3
部屋に戻り、窓辺から外をぼんやり眺める。
自分は彼らを待たせている身。
彼らの気持ちや事情が変わるならば何か言う資格など無い。
「ティアナ様」
いつの間にか部屋に入っていたハーディスがテーブルにお茶を用意していた。
私は黙って椅子に座り、ハーディスはティーカップに琥珀色の紅茶を注ぐ。
立ち上った少し甘い香りは知らずに沈んでいた気持ちをホッとさせた。
「気になりますか?」
「そりゃ、ね」
苦笑いして紅茶を飲む。
気になると言いながら、私は落ち込んでいるレベルが低いことに気付いていた。
おそらくそれは、私に紅茶を飲ませるこの胡散臭い執事のせい。
あの城での出来事でハーディスはあの神の器であったとしてもこの世界で生きている。
色々自分に違和感を覚えていたというハーディスは、事実を知っても特に変わらなかった。
それが嬉しいのかと聞かれれば、嬉しいと答えるしか無い。
ハーディスが側に居ること、これが私にとって安心できることなのだ。
内心危ないヤツだとわかっていても。
「そんな熱い目を向け続けられると理性が崩壊すると何度言えば」
「崩壊するとどうなる訳?」
いつものふざけたような演技をするハーディスにそういうと、ハーディスはきょとんとしたあと、にっこりと笑う。
「それはもう私を選んで下さったと言うことで良いのですよね?」
「そんなこと言ってないわよね?」
「理性が崩壊することをティアナ様がお望みなわけですから」
「望んでない。単にどうなるか聞いただけ」
ずいずい迫ってくる、顔だけは良い男が。
私はそれに動じること無く無表情で返せば、すぐ目の前にあるハーディスの口角が上がった。
私の前に軽やかにハーディスが跪き、私の手を取る。
その手の甲にキスをすると跪いたまま私を見上げた。
「私は貴女だけがいればいいと思っています。
貴女がいるなら他のことなどどうでも良い。
それが私を操る男の思いによるものだけだなどとは思っていません。
貴女は言ってみれば私とその中の男二人を夢中にさせている、ただそれだけなのです」
重たい告白だが、ハーディスは例の男を受け入れたのだろうか。
だからこそ二人、なんて言い方をしているのだろう。
「ハーディス」
「はい」
私は再度手を差し出す。
「この世界で何があっても側にいると誓える?」
ハーディスはふわりと柔らかい笑みを浮かべ、再度手の甲に、そして指に音を立てながらキスを落としていく。




