16、ゆっくり始動。
本来ならこの国から出て、別の国で商売すれば良いと思う。
実際、俺が読んだラノベの主人公達も、似たような状況なら最初から国を出る人が多かった。
だが、それはあまり意味がない。
俺が別の国に行っても、アイテムボックスとテレポートで金儲けをしている限り、その国の権力者に目をつけられるだろう。
勿論、スキルを隠してセコセコ金を稼げばトラブルは避けられるかもしれなが、それは俺の性に合わない。
街が変わろうが国が変わろうが、俺が荒稼ぎすれば必ず土地の権力者に目をつけられ、利用しようとするだろう。
それは、ゴメンだ。
俺には、運び屋のスキルがある。今のままでも逃げようと思えば、全てをアイテムボックスに収納して、テレポートを使えばどこにだって逃げられる。
だから、焦る必要なない。この国を出る時は、自分の店を持ち、流通経路の足掛かりを作ってからだ。
「話は、分かりましたか?」
「えぇ、理解しました。兎に角、私達は御主人様と全然関係ない存在として、動けば良いのですね」
「そうです。そして俺が選んだ商品を、優先的に販売してください。勿論、ロンドさんが取引したい商品や、販売したい商品などがあれば、その都度相談して決めましょう」
「奴隷の私が、新しく立ち上げる御主人様のお店に、口を挟んでも宜しいのですか?」
「勿論です。ロンダさん自身のお店だと思って頂いて結構です。俺は店の経営と、秘密さえ守ってくれたら問題ありません。後は、家族で仲良く暮らしてください」
「過分な配慮、痛み入ります」
「それから、これは当分の資金です」
俺は金貨十五枚、日本円で一千五百万円相当の現金をロンダに渡す。
驚いたロンダが多すぎると言って金貨十枚を返してきたが、店の立ち上げ全てを任せるのだから、せめてお金の心配だけはさせたくないと、ロンダを説得した。
その後は店の規模や賃貸料など、店舗に必要な事などを話し合った。
ロンダは理解が早く、話はスムーズに進み全てが上手くいきかけたが、彼が納得できないことが一つだけあった。
「これだけは、絶対譲りません! 賃金は日給制じゃなく、月給制にします」
「ですが、ご主人様。それでは私達が、甘えてしまいます」
「休息は絶対に必要なことで、それを甘えと言ってはいけません」
「それならば、三ヶ月は休みなしで働いて、その後に週に一度休むように致します」
「ダメです。最初は週一で、三ヶ月後従業員が雇えたら週に二日、週二で休んでください。これは命令です」
「………… 」
最後は、命令して無理やり言うことを聞かせてしまった。
ロンダの話を聞く限り、異世界では数あるラノベと同じで、店自体は殆休むことがなく、従業員が休みを取ることなんて有り得ない事だという。
ブラック企業代表みたいな考え方だが、これは異世界の常識で、俺の考え方の方が常識外だと言われた。
理由の一つに賃金の安さにある。この世界の労働者は、奴隷が存在するため全体的に賃金が安くなってしまう。
労働者に高い賃金を払うくらいなら、奴隷を使う。奴隷を使えば最初は高くても後々安く済むからだ。
それ故、安い賃金で働く労働者は休むことを嫌がる。休むことで、賃金が減ることを懸念するからだ。
だが、例えこの世界の常識だとしても、俺は絶対に認めない!
お店の心配をしてくれるロンダの気持ちはありがたいが、こればかりは絶対に譲らない!
一つは、従業員の健康を考えるのは一番大事なことで、それは社長である俺の仕事でもあるからだ。
二つ目は、いや、これが全てと言っても良い!
異世界においての週休二日制は、ラノベや小説◯になろうでも良く出てくる話で、かの有名な『異世界◯局』の話にも出てくる。
あの話の中で、主人公のファ◯マ君は福利厚生まで考え、産休や育休なども実現していた。
更に『神◯に拾◯れた男』の主人公であるリョウ◯さんも、同じよう福利厚生に力を入れていた。
恐れ多くてライバル視などでできないが、最低でも週に一日は休んでほしいと切に願ってしまう。
俺には俺の、理想の異世界があるからだ。
「命令ならば仕方ないですが、私も店を預かる身として覚悟はあります。その辺を御主人様に知って頂けたらと存じます」
「ロンダの気持ちは嬉しく思う。これは本当だ。ただ、俺の考えも知っててほしい」
「左様ですね。ーーー畏まりました」
少し考えた後、笑顔を見せたロンダが頭を下げた。
ロンダとの話し合いは終わり、次に会う約束をすると後は彼に任せて、俺は久しぶりに魔物狩りに精を出すことにする。
勿論リリも途中まで一緒に行き、彼女はその後商品の詰め替え作業だ。
以前襲われて以来、俺とリリはお荒稼ぎすることを止めていたが、銃を手に入れ身の安全を確保したことと、新しい事業を開始したため、本格的にお金を稼ぎ始める。
俺はリリを連れてデュークの森にテレポートすると、岩の家を設置してリリと別れた後魔物狩りを始める。
異世界に来てから何度も魔物刈りを経験したので、すっかり慣れてしまった俺は、あっという間に目標の二倍程度の魔物を狩ってしまう。
魔物狩りが終わったらリリの所にテレポートして、彼女の仕事を手伝ってから二人でマンションにテレポートする。
以前襲われた経験から、俺達は日が暮れてからの冒険者ギルドや、商業ギルドに行くことを控えることにしている。
安全に、気を配りすぎる事はないからだ。
そして十日が過ぎ、俺達の荒稼ぎも半端な額ではなくなった頃、ロンダから店を借りたので宿屋に来て欲しいと合図があった。
俺とロンダの合図は簡単で、彼が泊まっている宿屋の窓に、木綿のハンカチーフを掲げたら、俺が会いに行く決まりになっている。
「お待ちしておりました、御主人様」
「久しぶりだな、ロンダ」
ロンダの部屋にテレポートすると、待ちかねていたかのようにロンダが迎えてくれた。
俺はロンダに、常に宿屋の部屋を二つ借りてもらっていて、俺との話し合いの時、彼の妻や子供達に席を外してもらっている。
よって、今ロンダの部屋には、俺とリリとロンダの三人だけとなる。
「ご無沙汰しております。ーーー早速ですが、お店の候補地が決まり既に賃貸手続きも済みました。勿論、簡単ですがリフォームも済んでおります」
「リフォームまで済んでおるのか、早いな」
「元の状態がかなり良かったですので、簡単に済みました」
「そうなんだ、本当にありがとう」
「いえ、とんでもないです。私は御主人様の指示に従っただけです」
「それでも凄いよ。ーーー俺はロンダさんを、信頼できる仲間だと思っている」
「ありがとう存じます」
相変わらず真面目一筋のロンダだが、もう出店する場所を決め既にリフォームまで済ませているとは、驚きだ。
本当は奴隷の魔法陣も開放したいが、俺の秘密を守らなきゃいけないので、悪いと思うが許してほしい。
まっ、そう遠くない未来に開放するつもりでいるけどな。
「それで、早速で悪いが店の場所を教えてくれるか、行くのは明日でも構わないが、一度確認しておきたい」
「それなら私が、今から案内します」
「いや、それは良い。俺とロンダが顔見知りだとバレたら、当初からの作戦が台無しだからな」
「左様で御座いますね。分かりました、すぐに簡単な地図を描きますので少々お待ち下さい」
「あぁ、悪いな」
暫く待つと、ロンダは簡単な地図と話していたが、結構な地図が出来上がっていてビックリする。
ロンダって、何をしても一流かよ。字も綺麗だし、仕事も早い、俺なんかより、よっぽど優秀だよ。
「ありがとう、それじゃ明日店で会おうか」
「畏まりました」
俺とリリはロンダと別れ、地図を頼りに出店予定地まで行くと、そこは元が商店だったらしく、軒先は広く入り口の扉も広い建物が建っていた。
店を確認した俺達は、マンションにテレポートした。
明日は、いよいよ俺の店が異世界に出店することになり、俺は少しの興奮と今後の野望に胸を膨らませていた。




