19、孤児院。
騒動を起こした男は、冒険者ギルドが民兵に突き出し、リリは受付のローラさんを救うための行動と認められ、罪に問われることはなかった。
偶然だが、女の子は俺が受けるはずだった依頼先の孤児院の子供で、名をレンと言う。
年を聞くと十歳だと言い、色白で痩せてはいるが健康で活発な女の子だ。
俺とリリは、レンの案内で街外れにある孤児院にやってきた。
孤児院は敷地は広いが建物は古く、今直ぐ壊れるとは思えないが補修工事が必要だとひと目で分かる。
「大翔兄ちゃん、院長先生呼んでくるから、ちょっと待ってて」
「あぁ、分かった」
レンが院長先生を呼びに行っている間、孤児院に誰かが訪ねて来るのは珍しいのか、俺とリリを子供達が遠くから見ている。
孤児達のボロボロの服や建物を見れば、孤児院の経済状況を想像できるが、ハッキリ言って、最悪な状況だと思う。
依頼料は相談だったが、これは期待できそうもない。
まっ、たまには赤字でも人助けなら、ラノベの主人公みたいで楽しいし、リリに良いところも見せられるから悪いことばかりでもない。
俺はリリに、コンビニで買った飴玉を渡し、目で合図すると、彼女は一目散に子供達の所に行って飴玉を配り、そのまま子供達と一緒に遊びだした。
普段は俺に合わせて大人ぶってるけど、こうしてみるとリリも年相応の女の子に見えるから不思議だ。
もしかして俺の前では、結構無理しているのかもしれない。
そう思ったら、少しだけ淋しくもあり嬉しくもあった。
「冒険者の方ですか?」
「あっ、はい。そうです」
四十代前後の少し白髪混じりの女性が、声を掛けてくる。たぶん、この人がレンの話してた院長先生なのだろう。
「良かった! あまりお金が出せないから誰も来ないかと思っていました。これで少しは楽になります。本当にありがとうございます」
行き成り最初からお金が無いと釘を刺され、どんな顔をすれば良いのかと考えていたが、たぶん俺は相当苦笑いしているのだろう。
こんな時は、嫌でも笑うのが一番だ。
悪気はなくても、なんとなくモヤモヤする。
俺は、意外と心が狭い人間なのかもしれない……
「いえいえ、それより早速ですが井戸のある場所を教えてください。一度確認してから準備しますので」
「勿論です。どうぞこちらに」
気を取り直し院長先生の案内で、潰れた井戸の場所に向かって歩いていると、いつの間にかリリが俺の隣を歩いている。
「皆と遊ばないのか?」
「だってリリ、副社長だから、きちんと仕事をしないとね」
「そっか」
「うん」
得意げに胸を叩き笑顔を見せるリリに、なんだか笑いが込み上げてきて先程のモヤモヤが綺麗に上書きされた気がする。
あまり笑うことがなかった俺だが、最近は良く笑うようになったと思う。
異世界に来たのもあるが、リリと一緒に暮らすようになったことが一番の要因だと思う。
リリには、感謝しないとな。
「こちらになりますが、どうでしょう、直りますか?」
「これは酷い。ーーー本当に地震が原因なのでしょうか?」
「それが、分からないのです。夜中に地震がありましたが、建物が壊れた所は一つもないのに、井戸だけが潰れていたのです」
確かに不思議な話だ。本来の井戸は地震に強い作りをしていて、滅多に潰れることはない。
井戸は穴を掘っただけではなく、穴の周りを石垣でしっかり固めた作りになっていて、想像以上に頑丈な作りになっている。
もし潰れるのなら、かなり巨大な地震が起こった場合だが、孤児院のボロボロな建物が壊れてない事を考えると、本当に地震なのか怪しい限りだ。
「原因を調べるためにも、井戸の周囲全て瓦礫を取り除きますので、院長先生には少し離れてもらえますか?」
「えっ? 今から、一人でやるのですか?」
「えぇ、今から作業しますので、少し離れていてください。あと、危険ですので、子供達を絶対に近づけないでください」
「はぁ、分かりました…… 」
井戸の改修工事を一人でするのは本来は有り得ないが、俺の場合アイテムボックスを使うので一人でも関係ない。
だが、そんな事を知らない院長先生の目には、俺が怪しい人物に見えたのだろう。
今更だが、幼いリリを連れて回る俺は誤解されやすい。
しかも、ここは孤児院で、子供だけは沢山いるから余計に警戒される。
もしかしたら俺は、ロリコンで危険な人物だと思われたかもしれない。
考えすぎなら良いが、さっさと依頼を終わらせたほうが良さそうだ。
院長先生は俺の指示通り子供達に声をかけ、遠くに離れてくれたが、なぜか木刀を片手に俺を見ていて、監視しているようにも見える。
「リリ、今から穴を開けるから、院長先生や子供達の傍に行って、何かあったら念話で伝えてくれ」
「分かった」
リリが院長先生の側に走っていくのを確認してから、潰れた井戸の周囲を大きめにアイテムボックスに収納する。
普通なら地面に穴が空いて終わりだが、今回はいつもと違い穴の空いた地面が崩れ始める。
ちょっとした地震のように、穴の空いた場所だけが揺れている感じだ。
(リリ、地面に何かいるみたいだ)
(えっ? お兄ちゃん、大丈夫なの?)
(魔物なら、アイテムボックスに核を収納すれば良いが、兎に角誰も近づけないでくれ)
(それは良いけど、無理はしないでね)
(あぁ、分かった)
リリとの念話が終わると同時に、地面が勢い良く動き出し、穴の中心から巨大なミミズみたいな魔物が飛び出してきた。
「デカっ!」
思わず声に出てしまうほど巨大なミミズで、いや、牙があるからミミズじゃないのは分かる。
ラノベ的に言えば、巨大なサンドワームだ。
俺は巨大ミミズに近づき核を収納しようとするが、巨大すぎて核の位置がアイテムボックスの範囲外らしく、魔物の核が収納できない。
何度も近づく俺を敵だと認識したミミズは、体をウネウネ動かしながら襲ってくる。
ハッキリ言って、かなり気持ち悪い。
ミミズの攻撃は、噛み付きと酸の唾液を飛ばすことだが、テレポートが使える俺に当たることはない。
(お兄ちゃん、大丈夫?)
(あぁ、動きが鈍いから簡単に避けられるけど、巨大すぎて魔物の核が収納できない)
(それって、魔物を倒せないってこと?)
(いや、他にも方法はあるから試してみるよ)
(気をつけてね)
(あぁ、任せておけ)
巨大ミミズが俺に狙いを定め、噛み付いてきたタイミングでミミズの懐にテレポートすると、そのままミミズを連れていつもの丘の遙か上空にテレポートする。
上空に移動したこどでミミズ全体が確認できたが、その姿は100mを超える超大物だ。
体の殆どが地中に隠れて見えなかったが、この大きさなら核が収納できないのも納得できる。
俺はミミズの姿を確認してから、丘から少し離れた地面にテレポートする。
後はミミズが地面に落ちてくるのを待つだけだ。
暫く待つと、上空からウネウネと気持ち悪い動きをしながらミミズが落ちてきて、轟音と土煙を巻き上げながら地面に衝突した。
土煙が収まるのを待ってミミズに近づくと、まったく動く気配はないが、アイテムボックスに収納しようとしても収納できない。
まだ、生きているのだ。
かなり上空から落下したのに生きているとは、魔物の生命力は想像以上に凄い。
普段は簡単に、アイテムボックスに核を収納して魔物を倒していたが、もしアイテムボックスが使えなかったら俺は、魔物狩りをしていなかったと思う。
魔物の買取値段の高さと、冒険者が魔物狩りの依頼を避ける気持ちが分かったような気がした。
俺は注意深く観察しながらテレポートを使い、ミミズの核がある場所を探して出して収納する。
(リリ、今からそっちにテレポートするから、誰も近づけないでくれ)
(うん、分かった)
俺はミミズを収納してから、孤児院の井戸が合った穴の中にテレポートする。
あれだけ大きなミミズがいたので、地面が陥没してもおかしくない状況だと思い、穴の中を確認すると、縦穴が深いのと水が湧き出してきて横穴は確認できなかった。
あのミミズはかなりの深い所を移動していたらしく、地盤沈下の心配は無さそうに思えた。
まっ、素人判断だから確実じゃないけど、いままで地盤沈下しなかったのだから大丈夫だと思う。それに穴の中を全て埋めるのは、ハッキリ言って無理だ。
俺は縦穴をある程度埋めてから、アイテムボックスから潰れた井戸の瓦礫と石垣の石と土を別々にアイテムボックスに収納する。
後はアイテムボックスを使い、円形の石垣を作ると同時に石垣の外側に土を入れ押し固める。
押し固めるのは簡単で、重い岩を何度もアイテムボックスから取り出したり、収納したりと繰り返すだけだ。
地面が固まったら井戸の完成だ。
巨大なミミズと戦い井戸の修復を終えると、院長先生と子供達が恐る恐る井戸に近寄ってくる。
直ったばかりの井戸から水を汲み上げる子供達に笑顔が溢れ、院長先生がくしゃくしゃの顔で俺の右手に両手を添えると、何度も頭を下げた。
どうやら、俺のロリコン疑惑は解けたようだった。




