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「譲るも何もあのお二人が有り難いことに申し出て下さったことで、私がどうこう出来るお話ではありません」
「ですのでどちらかに決めて頂ければ残った方を私が頂きたいと言っているのですが」
「残った方などと。
確かにお二人の好意に甘え時間を頂いている状態ですが、まだ」
「そうやって振り回すなんて思ったより悪い女性ですのね。
殿方というのは狩るのがお好きですから、そうやって逃げ回る方が喜ばれるのでしょうし」
とんでもない言葉に言葉が出せない。
さっきから向けられているのは悪意だ。
だが二人の優しさに甘えて待たせているのも事実なので後ろめたい気持ちから次の言葉が出てこない。
「ティアナ様が社交界では何と呼ばれているのかご存じですわよね」
そういう場で私のことを悪く言う人々がいるのはもちろん知っている。
「そんな女性に男性は純粋な愛で交際を申し込むことは無いのでは、という噂もあるのですのよ。
ようはティアナ様の評判と同じレベルであのお二方が言われているという訳です。
例えばお金でそう言うように演じるよう仕向けられている、とか」
彼女は気遣うような顔をしていて楽しんでいるように見える。
しかし言われたことに驚いた。
私が噂されているのは知っていたが、まさかそれでディオンとカール様まで嫌な噂をされているだなんて。
「大丈夫ですよティアナ様。あのお二人ならそんな下世話な噂など気にも致しません。
あれだけの愛を伝えられておきながら、お二人を信用しないのはそれこそ罪でございますよ」
突然後ろからハーディスが割り込んできて驚く。
確かに信用していない訳では無いけれど、こういう時に彼らが動じないというのも信用すべきなのだと気付かされた。
「そちらの執事はとても有能だそうですね。
色々な所から引き抜きたいと声をかけるのにご本人が応じられないとか。
そんなにアイオライト家はよろしいのかしら」
エリス嬢はハーディスを褒めているようで嫌みを感じてしまう。
だがハーディスは何も気にせず、
「えぇ最高でございます。
私はティアナ様に使えていることに誇りを持っておりますので。
給金が無くなろうが、アイオライト家が没落しようが関係ありません。
ただティアナ様がいれば私はそれで十分なのです」
胸に手を当てハーディスはエリス嬢に頭を下げる。
エリス嬢は苛立つかと思いきや、面白そうに見ているようだった。




