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13、女心。

「遅いよ。毎日、毎日、遅いと思ってたけど、今日は特に遅いよ!」


 情報収集のために冒険者ギルドの酒場に一週間通い詰めた結果、リリに怒られた。


 別に(やま)しいところはないが…… まっ、少しはあるけど。


 情報を得るために、何度か綺麗な女性と一緒にお酒を呑んだ程度で、変な事はしていない。


 ただ、隙あらばと思ったのは事実で、成人男性なら誰でも思うはずだ。


 俺だって聖人君子じゃないんだから、女の人とゴニョゴニョして、ゴニョゴニョされたいと思うのは普通の事だと思うが、流石に一週間はないか……


「お兄ちゃん! リリの話聞いているの?」

「あっ、ごめんごめん、ちゃんと聞いている」


 遅いと言っても午後の十一時だよ、言うほど遅いか? 


 まぁ、一人ぼっちで留守番させたのは俺なんだから、ここは黙って怒られよう。


「この前襲われてから、夜中は出ないほうが良いと言ってたのに、いくら情報を集めと言っても、遅すぎるよ。リリが心配してるのに、リリの事忘れて遊ん…… 」


 ここからは本当に長かったので、省略します…… 一時間後。


「本当にごめん。ある程度情報が聞けたから、もう酒場には行かないから、な」

「別に、怒ってるわけじゃないの、心配なだけ…… 」

「そうだね、俺も気をつけるよ」

「うん、分かった」


 まだまだ完全に怒りは収まってないが、ひとまず仲直りすることができてホッとする。


 誰かに本気で怒られたのも久しぶりで、なんだかリリが本当の子供のような、妹のような気がしてきて嬉しくなる。


「はい、バスタオル。お風呂入るんでしょ?」

「あぁ、入るけど…… 」

「布団敷いてるからね」

「あ、ありがとう」


 怒ったり妙に気を利かせたり、子供でもあり小さな女性でもあるリリの考えは、俺には到底理解できない。


 父子家庭の父親の悩みみたいになっているが、似たようなものだと思っている。


 ただ、奴隷で口数の少なかったリリが、ハッキリと意見を言えるようになったのは、俺に心を許してくれてるからなので、内心喜んでもいた。


 ーーーだけど、これはないだろう!


 風呂から上がったら、布団が一つしか敷いてなかった。


「リリ、布団が一つしかないのだけど」

「今日は待たせたから、バツとして一緒に寝るの」

「えぇ、俺、暑いよ」

「大丈夫」

「寝相悪いよ」

「大丈夫」

「寝言を言うかもよ」

「大丈夫だから、一緒に寝るの」


 リリに睨みつけられたら、何も言えなくなった。


『異世◯はス◯ートフォンと…… 」の望◯冬◯も、女性には逆らわなかったが、なんとなく彼の気持ちが分かった気がする。


 ここは素直に寝るべきだと判断した俺は、布団に入りリリとは反対方向を向いて寝る。


 俺の背中に張り付くリリが、まだ子供で年相応に淋しがる女の子だと、改めて認識した一日となった。



 ★ ★ ★



 翌朝目が覚めたら既にリリは起きていて、俺が教えたトーストと目玉焼きが準備されていた。


「朝ごはん作ったから、食べてね。うふふ」


 機嫌の悪かった昨日と違い、今日はなんだか機嫌が良いようだ。


 俺は、チャンスを掴む男だ。よって、リリの機嫌の良いこの時を、逃すわけにはいかない。


 大きく深呼吸した俺は、リリに相談することにした。


「あのさぁ、リリ」

「なに?」

「俺、奴隷を買うことにした」


 ガシャンとお皿が割れる音がして、振り返ると呆然と固まったリリが、今にも泣きそうな顔で俺を見ている。


「ど、どうして、ーーーどうして奴隷なんて買うのよ! 買わなくてもリリがいるじゃない! まだ十二歳で、幼児体型だけど、胸だっ………… 」


 最後の方は聞き取れないが、兎に角リリは真っ赤な顔で怒っている。


 俺は慌てて酒場で手に入れた情報を、リリに説明する。


 酒場で手に入れた情報の中に、商会の番頭は奴隷が多いという話を聞いたからだ。


 奴隷は主人の命令に絶対で、決して裏切らず、秘密も漏らさないから安心できると、頭の禿げたおっさんがエール一杯で話してくれた。


 他にも秘密保持契約の魔法陣もあるらしいが、奴隷用のチョーカーがある世界だ、秘密保持契約の魔法陣があっても不思議ではない。


 奴隷のメリットは完璧な忠誠だが、デメリットは物凄く値が張ることで、逆に秘密保持契約のメリットは値は少なくて済むが、デメリットは契約する相手を探さなければならない点だ。


 異世界に秘密保持契約を結べる知り合いなど居るはずもなく、消去法で奴隷を選ぶしかなかった。


 それに、奴隷を仲間にする話はラノベにもある。成長チート…… とか、他にもスキルを解体したら…… とか、意外と奴隷を仲間にする話は多い。


 まっ、最後はハーレムだけど……


 俺は純粋に仕事仲間を探しているだけで、誓ってそんな(よこしま)な考えは、PM2.5(これぽっち)も無い。


「あのねリリ。この話は前にもしたけど、お店を経営するとなれば信頼できる人が必要だが、実際問題信頼の置ける人材なんて、簡単に見つかるわけない」

「そ、それは、そうだけど」

「だけど、奴隷なら契約次第で秘密も守ってくれるし、絶対に裏切る事もないから安心できるんだよ。それと…… 」

「それと?」

「やはり、リリが副社長だから、リリの命令を聞いてくれないと困るからな」

「えっ、リリ、リリ、副社長なの?」


 おっ、副社長にリリが食いついた! 


 俺は、チャンスを掴む男だ!


「あぁ、俺が社長で、リリが副社長だ」

「そ、そうなんだ。それなら、良いかなぁ…… 」


 漫画なら「えへへへ」のセリフと、涎を垂らす女の子が描かれているだろう、今のリリが正にそうだ。


 リリは少し上の空の状態で、その顔はへにゃと崩れていて可愛い。


「大好きなリリなら、そう言うと思ったよ!」

「だ、大好き………… 」

「ん? どうしたリリ」

「な、なんでもないです。なんでも…… 」


 短時間でコロコロとリリの顔が変化するが、奴隷を(やと)うプレゼンが成功するには、ここが最大の詰めであり、山場だ。


「それでな、リリ。ーーー今日、こらから奴隷商会に行くけど、副社長のリリにも見てほしいんだ?」

「うん、良いよ! そうだよね、これからの事も考えないとね。ーーーリリ、副社長なんだもんね」

「あぁ、リリは頼りになる副社長だからな」

「えへへへ、リリ、頑張る」


 プレゼン成功! 俺とリリは食器を片付けると、身支度をして街に繰り出した。


 禿げたおっさんの話によると、王都には三つの奴隷商会があるらしく、奴隷を買うならその中でも一番有名で一番良心的な『アレス奴隷商会』を選べば間違いないと教えてくれた。


 おっさにんには、アレス奴隷商会の場所も聞いていたので、俺達は早速向かった。


 奴隷を買うにあたり、問題が一つある。


 問題とはリリの事で、魔物に襲われた彼女を助けた時に、奴隷の証であるチョーカーを、俺が勝手に外してしまったことだ。


 つまり、俺がリリを奴隷の呪縛から勝手に解き放ったが、これって犯罪にならないのか、更にその場合、リリの父親に支払ったお金はどうなるのかということだ。


 奴隷商なんて悪の人身売買組織だと本気で思っていたから、リリを勝手に開放したけど、もし俺の勘違いだとしたら、俺は犯罪者になるかもしれない。


 奴隷商に事情を説明して、お金で解決できるならそれで良し、ダメならテレポートで逃げれば良いだけだ。


 紹介されたザリューム奴隷商会に着くと、やはり人身売買は儲かるらしく、奴隷商会の広い敷地には立派な建物が何軒も連なっていた。


 奴隷商になるのも良いかもと一瞬頭を掠めたが、ブルブルと首を横に振って考えを改める。


 店の扉を開き店内に入ると、人身売買を商いとする極道(やくざ)のようなイメージを持っていたが、店内は吹き抜けの豪華なロビーにシャンデリアが幾つも吊られており、まるで一流ホテルのような雰囲気だった。


「いらっしゃいませ。ーーー失礼ですが、当アレス奴隷商会は初めてでしょうか?」


 問題は駆け寄ってきた店の方が、金ピカのスーツにちょび髭を生やした、見るからに成金で怪しい人物だった事だ。


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