9、最悪だ。
「いてぇぇええええー! なんだぁ! ゴホッゴホッ 背中が、いてぇぇええ」
いったい、なんなんだ! 何が起こった? 息ができない……
「おいおい、こいつ良い声で出すじゃないか、痛めつけ甲斐があるぜ」
「待て待て、取り敢えず頭を押さえつけて動けないようにしろ」
「分かってるって、ギャハハハハハ」
なんだ、誰か居るのか? 俺に何かしたのか。ウウッ、背中がいてぇええ……
何が起こったのか分からないが、俺が背中に強い衝撃を受け地面に倒れ込み、その際口に入った土の味と、誰かに頭を力尽で押さえられ地面しか見えないことは分かった。
俺は、殴られたのか、なぜ? ーーーッ! リリは、リリは大丈夫なのか?
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
「お前は黙ってろ!」
「キャッ、お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「リリ、リリ! お前らリリに変なことしたら、殺すぞ!」
「なーにが殺すぞ、だ。できるもんなら、し、て、み、ろ、よぉおお!」
再び強い衝撃が背中を走る。何か硬い棒のようなもので殴られたのか? 痛い、痛すぎる。
激痛に息もできないほどだが、頭を押さえていて動くこともできず、うめき声を上げるのが精一杯だ。
「おい。殺さない程度に、適当にしろよ。殺しちまったら、意味ないからな」
「分かっているって。そぉーれ!」
更に強い衝撃を横っ腹に受け、激痛とともに俺は地面を転がっていく。
「お兄ちゃんに、何するのよ」
「うるせぇ! お前は黙っとれ」
「キャァァアアー!」
「リリ、リリ、リリー」
激痛で苦しむ俺の耳にリリの悲鳴が聞こえてくるが、情けないことに俺はリリの名前を呼ぶことしかできない。
リリが殴られたかもしれない、なんとかしなければと思っても、激痛のなかで頭を押さえられ身動きが取れない。
「おらよっと、アハハハハ」
「おいおい、やり過ぎるなよ」
顔面と後頭部に激痛が走る。どうやら頭を強く踏まれたみたいで、男の体重が頭に伸し掛かり重く苦しい。
踏まれた衝撃で、口の中の土の味に血の味が加わって気持ち悪い。
だが、それだけで終わりじゃなかった。その後からも連続で横っ腹を蹴ったり、背中を何かで殴りつけたり、やりたい放題だ。
何人で俺に攻撃を加えているのか分からないが、俺の悲鳴や叫び声を聞いても気にする様子もなく、彼らは笑いながら暴行を加えてくる。
逃げようと思えば逃げれるが、リリが捕まっている以上はテレポートも使えない。
一度空にテレポートして様子を見るかとも思ったが、相手にテレポートを知られてしまっては、折角の切り札を失いかねない。
「これでも、喰らえ。アハハハハ」
「俺にもやらせろや」
それからは更に滅多打ちだった。男達は、何度も何度も俺を蹴ってきて、全身に激痛が走り、もう何がなんだか分からない。
ただ体中を激痛が走り、痛みに絶えながら苦しみ続けるのみで、俺は意識を保つのが精一杯だった。
「ちょっと、待て」
「えぇ、丁度良いところなのに」
「まぁ、待て、話を聞いてからだ」
「分かったよ」
意識が途絶える寸前で、男達の攻撃の手が止まった。
どうやら、ボスらしき男の命令のようだが、頭を押さえられ顔すら上げられない状態では、何も確認できない。
今の俺にできることは、リリを探して一緒に逃げることだ。
俺は、そればかりを考えていた。
「お前、大翔とか言ったよな。大層儲けてるようだな、貧乏な俺達にも恵んでくれよ」
こいつら、俺の金が目当てだったのか。それもそっか、あれだけ目立てば、こんな輩も出てくるよな。
本気で後悔したが、今となっては遅すぎる。
「聞いているのか? 金を出せと言っているんだよ。ほら、お前も声をかけろ」
「お、お兄ちゃん、今から助けるから。待ってて」
「ギャハハハハハ、何が助けるだ、何もできないくせに」
「お兄ちゃんに、酷いことしないで」
リリの声が聞こえる方に、顔を向けようと必死に動かすが、男に頭を押さえられて動かせない。
「リリに、酷いことするな」
「おっ、やっと喋ったぞ。だったら、さっさと金を出せ」
「分かった。出すから、リリに酷いことするな」
「お兄ちゃん…… 」
頭を押さえる男が、今度は俺の髪の毛を引っ張って頭を上げるが、瞼が切れてるらしく、血が目に入ってしまい何もかもがぼやけて見える。
分かったのは、俺の目の前にはボスらしき男が、しゃがみ込みながら俺の顔をペチペチと叩いている事だけだった。
諦めるな、絶対リリを助けるんだ。リリを助けて逃げるんだ。
考えるんだ! 逃げる方法を、必死に考えるんだ! 考えなきゃ、リリも俺も殺されるぞ!
「分かったから、金を渡すから、座らせてくれ。このままでは、何もできない」
体が前を向けば、リリの姿が見えたらテレポートで逃げるんだ。
「それも、そっか。おい、座らせろ」
頭を押さえていた男が、俺の体を無理やり座らせる。
やっと周囲が確認できる状態だが、未だぼやけてリリが確認できない。
「今持っている金は、これだけだ」
俺は懐にある銀貨を五枚を取り出し、彼らに渡す。
「お前、ふざけているのか? 他にも有るだろ」
「勿論、有る。だが、今はこれだけだ。宿屋に隠してある」
「ほぉー、そっか。それなら、取ってきて貰おうか」
「分かった」
「おい、立たせてやれ。それからお前ら三人、そいつと一緒に宿屋まで行ってこい」
「「「へぇ」」」
三人の男が俺を無理やり立たせて歩かせようとするが、目の前がぼやけているため思うように歩けない。
「頼む、前が見えないと歩けない。お願いだ、顔を拭かせてくれ」
「仕方ないな。おい、顔を拭いてやれ」
「わかりました。ほらよ」
男が俺の顔を、ボロキレで乱暴に拭ってくれたお陰で、目の前の状況がハッキリと見えた。
俺達を襲ったのは十数名の男達で、ボスらしき男のニタニタした顔が目の前にあった。
そして、その後ろに知らない男に捕らえられた、リリの姿も確認できた。
「良いか、変な真似をするなよ。こっちには人質が居るん…… 」
ボスらしき男の言葉が終わる前に、俺はアイテムボックスを使い、リリとリリを捕まえてる男以外の地面をくり抜いた。
丁度リリの周囲を円形に残した形で、路地裏の地面が陥没した状態になる。
当然俺も穴の中に落ちるが、リリの居場所は確認できたので問題ない。
俺は、テレポートを使いリリの側に移動するとリリと、リリを捕まえている男も一緒に、空高くテレポートする。
一瞬だけ無重力を味わった俺達は、ものすごいスピードで地面に落下していく。
「な、なんで空にいるんだよぉ! 落ちるぅぅわぁぁああー!」
「お兄ちゃん、助けて!」
突然空に放り投げられた男が大騒ぎするなか、リリが俺に助けを求める。
俺はリリを正面から抱きしめると、背中にしがみつく男に懇親の力を足に込め、無理やり引き剥がしにかかる。
「リリから、汚い手を離せぇぇええー!」
「あぅぅっ。なんなんだ、なんでこうなったぁぁああ!」
「しつこいんだよ! さっさとリリから手を話しやがれ!」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
「おい、おい。何なんだよ! これは何なんだよ!」
「知るかぁぁああ! 黙ってリリから手を離せぇぇええー!」
落下速度はどんどん速くなり、次第に目を開けるのも困難になっていくなか、俺は、男からリリを力尽で取り戻す。
「うぉぉおおー、助けてくれ。頼む、謝るから助けてくれぇぇええー!」
ようやく現実を受け入れた男が、死の恐怖に絶えられず悲鳴を上げるが、俺は決して許さない。
アイテムボックスから路地裏のくり抜いた地面を取り出し、落下する俺達よりも先に落ちるように地面に落とす。
激しい轟音と共に、路地裏の穴がボコボコに塞がった。
当然、ボスや男達は死んだと思うが、そんなこと、俺の知ったことか!
俺とリリ、そしてもう一人の男にも地面が目の前に迫ってくる。
顔を歪めながら最後まで助けを求める男に、俺は「地獄に落ちろ!」と叫ぶと、リリを強く抱きしめたままマンションにテレポートした。
テレポートする瞬間。死を受け入れたのか、男が一瞬祈ってるようにも見えたが、俺は気にも留めなかった。
慣性の法則を完全に無視する俺のテレポートは、俺とリリを優しく部屋の床に着地させる。
「リリ、リリ、大丈夫か?」
「うん、リリは、大丈夫。それよりも、お兄ちゃんが」
「あぁ、俺は、大丈夫だが、リリは殴られてないか?」
マンションに移動したことを確認した俺は、必死にリリの顔を確認する。
リリの右の頬が殴られたようで、真っ赤に染まっていた。
「リリは、大丈夫だよ。これくらい何でもない!」
「くそぉ! あいつら、大事なリリを殴りやがって!」
俺が殺したから、男達は既にこの世に居ないというのに、激しい痛みと興奮状態で、自分でも何がなんだか分からなくなっていた。
「リリは大丈夫だから、心配しないで。それよりも、お兄ちゃんの怪我を治さないと」
「俺は、大丈夫だから、ーーー気にするな…… 」
リリが大丈夫だと知った俺の意識は、次第に薄れていった。
ただ、薄れていく意識の中で「ヒール」と、何度も叫んでいるリリの声が聞こえた。




