17、店舗経営。
次の日、俺とリリは身支度を済ませ、一度王都にテレポートしてから、ロンダとの約束の時間に店に顔を出す。
ロンダと、彼の家族は既に店に来ており、俺が店に入ると頭を下げて迎えてくれた。
躾の良い子供達で、俺の存在も理解していて頭を下げてくる。
ロンダ一家は奴隷で、俺とは主人と奴隷の関係で対等ではない。
考え過ぎだと思うが、対等ではないと理解している子供達に頭を下げられるのは、正直好きになれない。
俺が小心者だからだろうか、それとも日本人だからだろうか、なんとなく胸がチクチクする。
できるだけ早く力を付けて、この家族を開放してあげたいと心底思う。
「立派な店じゃないか、ロンダ、ありがとう」
「いえ、とんでもないです。ーーー御主人様が気に入ってくださり、嬉しい限りです」
店の中をロンダに案内してもらったが、一階の店舗部分は結構広く、カウンターや商品棚なども設置されていて、商品を並べたら直ぐにでも店がオープンできそうな感じだ。
店舗部分以外はキッチンや風呂場、トイレなども備えられているので、彼ら家族が暮らしていくには申し分ないと思う。
更に地下室もあって、商品を管理する場所にも使えそうだ。
二階部分は部屋が六室在り、一室は俺のテレポート専用の部屋となる。
ロンダがしつこく一番広い部屋を勧めたが、テレポートするだけの部屋なので、俺は一番狭い部屋を選んだ。
他の五部屋は、ロンダ達に好きなように使ってほしい、彼らの家だからだ。
「御主人様、ーーー実は、看板が出来上がって参りましたので、取り付けの確認のため暫く離れることをお許しください」
「勿論だ、俺はこの部屋でリリと待っているよ」
「畏まりました。では、失礼致します」
そう言うとロンダは、静かに扉を開けると部屋を出ていった。
表ほうから業者の方だろうか、なんだか賑やかな声が聞こえてくる。
ロンダが話していた看板を取り付けているのだろう。
店の名前をロンダに聞かれた時、おれは好きなラノベを参考に決めた。その名も、異世◯◯局ならぬ異世界雑貨店だ。
安直な名前だと思ったが、ラノベを読んでいる時、俺のワクワクは止まらず、気に入ったシーンは何度も読み返したものだ。
異世界雑貨店が、この異世界で俺をワクワクさせてくれると願って付けた名で、俺的には気に入っている。
そんな事を考えていたら、突然頭の中にタタタターラーラータッタラーと、どこかで聞いたファンファーレが流れ、「運び屋(個人経営)」がレベルアップしましたと聞こえてきた。
なんだ? 慌ててステータスボードを確認する。
Name 大翔
年齢 26歳
Lv10 最大成長 Lv10
HP 124
MP 8?
etc …………
スキル 運び屋(店舗経営)
店舗名 異世界雑貨店
社長 大翔
副社長 リリ
従業員 ロンダ、シャロン、リンダ、ランダ、レンダ
おぉ!『運び屋(個人経営)』が『運び屋(店舗経営)』に変わっている。
しかも、リリが正式に副社長として認められていて、従業員にロンダさん達家族の名前が表示されている。
良く分からないが、『運び屋(店舗経営)』を調べてみるか。
運び屋(店舗経営)
運び屋(個人経営)のスキルを引き継ぐ。
店舗経営によるボーナススキル
設置型アイテムボックス
1.社長である大翔が認めた店舗に、設置できるアイテムボックス。
2.社長である大翔のアイテムボックスと繋がっており、社長の任意でアイテムの相互移動が可能である。
3.社長である大翔は、多数の設置型アイテムボックス同士の相互移動が可能である。
4.社長である大翔が認めた従業員だけが、使用する事ができる。
5.社長である大翔のアイテムボックスと、同等の効果がある。
念話
1.社長である大翔と、従業員が念じるだけで会話が可能になる。
2.社長である大翔を通さない従業員同士の念話は、社長である大翔が認めた時だけ可能である。
3.社長である大翔と、従業員多数との同時念話は可能である
4.社長である大翔や従業員同士の念話に、距離は関係ない。
俺はレベルアップしていないのに、なぜスキルだけ追加されるんだ?
だが、このスキルは使える。最高に便利なスキルだ。
ロンダが戻って来たら、固定式アイテムボックスを設置する場所を相談するか、ここはロンダが経営する店だから、彼に全て任せよう。
「御主人様、これは凄いですね。こんな便利なものがあるなんて、信じられないです。これは革命的です。これがあれば、在庫商品に気兼ねなく商品を仕入れることができます。だって、商品が腐ることも劣化することもないのですから。更に、念話という摩訶不思議な魔法で離れていても会話ができるなんて、御主人様は凄すぎます。あぁ、私は御主人様の奴隷になれて、最高に幸せです。家族全員買ってくれただけでなく、お金も、住む家も、お店まで任せてもらえて、このロンダ、一生御主人様に付いていくと誓います」
ロンダにアイテムボックスの使い方を教え、一度念話を試した後、彼が珍しく熱く語り、かなり面倒臭い。
驚くのも分かるし、喜んでくれてるのに水を差すつもりはないが、本当に暑苦しい。
「と、兎に角、これで商品の補充には困らないし、何かあったら念話で俺に連絡してくれ」
「畏まりました。御主人様のために、誠心誠意務めさせて頂きます」
瞳をキラキラと輝かせる三十代の男の顔に、圧倒されても可愛いとは思わないので、少し離れてほしい。
ロンダの顔が俺の顔に近づきすぎて、今にもキスされるかと思ったほどだ。
頼むから、俺にその気はないから、そっちの路線に引っ張らないでほしい……
後、顔が唾で汚れたから洗わせてくれ。
「ありがとう」
「いえいえ、とんでもないです」
「それでは、商品の説明と販売の仕方を教える。勿論、ロンダの考えがあるなら伝えてほしい。そっちが良いなら、採用したいと思うからな」
「畏まりました」
多少落ち着いてきたのか、ロンダがいつものクール顔に戻ったので商品の説明を始めた。
商品に関しては、シャンプーやコンディショナー、トリートメントなど洗髪関係と、ファンデーションや乳液、口紅などの化粧品関係のコスメ商品を販売する。
他にも、お酒や、焼酎、ウイスキー、等のアルコール関係も販売する。
平民向けの安い商品と、貴族向けの高い商品を何種類か準備して格差を図り、お互いの満足度を高める工夫をする。
シャンプーや焼酎などの液体は小瓶での販売もするが、入れ物を持ってきたら量り売りなどをすることで安く提供することにした。
他にも食材を多く置くつもりだが、それは今後の展開次第と言えよう。
「こんな感じのお店にしようと思うが、ロンダの意見があれば聞きたい」
「それでは、固定式のアイテムボックスが設置されましてので、地下室を在庫置き場から、御主人様の商品の詰め替え所に変更しても宜しいのでしょうか」
「勿論だ、好きなように使ってくれて構わない」
「畏まりました」
「だいたい、こんな感じかな。後は任せても良いかな?」
「勿論で御座います。開店は明後日の朝となってますが、宜しかったでしょうか?」
「あぁ、それで良い。大変だと思うが、頑張ってくれ」
「畏まりました」
「それと、必ず週一で休むんだぞ」
「か、畏まりました」
ロンダのことだから、休みを取らない気がする…… そうだ。
「ロンダ、週の初めの日は、定休日で決定な」
「えっ、定休日を作るのですか? 反対です。休みなら…… 」
「もう決まったことだ。これに関しては反論は許さない」
やはり、休むつもりなんてなかったんだな。
気づいて良かったー、これでファ◯マ君に一歩近付くことができた。
俺は、心のなかでガッツポーズを決めていた。
「それと、これから一番大事な事を話します」
「はい、なんでしょうか?」
「もし、火事とか地震、台風や強盗、汎ゆる災難に遭遇したら、迷わず自分の命、家族の命を最優先にして逃げてくれ。絶対死ぬことを俺は許さん」
「か、畏まりました」
「逃げた先で念話してくれたら、俺が助けに行くから待っていてくれ」
「ありがとうございます」
ロンダが深く頭を下げ、俺は彼の肩を軽く叩き「それじゃ、頼んだ」と笑顔で伝えた後、リリと一緒にマンションにテレポートした。
明日からは、リリと二人で別の街に行く予定なので、ワクワクが止まらなかった。




