1、異世界は最高だった。
世の中のラノベで異世界転生が流行っていたのはしっていたが、まさか、この俺が異世界に転生するとは思ってもいなかった。
俺の場合、勇者召喚の儀式と言うやつだ。
召喚されたのは五人で、四人のスキルは勇者、剣聖、聖女、賢者でラノベでも人気のポジションだが、俺のスキルは運び屋だった。
税金をどれだけ突っ込んだら、こんな豪華な謁見の間が出来るのかと考えたくなるくらいの、広くて高くて豪華絢爛の部屋に、俺たちは招待されたが、ーーー実際は俺だけがハブられた。
運び屋なんて、ヤバそうな名前のうえに、最大成長がLv10という底辺のおまけ付きなので、ハブられても仕方ないか。
勇者召喚が成功したことをアピールしたい国王が、四人を大々的に紹介するなか、俺だけは部屋の隅で待機を余儀なくされていた。
最後に国王が四人の召喚者に魔王討伐を約束させたが、金ピカ塗れでぶくぶく太った国王の話など、俺にはとても信用できない。
内心紹介されなくて良かったと、心の底から思っている。
あんな王様に関わったら、二度と抜け出せない麻薬と一緒だ。
ラノベだと、この後の行き先は牢屋だろうなと考えていたら、本当に牢屋に案内しやがった。
「お前には悪いと思うが、失敗例を世に放つことはできない。お前の処分が決まるまでは、ここで我慢してくれ」
そう言って、俺を牢屋に連れてきた甲冑姿の男は、牢屋から去っていった。
取り残された俺は、逃げられないかと牢屋の隅々まで探したが、やはり逃げられそうにない。
世の中、そんなに甘くはないよな。
逃げることを諦めた俺は、退屈しのぎに先程覚えたステータスボードを開いてみる。
Name 大翔
年齢 26歳
Lv10 最大成長 Lv10
HP 112
MP 8?
etc …………
スキル 運び屋(個人経営)
気になったのはMPの8?だけだが、それ以外は一般男性と同じだと言われたので、召喚された四人と比べたら最悪だが、別に凹む必要はないかもしれない。
それに、運び屋のスキルだって、使ってみたら割と良いかもしれない。
(個人経営)は意味不明だけど、取り敢えず使ってみようか?
使ってみようかと考えた瞬間、面白いことが起こる。頭の中に二つの文字が浮かんだのだ。
『瞬間移動』と『アイテムボックス』
これって、チートやん。
思わず笑ってしまうぐらいの、最高のスキルだった。
でも、どうやって使うのだろう? と考えたら、使い方が自然と浮かんでくる。
異世界、便利だ。
なになに、テレポートは行った場所か見えてる場所にしか行けず、アイテムボックスは好きなものを出し入れできる。ただし、両方とも魔力に左右される。
なるほど…… 魔力次第か、って! 俺、魔力8?だよ。使えるのかよ。
最高のスキルでも、魔力不足で使えなかったら意味ないし、一気にチート感が無くなってしまった。
まぁ、使ってみようか。
俺は、一度行った場所を思い出しながら『瞬間移動』を、使ってみた。
結果は、無事使えた。
カップ麺が片付けられてないワンルームマンションに、俺は移動していた。
つまり、日本にある俺の家だ。
なんだ、普通に使えるよ、これ。
くっ、アハハハハ。思わず笑いが込み上げてくる。
召喚されたときはショックだったが、単純に神様からのプレゼントみたいなものだった。
こうなると、もっとテレポートを試してみたくなってくる。
俺は、もう一度あの世界に行ってみることにするが、牢屋はちょっと嫌なので、牢屋に連れて行かれる途中の廊下に移動する。
『瞬間移動』
一瞬で目の前の景色が変わり、俺は異世界のお城の廊下に立っていた。
このまま見つかったら、また牢屋に入れられるので、俺は急いで建物の外に出るために、窓かベランダみたいなものを探す。
幸い、すぐに窓が見つかったので、窓の外を眺めながらテレポートを使う。
城下町にある、大きな塔みたいな建物の上に移動した俺は、その建物から地上を眺め、人気のない場所を探して再び移動する。
異世界の街を勇気を出して歩いてみるが、着てる服が珍しいらしく、皆にジロジロ見られて居心地が悪い。
お金があれば服でも買えるが、無一文の俺には何も買えない。
暫く街の中を歩いていたが、やはり人の目が気になり、人気のない路地裏で休むことにした。
そう言えば、アイテムボックスってどれくらい入るのだろう?
運び屋のもう一つのスキル、アイテムボックス。
調べるなら早い方が良いと考え、先程の高い塔の上にテレポートする。
塔の上から目につく、一番遠い所にある丘の上を目標にテレポートを使い、無事丘の上に着地。
これって、魔力関係ないんじゃない?
さっきから、何度もテレポートを使っているが、魔力が減っている感じがしない。それどころか、魔力そのものが分からない。
魔力自体分からなければ、使えるか使えないか確かめるだけだ。
結論、その辺の物でアイテムボックスを試してみれば良い。
アイテムボックスの使い方は簡単で、収納したい物を考えるだけで良いし、取り出したい物は考えれば出てくる。
ちなみに何が入っているのかは、自然と頭に浮かぶ。
最初は小石に始まり、木の枝、人の大きさぐらいの岩、巨大な岩と試したが、問題なく収納することができた。
やっぱり魔力は関係ない気がする。だって、魔力を使っている気がしないから。
いろいろ試してみて、面白い使い方ができる事も分かった。
地面を見ながらアイテムボックスを使うと、地面そのものを収納できる。
つまり、地面にイメージした分だけの体積を、収納できるわけだ。
試しに巨大な穴をイメージしたら、イメージ通りの穴が開いて、開いた穴の元の土砂は、アイテムボックスに収納されていた。
大きさも自由自在で、好きなだけ穴を開けられる。勿論、収納した土砂を元に戻すことも可能で楽しい。
今回の実験で、スキル運び屋には魔力が必要ないと、俺は結論づけた。
一通り実験して、使い方も分かり帰ろうかと思ったら、誰かの悲鳴が聞こえてきた。
すぐに周囲を確認するが、目につく範囲には誰も居ない。
勇気を出して声のする方に駆け寄ってみると、見つけた。
珍しい形の馬車が横転していて、馬車の中には女の子が一人いた。
珍しいと思ったのは、馬車の形が牢屋そのものだったからだ。
馬車の周りには、三人の死体と角の生えた魔物がいて、女の子を襲おうとしているが、檻が邪魔して思うようにいかないようだ。
今は良いけど、檻だっていつまでも保たないし、檻が壊れたらあの子は魔物に襲われてしまう。
早く、助けなければ。
ん? テレポートで近づいて、アイテムボックスを使えば……
俺は、テレポートで魔物の近づくと、アイテムボックスに魔物を収納しようとしたが、収納できなかった。
そして、収納できない理由が、メッセージとして頭に浮かぶ。
生き物は収納できません。核だけでも収納しますか?
そうだった! ラノベでもアイテムボックスは生き物を収納できなかった。
異世界物の常識だったのに…… ん? 核だけでも収納しますか? 収納して!
かなり焦ったが、核だけでも収納しますかの言葉に、俺は急いで収納すると応える。
魔物の核が収納されましたの文字が頭に浮かび、同時に魔物が倒れて動かなくなった。
えっ! もしかして、倒した?
恐る恐る確かめたが、やはり魔物は死んでいる。
ホッとした俺は、再びアイテムボックスを使うと、今度は魔物を収納することができた。
もしかして、アイテムボックスって最強かも。
ラノベの世界に飛び込んだような気持ちになった俺は、いつの間にかスキップを踏んでいた。