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私は何度も経験している。
人の弱さは簡単に狂気へと変貌することを。
「皆さん!」
私は立ち上がってまた声を張り上げる。
「今回の土砂崩れは人災です。
神などが起こした物ではありません!」
「黙れ!女ごときが!」
カール様が私の側に立ち、老人を睨み付ける。
それだけで老人は黙ってしまった。
こういう人間は強い物に弱い。
「木は根を張ります。深く、広く。
それで地面を、土を固定させているのです。
斜めのお皿に食べ物を置けばどうなりますか?
食べ物は滑り落ちます。
今回起きた原因はそういうことです」
村人はじっと私の言葉に耳を傾けている。
とりあえずはこちらを意識してくれることを確認して続ける。
「カール様が以前から忠告されていたように、同じ場所をどんどんそのようにしていけば今後も同じような事が起きてしまいます。
それを防ぐには伐採する量を管理すること、場所を一カ所にしないこと、そしてまた新たな木を育てるために植栽をすることが必要です。
木で生かされるのなら、未来も考えなくてはいけません。
子供達が土砂崩れで犠牲にならず、まだ木によって生活していけるように」
目を丸くしてこちらを見ている村人達に気付き、自分でかなり熱く語ってしまったことに恥ずかしさが襲ってきた。
思わず手が震えそうになったその手を大きな手が優しく包む。
顔を上げると、カール様が優しい瞳で私を見ていた。
「ここの村だけで全てをやろうと思わなくていい。
植栽やそういう事に詳しい者達はいる。
皆にはこの事を教訓として危険性を皆に教えて欲しい。
私達も出来るだけ力になることを約束する」
カール様の力強い言葉に、村人達の表情が一気に安心した表情になった。
原因だけ並べても不安になるだけだ。
実際どう動いてくれるか、力ある貴族が、それも信頼されているカール様だからこそ為し得られること。
「ありがとうございます」
心からカール様に言えば彼は苦笑いを浮かべた。
「俺はティアナ嬢の言葉に続かせて貰っただけです。
本来ティアナ嬢が言うべきことも俺が言わなければならなかった。
こちらこそ感謝する」
老人の枯れたような声が遠ざかっていく。
村人達がどこかに連れて行っているのだろう。
村人は救えた。
だけど気持ちが何か晴れないまま私達は村を後にした。




