6
城の中に入るため庭園から階段を上がろうとすれば、すぐさま回り込んだハーディスが私の手を握る。
「足下お気をつけて」
目の前には輝かしい城。
その前に立つ黒髪の変態執事。
それがこの国の第四王子という訳で。
「良いの?」
私の言葉にハーディスが何がでしょうと聞き返す。
「久しぶりでしょう、ここは。
それに、会いたくは無いの?」
ハーディスは驚くことも無く、目を弓なりにした。
「ティアナ様のお気持ちだけで十分です。
それに私の居場所はここ、ティアナ様のお側ですから」
そう言われて、嬉しい、なんて思ってしまった。
彼の生い立ちは聞いたけれど、私の執事になった経緯は曖昧。
だが101回目の転生で、ハーディスが居たことによって支えられたのは事実。
とりあえずは本人がもっと話すまで時間が必要なのだろう。
「解雇されないようにおかしな行動は控えてほしいものね」
「解雇されませんよ。私が狙うのは貴女の夫の座ですから」
「うち、思うよりお金無いわよ?」
「仕事に屋敷のやりくりも入ってるんです、存じ上げてますよ」
お金目当てじゃ無い、とわかってこれまたホッとする自分がいるわけで。
「屋敷に戻ったら軽食を用意しますね、デザートもつけます」
廊下を歩いているとハーディスがそんなことを言い出した。
「何、急に」
「カール様と逢い引きしていて無駄な時間を使ったせいで、そろそろ屋敷に戻らねばなりません。
ここに来て何も口にされていないでしょう?
さっきから小さくお腹の虫も鳴っているようですし」
お腹の鳴る音は小さいと思っていたのにバレていたのか。
というか、逢い引きだの無駄な時間だとか言ったぞ、こいつは。
「控えの間にいたのによくわかるわね」
「控えの間にずっといろとは命じられておりませんし」
その言い方だとどっかに潜んでいたのだろうか、怖い。
「それと、無駄な時間とか言わないで。
カール様は仕事中に貴重な時間を割いて下さったのよ」
「私には廊下を歩いていたお嬢様を見つけて、急いで庭園に向かったように見えましたが」
「そうなの?!」
「気のせいでした。忘れましょうさっさと」
彼が私を見つけて来てくれたのかと嬉しくなれば、無表情のハーディスが早口で終了させた。
何だったんだ、一体。
そんな意味不明なハーディスなど放置して、カール様とのデートはどんなものなのだろうと心待ちにしながら軽やかな音楽の聞こえる広間に向かった。