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「領民の生活も心配ですね」
「いえ、それはどうでも良いのですが」
私の言葉に彼女は事もなげに言い、私は一瞬言葉を失った。
領民の生活が心配では無い?
それは自分の父親を信じていて大丈夫と思っているとかそういう事だろうか。
まさか領民を気にしていないなんてことは。
私の表情が硬くなっていたせいだろう、彼女は不思議そうな顔をした。
「領民が何か?」
何かって。
本当に不思議そうに聞いていて彼女はどういう意味で言っているのか判断できない。
私は頑張って笑顔を作る。
「エリス様はお父様の事を信頼されているのですね」
「特に信頼しておりません」
えっ。
声に出しそうなのを飲み込んだ。
父親を信頼していない、領民のことも気にしていない。
どういうことなの?
勝手に政略結婚の話が出て親を嫌ったのだろうか。
あまりに何の疑問も無く言い切るので戸惑ってしまう。
私の心を読んだように彼女はくすりと軽い声で笑った。
「ティアナ様はお父様がお好きなのですね。
そして領民の生活まで気にされておられる。
お父様は国王に信頼が厚いとお聞きしますし、よく平民のいる市に出ては楽しまれているとか。
私にはそのような行動が理解できません。
そもそも領民の土地は我らがカーネリアン家のもの。
それを下々に貸しているのです。
貸している以上はその費用を支払って貰わねばなりません。
天候がどうこうなど甘えでしかないでしょう。
それを織り込んだ上で備えておく、当然のことでは無いでしょうか」
彼女は目を細めてゆったりと話し終えた。
話を聞きながら、私の顔はきちんと笑えたりはしていないだろう。
彼女の笑顔は美しいが優しさを感じない。
それが異様に恐ろしい。
私は気持ちを立て直し、
「確かに土地を借りるのはそれにより利益を得るのが目的でしょう。
ですが天候というのは彼らにどうすることも出来ません。
私達はそういう人々に生かされているのですから、私達がそういう時こそ手を差し出すべきではないでしょうか」
「おわかりではありませんかティアナ様も」
取り繕った笑顔でエリス嬢に言うと、彼女はにっこりと返した。