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既に日は傾いている。
何とか真っ暗になる前に屋敷に戻れそうだ。
村人達は礼もしたいし遅くなるから泊まるように私達に勧めたが、泊まる予定が無いのに帰ってこないと屋敷の者が心配する。
ギリギリ帰れる時間だったこと、それにカール様も、私の両親から預かっている立場なので勝手は出来ないと言って断った。
しばらく沈黙が続いている。
私もあんな魔法を使った手前、疲れているよう装わなければならない。
確かに他のことで色々疲れてはいるのだが。
「息抜きにお連れしたはずがこんなに疲れさせてしまい申し訳ない」
私を後ろから抱きしめるような体勢で馬を走らせているカール様が声をかけてきた。
「謝ることなど何も。
むしろ私達が今日あの村に行って良かったです。
ただ今日だけで済ませることではなく、今後を見据えないといけませんよね」
あの村人達が悪い方向に飲み込まれないように正しい知識と支援が必要だ。
すると上から軽い笑い声が聞こえて上を向く。
そこには何故か楽しそうな表情のカール様がいた。
「カール様?」
「笑ったりして申し訳ない。
大きな魔法を使い疲れ切っていたはずの貴女が、あの老人や村人達に堂々と叱っていた時のことを思い出してしまい」
「忘れて下さい・・・・・・」
恥ずかしさに思わず俯く。
あの時は自分でもヒートアップしていてみっともなかった。
もう少し上手い言い方が冷静に考えればあったはず。
そもそも見知らぬ娘が前面に出ても話しを聞いてくれたのはカール様があの村で皆に信頼されていたからだ。
カール様が築き上げてきた信頼を自分が壊しかねなかった事に今更ながら気がついた。
「本当に出過ぎた真似を」
泣きそうな気持ちで謝ると、
「何も謝る必要などありません。
むしろ俺は貴女に交際を申し込んでいることを誇りにすら思った」
段々と空は綺麗なオレンジ色に染まりだした。
馬車の通るこの道には規則正しい蹄だけ聞こえている。
突然のカール様の言葉に私は恥ずかしさで言葉が出ない。
「どうすれば貴女は俺だけ見てくれるようになるのだろうか」
「え?」
「いや、何でもありません。
屋敷が見えてきましたよ。
良かった、貴女をゆっくりと休ませられる」
カール様の言葉が小さくて聞き取れ無かったけれど、やはり無理をさせたことを気にしておられるようだ。
私の魔法をカール様にだけ全て明らかにしていないのはフェアじゃ無い。
村で魔法を使ったことは両親に報告しなければならないし、その時にどうするか相談しよう。




