18、ドライブ。
流通網の足掛かりとする店も立ち上げたので、これ以上王都だけで荒稼ぎするのは危険だと判断した俺とリリは、現在王都から一番近い街であるゴーテリアに向かって移動中だ。
ゴーテリアを選んだのは王都から一番近いこともあるが、ゴーテリアの先にはドリッシュ帝国がある。
酒場で聞いた話によると、ドリッシュ帝国は現在好景気らしく、一度行こうかと考えていたので丁度良かった。
景気が良ければ、俺が欲しいものも沢山あるだろうからな。
「お兄ちゃん、風が気持良いね」
「だろ、スズ◯のジム◯、買って良かったよ」
俺達は今、ゴーテリアまで続く街道を、ジム◯で快適に走っている。
青空はどこまでも高く、気温も丁度良くて、ドライブを楽しむには最高の日が続いていた。
冷房が苦手なリリは、窓を開けて風を楽しむように髪の毛を靡かせていて、気持ち良さそうだ。
街道と言っても日本のように整備された道路ではなく、轍などが普通に続く言わば馬車道だ。
ただ、馬車道と言っても道幅は結構広く、馬車同士が擦れ違うくらいの広さはある。
軽自動車の車幅は馬車程もないので、ジム◯で走れば車高も高く快適なドライブが楽しめる。
「リリ、悪いが、ミネラルウォーターのキャップを外してくれ」
「うん。分かった」
コンビニで買ったミネラルウォーターを、俺はアイテムボックスから取り出しリリに渡す。
異世界でドライブしながらでも、冷たいミネラルウォーターが飲めるとはアイテムボックス様さまだ。
「リリも何か飲む?」
「んー、コーラ貰おうかな」
「分かった」
「うん」
俺はアイテムボックスからコーラを取り出し、リリの両手の上に乗せる。
最初の頃、コーラを飲む俺を変な目で見ていたが、最近ではお気に入りになったようで、リリはコーラを結構飲むようになった。
黒い飲み物は不気味に見えるかもしれないが、あの甘さと炭酸のシュワシュワを味わえば、殆どの人が虜になるだろう。
まっ、太る原因でもあるから、リリには制限を設けてるがね。
途中で魔物を見つけては狩りを行い、リリがトイレに行きたいと言えばマンションにテレポートする。
腹が減れば車の中でコンビニ弁当か、マンションにテレポートして自炊するをする。
景色の良さそうな場所を見つけてはスマホで動画を撮り、眠くなればマンションに帰って寝る。
正しいテレポートの使い方を実践しながら、俺とリリはのんびりドライブを楽しむ。
勿論、テレポートを駆使すれば車で行くよりも早く到着すると思うが、人生には無駄な時間も必要で、意外と後から思い出すのはそんな無駄な時間だったりする。
馬車で五日の旅だと聞いていたので、車だと一日も掛からないと思ったが、俺達はのんびり三日かけてゴーテリアの街に到着した。
当然だが車で到着したら怪しまれるので、途中で車を降りてアイテムボックスに車を収納した後、ゆっくり街まで歩いた。
ゴーテリアの街は王都ほど栄えてはいないが、それなりに大きな街で、街道は大勢の人で賑わっている。
沢山の馬車が行き来してる状況に、俺は満足していた。
これなら日本の商品を商業ギルドで販売することも可能だし、魔物だって冒険者ギルドで買い取ってもらえると思えたからだ。
「なぁ、リリ」
「なに?」
「ギルドに行くのは明日にして、今日はゴーテリアの街を楽しまないか?」
「うん! リリも、そう思ってた」
返事と同時に笑顔を見せるリリに、ほっこりしながら俺はリリの左手を握る。
リリが恥ずかしそうに顔を赤く染めるが、娘が父親と手を繋ぐことを恥ずかしいと思う、思春期特有の心境なのだろうか?
だが、新しい街でお互い離れ離れになったら困るから、どんなに恥ずかしがっても俺はリリの左手を離さない。
二人でぶらぶら街を彷徨い、屋台を見つけては買い食いを繰り返す。
カロリー過多で太りそうだが、せっかく新しい街なのに遠慮してたら面白くない。
ダイエットは明日からにしようと思う。
街の中心部に行くと、服屋さんがあったので俺とリリは服を選び、旅の思い出に服を買った。
知り合った当初は新しい服を買うのに抵抗があったリリも、今では俺の相棒として恥ずかしくない格好をしなければと、真剣に服を選んでいる。
俺とリリは、ゴーテリアの街を一通り楽しんだ後、マンションにテレポートする。
夕食を済ませ、旅の思い出の動画をパソコンで見ながら、楽しい会話に花を咲かせた後、リリが今日は一緒に寝たいと駄々を捏ねるので、仕方なく今日も一緒に寝ることにした。
冷房が苦手なリリと一緒に寝たら、ハッキリ言って暑いんだよな……
★ ★ ★
次の日、俺とリリは朝から冒険者ギルドに来ていた。
街の情報を得るには冒険者ギルドの掲示板が手っ取り早く、朝が最も掲示板への張り出しが多いからだ。
掲示板には仕事の情報が溢れていて、町が何を求めているかが良く分かる。
コーデリアの冒険者ギルドでも、魔物狩りが高収入を得るためには一番の近道のようだ。
魔物が高値で売れるのは、やはりここでも魔物狩りを行う冒険者が少ないからだろう。
勿論、荒稼ぎができるので魔物狩りには行くが、その前に面白い依頼でもあれば、そっちを受けてみようかと思い探していたら、見つかった。
潰れた井戸を元に戻す依頼だ。
依頼書によれば、地震で井戸が潰れてしまい、水汲みができない状態らしく、潰れた井戸を元に戻して欲しいと書いてある。
場所が孤児院となっており、依頼料は応相談になっているので、受ける人は居ないのかもしれない。
依頼書は結構ボロボロになっていて、だいぶ前から貼られていたことが、ひと目で分かったからだ。
依頼料の応相談は怪しすぎるが、場所が孤児院ということが気になり、思わず掲示板から依頼書を剥がしてしまった。
「リリ、孤児院の依頼なんだけど、行ってみるか?」
「うん! やっぱりお兄ちゃんは、優しい人だね」
「そんなことないよ」
「ううん、私も助けてくれたし、今度は孤児院の人も助けようとしてるんだもん」
「違う違う、金儲けだって」
「はいはい、そういう事にしときます」
別に深い意味は何だけど、望ま◯不死◯冒◯者の一幕に、銅貨一枚の依頼という心が和む話があって、孤児院が関わるところが似ていたから、思わず依頼書を剥がしてしまったとは、今更言えないよな。
俺とリリが一緒に受付に行くと、受付でリリと同じぐらいの女の子と、成人男性が揉めていた。
「早く帰れよ、ここは仕事を受ける所で、物乞いするところじゃないぞ」
「物乞いじゃない、靴磨きの商売をしているだけです」
「なにが靴磨きだ。ろくな道具もないから、ボロ切れで磨くだけじゃないか。そんなんで磨かれたら、却って靴が汚れてしまうわ。とっとと帰れ」
「そ、それは…… 」
「まぁまぁドーランさん。相手は子供なんだから、穏便にお願いします」
「そうやってギルドが甘やかすから、こんな乞食みたいなガキが集まってくるんだよ。だいたいギルドがこんなんだと、俺達冒険者が迷惑するんだ」
威圧感丸出しの男の態度に、女の子はすっかり意気消沈してしまい、今にも泣き出しそうだ。
ボロボロの服を着て靴磨きなんて、なにか理由があるのかもしれないが、立ち入って良いのか俺は躊躇してしまう。
「いい加減にしてくださいドーランさん。別にこの子が、貴方に迷惑掛けたわけじゃないでしょ。それよりも、貴方の大声のほうが迷惑です」
「なんだと! このアマー、ーーーこれでも喰らいやがれ」
男が受付の椅子を持ち上げると、カウンター越しの受付の女性に向かって放り投げようと振り被った瞬間、リリがするすると歩いていって男の背中に触った。
一瞬だけバリッと音がしたと思ったら、男はピクピク痙攣して動かなくなった。
「お兄ちゃん、これ凄いね!」
「あぁ、やっちゃった」
リリは得意げに、護身用のスタンガンを俺に見せて笑っていた。




