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「ねぇ、本当に正装していかなくても良いの?」


「それでは動きにくいでしょう?

シンプルで構いませんよ」


城に行く朝、用意されたのは至ってシンプルなドレス。

国王に謁見するならそれなりの正装で前に出るべきだ。


なのにハーディスはそれを否定し、可愛らしい薄いピンク生地のドレスを勧めた。

初めて見るドレスだが、金の糸で花柄の刺繍があしらわれており可愛らしさと上品さを兼ね備えている。

今回もハーディスが見立てたのだろうが悔しいけれど好みのドレスだ。


「で、ハーディスはいつもの執事服なの?」


「これの方がお嬢様のそばにいるのは動きやすいので」


そりゃ嫁入り前の娘が城で男といるのは目立ちすぎる。

それが執事なら問題は無いが。


「お父様には今日のことを何て言ってあるの」


「城に行きますと伝えてあります」


ダイレクトに伝えたのか。

流石にお父様も状況を知っているなら止めはしないだろう。


ドアをノックする音がしてハーディスが声をかけるとメイドが、馬車の準備が整いましたと言ってすぐに部屋を下がる。


「後はアクセサリーですね」


そう言いながら首元につけられたネックレスを鏡越しに見て、


「これは?」


真ん中に大きな青い宝石、それもかなりの大きさ。

そしてその横には色が黒だがとても輝きのある石が配置されたかなり豪華なネックレス。初めて見る物だった。


「遅れましたがお誕生日おめでとうございます。

あぁティアナ様の白い肌に青と黒のコントラストがよく映える。

まるでお嬢様の柔らかな肌の上で翻弄される私のようです」


「一気に着ける気がなくなったわ」


「そういわずに」


にこにこと胡散臭いいつもの笑み。

だがこのネックレス、正直ディオンとカール様のより遙に値が張るはず。

これを一介の執事が買えるわけが無い。

となればやはり王子なのかと再度認識してしまう。


「これ、一介の執事に買える代物ではないわね」


「大丈夫ですよ、私のポケットマネーです」


あ、そう、と乾いた声で返すしか無い。

買えるのか。うちの給金で買えるはずは無いのだが。


「お気に召さないですか?」


何で急に叱られた犬のように悲しげな顔をするのだろうか。

わかってやっているけれど、こうあからさまに悲しいです、という態度をされるとやはり罪悪感が私の胸をチクチクと刺す。

こうなると私はお手上げだ。


「ありがとう。

帰ったら箱に入れて鍵かけて、引き出しの奥に仕舞っておくわね」


「意地悪ですね、ティアナ様は」


私の態度になれたように、ハーディスは満面に笑みを浮かべた。



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