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「呆れてなどいませんよ。
それでこそ気高い貴女です」
何となく妙な感じがして足下を見ると、ハーディスの髪がとても長くなっている。
肩幅もぐんと大きくて、思わず目をこすって再度見るといつもの執事がそこにいた。
「どうしました?」
「なんかハーディスの髪が長く見えて」
きょと、としたハーディスが口角を上げた。
何だか危険信号が自分の中で点滅する。
「次は私と過ごす番ですね」
逃げたい、と感じたのに、ハーディスはいつもの声で今度は左足を出して下さいという。
残念だが無茶苦茶気持ちいい。
思わずすぐに左足を出してしまった。
「ディオン様は市場、カール様は遠乗り。
さて、私はどうすればお嬢様を満足させられるのでしょう。
よろしければこのまま全身マッサージも」
「出禁にするわよ」
冗談です、と笑って左足を丁寧にマッサージしている。
「お連れしたいところがあるのですが明日でもよろしいですか?」
「明日?!」
唐突すぎて大きな声を出してしまった。
だがハーディスは特に気にせず、
「ティアナ様の魔法の件、国王に私が報告しなければならないのです。
それもまたいつ土砂崩れが起きるかも知れないなら早々に伝える必要があります。
せっかく城に行きますし、秘密の庭でもご招待しようかと」
「ちょっと待って。
貴方、やはり王子なの?
だから城に入れるの?
そもそも私の魔法について国王への報告担当なんてしてたの?!」
「お嬢様の私を知りたいと思う気持ちが溢れています。嬉しいですね」
「恍惚とした顔で誤魔化すな!」
私が怒るとハーディスの手が止まる。
終わりかなと思うと、ハーディスが黒い瞳を私へ向けていた。
その表情は何も無く、感情が読み取れない。
「私はこの世界など正直どうでも良いのです」
「え?」
ハーディスの平坦な声に聞き返した。
するとハーディスは立ち上がって、座っている私を見下ろす。
「貴方がずっと幸せな、生贄となって殺されることの無い人生を願ったからこの101回目の転生がある。
私はどれだけの時を待っただろう。
これくらいの寄り道、問題は無いと思っていた。
なのにお前の側に来てしまうとたった僅かな時間すら面倒だ。
こんな世界さっさと滅ぼして、お前を迎入れたいというのに」
目の前には何故かハーディスのようでハーディスではない男が立っている。
カール様に負けないほどの体格で、柔らかな黒の布を纏っている。
胸元は大きくはだけ、鍛えられた胸板には豪華な首飾りが輝いていた。
何だろう、この人、会ったことがあるような。
「お前は私にとって愛しい唯一の女。
私とは真逆の力を得てしまったのは神々から私への当てつけか。
まぁいい。
今宵はゆるりと休め。
・・・・・・よくやった」
大きな手が私の目を覆う。
その声は最後楽しそうで、褒められた言葉が私の心を安心させるようにゆっくり私の目は閉じた。




