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ハーディスは私のベッドサイドに跪き、また私の手を引っ張って握る。
大きな手は私の手を簡単に包み込んだ。
「私はあの白い世界で話した者とは違います。
100回も貴女が生贄として殺されるのを、ただ見ていることしか出来なかった情けない男。
101回目、貴女がその呪縛から解き放たれ、幸せに生きれる世界で私は貴方の側にいたいと願いました。
だからこうやって執事として側にいるのです。
貴女が本当に幼い頃から見守り、16歳の誕生日を迎えることをこんなに待ちわびていた者は貴女以外に私だけ。
心から誓います、貴女を愛すると」
「は?」
「愛します。それはもう滅茶苦茶に」
気がつけば私の両手がハーディスの口元の方へ移動させられ、綺麗な顔が目の前にあった。
反射的に片手を拳にしてハーディスの顔面めがけたが簡単に片手で止められた。なお、ハーディスはそんなことをされても嬉しそうだ。わからない。
「さっき貴方が言ってた内容が頭から飛んだわ。
とりあえずハーディスが変態って事はわかったけど」
「ティアナ様にそれはそれは邪でとても言葉に出せない事を日頃から妄想していることは認めますが、それは愛故なのです」
「16歳の誕生日で起きたばかりなのに、なんでそんな性癖聞かされなきゃならないのよ」
「私の話はまた後ほど。
まずはお着替えを済ませてご朝食に向かいましょう」
手を差し出されその手を取りベッドから降りる。
素早く私のネグリジェがスルリと脱がされ驚いて声を上げそうになった。
「何を今更。
私はティアナ様が幼い頃から全ての身の回りのお世話をしているのです。
妙に意識されると私の仕事が出来ません」
急に真顔で迫られ、そういや全てこの男が私の身の回り全てをしていたのを思い出す。
確かに変に意識するのはおかしいだろう。
しかし急に違う記憶が流れてまだ今の世界と違和感が出てしまう。
何というか100回も人生をこなしたせいか、16歳という感覚よりももっと上なのでは無いかとすら感じていた。
「大丈夫ですよ」
ぼーっとしていたのか、あっという間に私の身体にはカジュアルなドレス姿になっていて、椅子に座らされ今度は髪の毛をブラシで丁寧にとかしてくれている。
「貴女は100回もの人生を歩まれた。
それだけの人生を経験した分、どうしても大人びた感覚になるのでしょう。
ですから今の状況に混乱するのも無理はありません。
そんなティアナ様を支えるために私はいるのです」
するするとハーディスが私の髪を解きながら、心にある不安までも解きほぐされていくような気がする。
確かに私の状況をわかっている人がこの世界にいる。
これほど心強いことは無い。