20
屋敷の前で小さなランタンを持ちハーディスが立っていた。
どこから帰ってくるのに気付いていたのだろう。
あまりこの執事に普通は通用しないけれど。
「申し訳ない、お送りするのが遅くなってしまった」
馬上からカール様がハーディスに言い、ひらりとカール様は降りて私をゆっくりと馬から下ろした。
私に配慮して走らせてくれたとは言え、こんなに長い時間乗ったのは初めてで太ももとお尻が痛い。
暗い中でもカール様のように強い眼をした彼の愛馬に、
「私も乗せてくれてありがとう。随分疲れたでしょう」
そう言って鼻の横を撫でると、目を細めてこちらにすり寄ってくる。
何とも可愛くて頬が緩みながら擦った。
「こいつもティアナ嬢が好きなようです」
「嬉しいです。動物に好かれるのは」
嬉しくて素直にそう返すと、カール様の表情が固まり、はい、と微妙な顔で返事をされた。
その横ではハーディスが顔を背け肩をふるわせている。
「ティアナ様、そろそろ中に」
ハーディスが未だ笑いを堪えたような引きつった顔で手を差し出す。
何がそんなにおかしいのか。
貴女のその顔の方がおかしいわよ。
「ティアナ嬢」
カール様の呼びかけに顔を動かす。
既に薄暗くなったそこには、優しげな顔では無く一軍人のように思える表情でカール様が立っている。
「今日村であったことについては今後の改善のために報告をします。
問題は貴女の魔法についてです。
あれは公にされてないことですね?」
やはりそこは疑問を抱くわよね。
一部は知っていると言っても今回誰も死者も大きなけが人も出なかったというのはかなり事実を曲げなくてはならない。
あれだけの村人を黙らせるのも無理だ。
どうしよう、全て隠せばあの村の改善に国は動いてくれない。
「その点については少しお待ちいただけませんか?」
悩んでいる私を差し置いて口を挟んできたのはハーディスだった。
「ティアナ様の魔法についてはこの国でも機密事項に当たります。
処理をするには国王の許可も必要ですので、事が済み次第私からカール様にご連絡いたします」
「処理?
それに今の言葉では君自身が国王に謁見できるかのような言い方だ」
鋭い目と声色でハーディスに言うカール様に、ハーディスは笑顔のまま。




