朝食を終えると昼間は外で働き、夕食の少し前に孤児院に帰ってきて夕食を作ってくれる。


 これは俺の想像だが、昼食を作る話が出てこなかったので、昼食はないのかもしれない。


 彼女達の昼間の収入は全て孤児院に入れており、二人がいなければとっくに孤児院は潰れていたと悲しそうに笑う院長先生が印象的だった。


 たぶん子供達も孤児院の事情を薄々知っていて、誰もがどうにかしようと考えているはずだ。


 だからレンみたいな幼い子が、靴磨きでお金を得ようと冒険者ギルドに行ったりする。


「さぁ、みんな。夕食できたたから、手を洗っておいで」

「「「「はーい」」」」


 夕食ができたらしく、子供達が井戸に向かって走り出す。


 俺とリリも、子供達と一緒に井戸に行くと釣瓶で水を汲み上げ、手を洗ってから食堂に向かう。


 異世界もののラノベを読んでいると、たまに主人公が手押しポンプを販売して大儲けをする話があるが、自身が試してみて初めて分かる。


 井戸から水を汲み上げるのは結構な重労働で、やはり手押しポンプの必要性を実感する。


 手を洗うだけなのに逆に手が汚れるし、水を汲み上げて井戸から家まで運ぶと、また手が汚れてしまう。


 ラノベで手押しポンプがバカ売れすることが、良く分かる。俺も、先に販売したほうが良いのかもしれない。


 たぶん、これは人助けになる。



 ★ ★ ★



 食事が終わり、俺とリリは院長先生のご厚意で応接室でお茶をご馳走になっている。


 応接室と言っても粗末なテーブルと、何度も補修した跡が残る椅子が六脚あるだけで、壁や天井は至る所が傷付いていて修理すらしてない。


 控えめに言っても、とてもお客様を招く応接室には見えなかった。


「ごめんなさいね、お出しできるのがお茶しかなくて」

「いえ、とても美味しいです」

「うん、凄く美味しいよ」

「あら、ありがとう」


 お礼を言う院長先生のテーブルに置かれた手が、傷だらけで痛々しく思えた。


「院長先生、こちらのハンドクリームをお使いください。多少は手の痛みが取れると思います」

「あら、恥ずかしいわ。汚いものを見せてしまって、ごめんなさいね。でも、嬉しいわ。ありがとう」


 アイテムボックスからハンドクリームを取り出し、院長先生に差し上げると、恥じらいながらも嬉しそうに笑ってくれた。


 一切化粧などもしていないので、笑うと余計に皺がくっきりと現れ、よりご高齢に見える。とても四十五歳には見えなかった。


「失礼ですが、こちらは領主様が管理している孤児院なのでしょうか?」


 俺は、なるべく失礼のないように孤児院の内情を聞いてみる。


「いえ、こちらは私個人で運営しています」

「個人で運営しているのですか?」

「えぇ、そうです。あっ、勿論街の人達にもお世話になってますが、最近は寄付も少なく御覧の有様です」

「最近はというと、以前は今よりも良かったのですか?」

「えぇ、その通りです。以前は、ドラン商会のロンダさんという方に助けて頂いただけたので、今よりは良かったのですが、そのドラン商会が潰れてしまってからは、本当に大変な状態なのです。だから、井戸だけでも直してくださり、凄く感謝しています」


 ん? ドラン商会のロンダって、ロンダさんの事か?


「お兄ちゃん、これって、ロンダさんの事じゃないの?」

「えっ、もしかしてロンダさんをご存知なのですか?」

「えぇ、実は…… 」


 俺は、ロンダさんとザリューム奴隷商会で出会ってからの事を話した。


 勿論、テレポートやアイテムボックスの事は秘密にしている。


「ロンダさん一家は奴隷にまで落ちたのですか? それはなんとも痛ましい…… 」

「ですが、先程も話した通り、今は俺の店を手伝ってくれてますので、心配いりませんよ」

「それはそうですが、未だに奴隷の身と聞けば、やはり心配です。勿論、大翔様になんとかしてほしいと言っているわけでは御座いません。大翔様にも、大翔様の事情が御座いますので」

「そう言って頂けると、ありがたいです。でも、近い将来、必ず解放すると約束します」


 近い将来必ず俺の夢を叶えてやる。そしたら、俺の秘密を隠す必要はなくなる。


 俺の言葉に、少しだけ院長先生の顔が(ほころ)んだ。


「院長先生。もし良かったら、この孤児院で俺の店を経営してみませんか?」

「えっ、突然なにを仰っているのですか?」

「資金は全て俺が出します。勿論販売する商品も、俺が提供しますので孤児院で販売してくれたら、それで良いです」

「でも、私達にお店の経営ができるなんて、思いません。それこそお店を潰してしまったら、目も当てられません」

「心配しなくていいです。たとえ売れなくても皆さんには迷惑はかけません」


 そう言うと俺は、テーブルの上に金貨が五枚入った袋を置いた。日本円五百万円相当に値する。


「この袋に金貨が5枚入ってます。このお金を信頼の証として、孤児院に寄付しましょう」

「えっ、金貨五枚もですか!」

「更に、金貨十五枚を俺の店の運転資金として預けたいと思う。勿論、お店が潰れてもお金は返してくれなくて結構です」


 俺は、今度は金貨が十五枚入った袋をテーブルの上に置いた。


「この資金で、お店を借りて俺の店として経営してほしい。勿論、皆さんには、きちんとお給金は支払います。更に売上が増えてきて、店が軌道に乗ってきたら売上の一部を孤児院に寄付します」

「そ、それは、凄く良いお話ですが…… どうして、ご自分でしなさらないのですか?」

「俺には秘密があります。勿論、秘密保持契約を結んでくれたら全て話しますが、結んでくれないと残念ながら話すことはできません」

「そうですか…… 」

「商品も俺が提供します。お店を借りる費用も俺が提供します。更にお店が赤字でも、皆さんのお給金は俺が保証します。どうですか、俺のお店を経営してみませんか?」

「お兄ちゃんは、決して裏切らないし約束は必ず守るから、院長先生にもチャンスだと思うよ」


 俺の隣に座っているリリが、院長先生に対して後押しをしてくれる。


「でも、私一人の判断では…… 」

「院長先生、秘密保持契約を結んで話だけでも聞いてみましょう」

「そうです。話だけでも聞くべきです。こんな好条件、他には絶対ないですよ」

「セリナに、ローラまで」


 突然扉が開き、二人の先生が入ってくると、院長先生に対して俺の提案の後押しをしてくれる。


「これって、途中で辞めることはできますか?」

「勿論です、セリナ先生。その場合でも、金貨五枚は返してくれなくても良いです」

「院長先生、今のままじゃ孤児院の運営自体が長く持ちません。この際、大翔様に賭けみましょうよ」

「ローラまで。ー--分かりました。大翔様、話を聞かせてください」

「「やったー!」」


 もしかしたら、二軒目のお店が決まるのかもしれない。


 俺は、笑顔で頷いた。







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