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「どうだ、後でその世界に行ってみるか?」
ハデスは私を後ろから抱きしめたまま聞いてきて、私は一瞬考えた後、首を横に振る。
「いいの。皆が最後まであの世界で生きてくれれば」
そうか、とハデスは返して私を一層抱きしめる。
「苦しいんだけど」
「ずっと見ていただけだったのが妻になったのだ、別に良いだろう」
「もうここに来て大分経つじゃない」
「待っていたのはもっと長かった」
そういって頭をぐりぐり顔に押しつけてくるので仕方なく頭を撫でる。
二人の時はこうやって甘えてくるので弱い。
無理矢理の婚姻も、ハデスが自分なりに私を慈しもうとしていたのがわかっていたから受け入れられた。
ハーディスを外に出すのも私を気遣ってだとわかっている。
彼も同じ月日、思っている私の死をずっと見届けてくれた。
きっと私が一番欲しかったのはこの人達が与えてくれている。
「朝食にしよう。
昨日はハーディスと過ごしたのだ、今日は我でいいな?」
「はいはい、お好きなように」
わざと聞いてきて自分を選ぶように言わせるのもわかっている。
むくれているハデスの頬に振り向いてキスをすれば、一瞬で機嫌が直った。
「ハデス、エスコートを頼める?」
いたずらに言ってみれば、ハデスは笑うと簡単に私をいわゆるお姫様抱っこをして歩き出す。
思わず噴き出して、私は満足そうなハデスの首に手を回した。
今日は生贄の適正者の話が出ることを知っている。
さてその仕事にはとある女神に行って頂こう。
私は冥府を司る神の妻。たまにその立場を利用したって良いはずだ。
きっと既にハーディスの指示で用意されてあるであろう朝食を、私は楽しみにしながら再度ハデスの頬に口づけた。
END




