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「ディオンは相変わらず優しいんだから」
「誤解しないで欲しいな、特別優しいのはティアナだけだよ。
妻として迎えたいんだ、もっともっと優しくするよ、君が望むのなら」
急に男の人を感じさせる表情に変わってドキリとする。
ずっと可愛いところのある幼なじみのディオンと思っていたから、こういう不意打ちには慣れない。
「さっきの夢の話だけどね。
今が幸せだから余計そういう怖いことを考えるのかも」
ディオンの言葉にきょとんとする。
「この世界は生まれ変わりが信じられているから、そういうことを言う人も少なくない。
僕が調べていても過去に聖職者だったとか、罪人だったとか言う人々もいたんだ。
君がそんな魔法を持っているのは、過去に辛い思いをしたからこそ、人々を救いたいと強く願ったのかも知れないね」
ディオンの研究は魔法と個人の因果関係だ。
何故そんなに人によって使える魔法が違うのか、そういう事を研究している。
私の魔法は戦争にしか使えないものだと思い込んでいた。
だけれどあの100回の生贄経験で今がある。
ならこういう魔法に私が特化したのも少しは頷ける気がした。
「ディオンは凄いわ。
何だか色々モヤモヤしていたことが一気に軽くなった」
ディオンはわかりやすいほどにホッとしたような顔をして、その優しさが不安を消していく。
「流石は若き有能な先生。
色々と国王が頼りにしているだけあるわ」
「よしてよ。
国王が色々な者から意見を聞きたがるだけなんだ」
「そうなの?」
「うん。
国王は有能な人間なら身分を気にしないからね。
だかこそこの国は平和でいられるんだよ」
そう言ってディオンは前を見据える。
そこには子供達がお菓子を片手に笑い声を上げながら走って行き、後ろを親が困ったような顔で追いかけていた。
身体の曲がった老婆は笑顔で果物を売る店の女性と話に花を咲かせ、若い男達が大きな袋を背負って荷台に積んでいる。
兵士も時々見かけるが、あくまで見回り程度の気持ちなのかその表情に緊迫感はない。