14
目を覚ますと部屋は明るい。
見慣れたベッドの天蓋、顔を動かせばカーテンは陽の光を薄ら通して部屋の中に引き入れていた。
ドアが音も無く開き、黒い服の男が音も立てずに入ってきた。
「お目覚めでしたか」
手に持っていた銀のトレーをテーブルに置き私の側に来る。
そんなハーディスを寝たままぼんやりと見ていた。
「ポプリの効果はあまり無かったのでしょうか」
心配そうに覗き込むハーディスに、私は小さく首を振る。
「わからない」
「え?」
「夢を見たのに覚えてない。
誰か、誰か見たはずなのに」
「また過去の転生を?」
「違うと思う。
けど思い出せないの」
何か大切なものを忘れた気がして私は酷く寂しくなった。
それが何故なのかはわからない。
そっと私の手が握られて、ハーディスが優しげな顔で見つめる。
「きっと昨日長い時間ディオン様と出かけられたのでその影響では無いでしょうか。
過去の転生を思い出されて眠れなかったのでは無かったようで安心しました」
大きな手からは温かな温度が伝わってくる。
その顔を見て、何かがよぎる。
何だろう、誰かに似ているような。
「ティアナ様、そんなお姿のまま熱い視線を送られ続ければ私としてもご期待に添わなければいけませんよね」
スルッと私の手を包んでいた手が私の腕を這い上がってきたので、手の甲をつねった。
「本当に柔らかな、そしていて弾力のある肌です。
水が肌で弾かれたそのお姿は神々しくもあり、欲情を駆り立てるにはもうそれだけで最高でして」
「二度とお風呂後には担当させない。
それに神様も貴方の振る舞いには呆れかえるわ」
「神なんてろくでもない存在ですがね」
急にハーディスの声が冷たい物に感じた。
驚いて顔を見ると微笑んでまた私の手を取る。
「流石に今度は私が何かお誘いする機会を考えなくては。
順番からするとカール様の次になるでしょうか。
それまでいかがわしい妄想で我慢いたしますので、どうか暴走しないためにもあまり私を遠ざけない方が身のためですよ」
起き抜けに変態で脅迫的な発言をされ、何だか先ほど感じた違和感が吹っ飛んだ。
恐らく気のせいだろう、何もかも。
「そう。とりあえず準備お願い」
未だ私の手に触るハーディスの手をぺし、と払うと、ハーディスはいつものように笑顔で手を胸に当て、かしこまりましたと頭を下げた。