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「すぐにあの村へ行くの?」
「お嬢様の許可があればこの後すぐにでも。
気になさっているでしょう?あの村のことが」
私のためだから。
それに結局ずっと私は甘えてきたのだろう。
ハーディスが私の横から前に進み、大きな木の幹に手を当てた。
こちらからは顔は見えない。
急にそのハーディスが全く違う男の背中に見えた。
細身では無く、大きな背中。
偉丈夫のカール様のように、体格も大きい。
黒の長い髪が風に揺れ、私は目の前に起きている事に釘付けになる。
ふわりと髪が動き、男が振り返った。
いつものハーディスの顔では無く、美しいけれどももっと男性を感じさせるその顔を私はただ見つめていた。
「この身体は思ったより持ちが悪い」
ハーディスとは違う低いが強い声。
私は知っている、この人を。
「貴方は誰なの」
ようやく疑問を相手にぶつけられたが、知りたくないように声が震える。
男は悠々と太い腕を組み、木の幹に背を預ける。
服は執事服では無い。
胸板がほぼ出たような薄い布を上半身に駆けているだけのような服。
夢の中で見たあの服だ。
見知らぬようで見知った男は口角を上げた。
「この世界でもお前は変わらぬ強さを持つ。
早く死んでくれれば連れて行けるものを」
早く死んで欲しい?
唐突な言葉に固まる。
やはりこの世界でも私は生贄として死ぬ運命なのか。
「はは、違うぞ」
心の中を読んだように男が笑って大きな手を振る。
「この世界はお前のボーナスステージだ。
本来100回目の死で終わるはずだった。
そこでこちらに来るはずが」
「なーに苛めているんっすか」
軽い声が後ろから聞こえて振り向く。
そこにはあの男が苦笑いして近づいてきた。
だがそこで気付く。
中庭奥に居る衛兵は動いていない。
仕事で動かないようにしているのでは無い、あれは止まっているのではないだろうか?




