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嘘を隠しているような罪悪感に駆られる。
何だかずっと生贄になっていたような私が、こんな優しい両親の子供であることに申し訳ない気持ちになってきた。
肩に手が置かれそちらを振り向くと、ハーディスが優しい笑みで私に話しかける。
「ティアナ様は多くの人達に愛されているのです。
どんな恐ろしい夢も段々と薄れることでしょう」
「ありがとう」
フォローしてくれたのは嬉しいが、今までのことを忘れてしまうのは良いことなのだろうか。
あんなに幸せな生活を願ったのに、急な温度差に戸惑っているのか自分でもわからない。
ただ16歳になれた。
ようやく進むことの出来る自分の人生を大切にしなければならない。
そう思うと自分の心にカツを入れた。
「そうよね、気持ちを変えなきゃ。
食事はもういいから最後に紅茶を頂くわ」
「かしこまりました」
ハーディスに笑顔を見せ、両親にも笑顔を向ければ二人はホッとしたようにお互いを見ている。
あぁいう両親のような幸せな家庭を私も築きたい。
この101回目の転生で。
私は小花柄のティーカップに注がれる度に広がる良い香りを味わいながら、ハーディスに礼を言おうとして気付いた。
「さっき下げた私のフォーク、ポケットにくすねるのはやめなさい」
「違います。古くなっていたので新しいフォークに交換するだけです」
「まさか、今までもやってたんじゃ」
「決して私の部屋には入らないでくださいね。コレクションを見られるのは恥ずかしいので」
照れるようなハーディスの声に私はすぐさま立ち上がり、両手で腕を捕まえようとするとスルリと逃げられた。
「あぁっティアナ様!
私を押し倒したいのでしたらどうか続きはお嬢様のお部屋で是非」
「違うから!そして恥じらうんじゃ無い!!」
頬を染めるハーディスと追いかける状況になって、忘れていた両親を見れば何故か微笑ましく見ている。
「相変わらず仲が良いわね」
「良いことだ」
どうやら今までもこれが通常だったらしい。
気がつけば私の方が後ろから大きな身体に抱きしめられて、私の耳にハーディスの息がかかる。
「私の部屋に来るときには、どうぞ覚悟を決めてからにして下さいね」
「どんな覚悟よ」
思わず拳で腹を殴ったが効果は無かったらしい。
なんて可愛らしい拳、という恍惚な表情に私は軽蔑した目を向けるしか無かった。