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「ティアナは納得してるの?」
話題が振られて言葉に詰まった。
なにせ正面からぶつかってくるディオンとカールの方が良いと言い切っていたし、そもそもまだ何とも言えない状態だ。
「納得も何もまだ実感すら湧かないわ。
ハーディスはずっと執事として側にいたから」
「そうだね。
でも僕は、ハーディスがただ令嬢に仕えるという視線で見ていたとは昔から思っていなかったよ」
え、と驚くとハーディスは悪びれること無く、
「ディオン様に負けないくらいティアナ様の幼少期から恋い焦がれておりましたので。
さすが恋敵、おわかりでしたか」
「よく牽制されていたからね。
わからない方がどうかしてる」
「わかっておられない方が若干一名いらっしゃいますが」
「ティアナは無理だよ。そういうことに人一倍鈍感なんだから」
その通りですとハーディスが深く頷いて、何故か最後私の悪口で二人は戦友のような顔をした。
ディオンが私の名を呼び、何?と側に行く。
すると小さな紙の袋を渡された。
「それは香りの良い花とかを乾燥させた物で、眠るとき側に置いておくと香で気持ちが落ち着くそうだよ。
よければ使って」
眠れないという私の悩みに、いつの間にかこういう品を買ってプレゼントしてくれる。
私はそれを胸に抱きしめ、
「ありがとう。
早速今夜から使わせて貰うわ」
ディオンも満足したように頷いた。
「あ」
馬車に乗り込もうとしたディオンが振り返る。
「カール様、今回は城下町の関係もあって忙しいから僕に先にティアナへ連絡して欲しいと言ってきたんだ。
随分お忙しいようだけどそのうち連絡が来ると思うよ」
律儀に教えてくれるディオンに私は笑ってしまう。
カール様も私を優先して自分が先に出ることには執着しない。
本当に素晴らしい人達に交際を申し込まれていることを再認識した。
「ありがとう。
こうやって他の人のことを気遣えるディオンは素敵よ」
ディオンは目を細めて、お休みというと私に言って帰っていった。
「素晴らしい方ですね」
「本当に。
ディオンもカール様も私にはもったいないわ」
「では私にしておきましょう、そうしましょう」
「お風呂に入りたいの。準備お願い」
「わかりました。私自らお背中を流しますね、それはもう隅々まで」
「少しは二人を見習ってほしいものね」
冷めた目を向けると、ハーディスは嬉しそうに何故か微笑んだ。
「お嬢様のそういう目、私だけのものだと思うと興奮します」
「一度医者に診てもらったら?」
「お嬢様を数日ベッドで愛し続けられるレベルで元気です」
「は?」
屋敷に入りながら、意味のわからない会話をハーディスと続けて何だか疲れがドッと出てきて息を吐いた。